竜と魔法使いと名探偵

~勇者になりたかった占い師と人を生き返らせたい死霊術師な名探偵の魔術事件簿~
安藤啓太
安藤啓太

22. ニコラ・アンドウの事情聴取(捜査4)

公開日時: 2021年8月15日(日) 22:59
更新日時: 2021年8月26日(木) 00:18
文字数:2,598

◆◆アンナ


 参加者の作品が破壊されたのだから、動機としての第一候補は大会の優勝だ。そのため犯人候補として有力なのは優勝候補者たちである。

 クレアのチームの他で特に話を聞かなければならないのは、ニコラ・クラウジウス、ジェームズ・トムソン、ケータ・アンドウのチームだ。

 私はまずニコラ・クラウジウスのチームに話を聞いた。

「私は探偵のアンナ・ハルトマンといいます。ギルトに頼まれて、とある事件を捜査しています」

「探偵とは。中々稀有だな。どんな事件なんだ?」

「お答え出来ません」

「ふん、そうか。<光の精霊>脱走事件です、なんて言えばお笑い種なのだが」

「そうですね。では、昨晩と今朝は何時に帰って、何時に来ましたか?」

「昨日は十八時まで作業、今朝は九時に解錠とともに入ったが」

「分かりました。その時、変わったことはありませんでしたか?」

「ふむ。例の<光の精霊>が脱走した件はあったよ。他は特にない。今朝はそれなりに忙しくてな。すぐに試運転のために二階に行ったよ」

「朝早かったのなら一階の試運転スペースは空いていたでしょう。なぜ二階に言ったのですか?」

「はっ、愉快なことを言うな。一階は<精霊>騒ぎで五月蠅うるさかろう。それに、勝手に<瓶>から出るじゃじゃ馬に絡まれてはかなわんからな。二階で静かに作業をしていたんだよ。それだけの事だ」

「その際、メンバーに変わったことは?」

「『メンバーに変わったこと』と言われても答えに窮する」

「質問を変えます。今朝はどんなことをしましたか?」

「魔力量の測定、動作の確認と修正、そのために必要な道具と参考書を持って移動し、試運転をし、帰ってきたのだ。それだけだ」

「今朝、解錠の直後、中に誰かいたなど、何か気づいたことは?」

「ギルドの人間が鍵を開け、立ち入ったとき、中に人の物音や気配はなかった。武道場に入った時も同じだ。中にはただ一人、輝く『お嬢さん』が我々を待っていただけだ」


「昨日の作業はどのようなことを?」

「今朝と同じだ」

「その時は場所はどこですか?」

「一階の、今我々がいるところだよ」

「なぜ今朝は二階に行き、昨日はここで作業したんですか?」

「さっき言わなかったか? 今朝は特段やかましかった。昨日はそれほどでも無かったさ」

「昨日、貴方は入口の荷物検査で魔動工具を没収されたようですね」

「ああ。あの受付は話が分からん奴だった。良い加工道具は作業効率を上げるというのに」

「魔動工具以外には何か入っていましたが?」

「良質な魔石にナイフなどが入っていたと思うが、工具が無いならば用はあるまいと思ってな。その日に追加で道具を持ってきただけだったから、荷物を全部預けた」

「鞄の大きさはどのくらいでしたか?」

「一般的な鞄だよ。何センチ程度だろうか。大体三十リットル程度の背負い鞄だ。中身は多くは無かったが」

「そうですか。分かりました。じゃあ最後に、魔道具を見せていただけますか?」

「触れるなよ」


 魔道具である手袋と灰入りの瓶を見せてもらったが、傷などは確認できなかった。また、ニコラのチームメンバーの魔術紋が混ざって残っているのが分かった。チームメンバーにも話を聞いたが、何もおかしな点は見つからなかった。


◆◆アンナ


「あれ? アンナさん、でしたっけ?」

「お久しぶりです、ケータ君」

 次に話を聞いたのはケータ・アンドウ、ローランの考える優勝候補の一人だ。派手ではないが、重たく圧し掛かるような雰囲気は、確かに<土魔術>系統の魔力量に恵まれている証拠だ。今のところ他の有力者に比べて全くの無名だが、実力は十分備えていると思った。


 彼はローラン君の幼馴染だが、私とはほとんど面識が無い。

 ローラン君とは事件で知り合ってから何度か相談を受け、時に<固有魔術>で協力して貰って事件を解決してきたから今の関係がある。とはいえ基本的には、彼は探索者としての活動が無い日に時々相談室を訪れてはダラダラするだけだったため、アンドウを紹介してもらうようなタイミングはなかった。変な奴に懐かれて私は大変なのだ。


 ケータ君のチームはすでに発表を終えており、魔道具の微調整をしながら他チームの分析をしていた。

 彼の作業スペースは魔術的な染みや汚れは少なかったが、床は砂でじゃりじゃりしていた。


「事件の事で、お話を伺いたいのですが」

「何の事件ですか?」

「大会の不正に関してです」

「?......ああ、クレアさんの<精霊>の件ですか」


 私が話を伺いたいと申し出ると、ケータ・アンドウは<光の精霊>の一件の事だと直ぐにピンと来た様子だった。


「今朝は何時ごろに入場しましたか?」

「えっと、九時半ごろですよ」

「朝一番に参加しようとは思わなかったんですか?」

「最近は孤児院に泊めてもらっていて、昨日は食器洗いとか洗濯物を手伝っていたんですよ」

 有力者の中で唯一、朝一に入館しなかったのがアンドウのチームだ。アリバイ証言が本当かは他のメンバーに聞けば分かるだろう。全員共犯でなければ。

「今朝、何か妙なことはありませんでしたか?」

「妙って言ってもなぁ。その<光の精霊>の騒動は、僕が来た時にはすでに終わっていたので」

「<精霊>の件は誰に聞いたんですか?」

「なんだか妙だったので職員に聞いたんですよ」


「なるほど。では、昨晩は何時ごろに帰りましたか?」

「十七時くらい、か、もう少し前くらいかな」

「その後、何処に行きましたか?」

「夕飯の買い物をしに市に行って、孤児院に帰りましたよ」

「店の名前は分かりますか?」

「えっと。すみません、忘れました。恰幅のいいおばちゃんがいる八百屋です」

「わかりました。それでは、昨日は何をしていましたか?」

「昨日はー、ここで改良したり、そこの試運転スペースで実験したりかな」

 ケータが指さしている方を見ると、一番近い試運転スペースには他に比べて妙に砂が多い場所があった。

「あそこの、砂汚れが多いところですか?」

「はい、そうです」

「いつもあそこなんですか?」

「大体は」

「わかりました。じゃあ......」


 ケータのチームの魔道具は杖だ。肘から先くらいの細長い形状で、表面は綺麗に削られていた。<刻印>を刻むのではなく、魔法陣の中に入れて内部に<書き込む>タイプ。持ち手側には土属性の大きな魔石が付いていた。隅々まで見せてもらったが傷や不自然な魔力の痕跡は見つからなかった。また、チームメンバーにも話を聞き、一応ケータのアリバイは立証された。


2021/08/15、加筆修正しました。

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