竜と魔法使いと名探偵

~勇者になりたかった占い師と人を生き返らせたい死霊術師な名探偵の魔術事件簿~
安藤啓太
安藤啓太

21. 途中経過

公開日時: 2021年8月15日(日) 22:58
更新日時: 2021年8月26日(木) 00:18
文字数:3,082

長くなりました。(自称)名探偵のターン!


◆◆ローラン


 俺が作業机に戻ると、アンナとサンティーノが待っていた。


「私を待たせるとは、不届きですね」

 怒っていなさそうな顔でアンナはそう言った。

「それで、ローラン君。有力な参加者の魔術は一通り見たんですね?」

「ああ。アンナは?」

 逆にアンナに捜査状況を聞くと、アンナは<監視水晶>の映像を見せてもらったようだ。

俺はアンナに耳打ちした。

「随分サンティーノさんを連れまわしているようじゃないか。お前、弱みでも握ってるの?」

「はぁ!? そんなわけ無いじゃ無いですか! 私を何だと思ってるんですか!」

「でも、今日は付きっきりで案内してもらって、機密っぽい情報を入手したんだろ? よっぽどの事じゃないのか?」

「以前事件を解決したと言ったはずです。私は徳が高い名探偵なので、恩を感じているんでしょう! まったく、私をそんな目で見るなんて、それが人にものを頼んでいる人間の言葉ですか!」

「いや、ごめんごめん」

 アンナはぷりぷりと怒っていた。


 話を戻す。


 鍵に見張り、<水晶>、それに魔術を感知する結界が張られており、夜間に侵入するのは難しそうだった。

「武術館はギルドの管轄だ。そんなところに忍び込むリスクなんて取るのか? だったら、自然発生する<自然精霊>が気まぐれに壊したって方が現実的かもしれない」

「おや、弱気ですね。まだそんなことを言っているのですか」

 アンナは自信たっぷりに笑った。

「名探偵あるところに事件ありです。これは、事故ではありませんよ。状況が不自然です。狙って破壊したと考えるべきですよ。言ったはずです」

「わかった、じゃあ頼んだ。任せるよ。それで、なんで俺を待ってたんだ?」

「それぞれの魔術に関してです。貴方の能力はそれなりに便利ですから」

 俺はさっき得た情報を伝えた。


「なるほど。かなり分かってきましたね。ですが、まだ犯人が特定出来ないな......」

「何がどうなるほどなのか、教えてもらえないか?長い時間をかけて作った魔道具がぶち壊されたんだぜ?これでも頭にきてるんだ」

 思い出したら腹が立ってきた。『それが出来たら凄く良かったよ』だって? ムカつく奴だ。

「落ち着いてください。分かって当然のことも冷静にならなければ分かりませんよ。貴方には冷静になったところで分からないかもしれませんが」

 人に落ち着けと言っておいて煽るとは。

 何が徳が高いだよ。いいけど。


「そうですねぇ。じゃあまずは前提の話から。たいていの事件で共通していますが、犯人は『犯行を行ったのが自分である』ことが露呈することを恐れます。当然ですね。だから犯行の際には知恵を絞ります。

 でも、それはいわば次善の策でしかありません。可能ならばもう一段階上を狙います。それは、事件が『犯人が存在する犯行である』ことが分からないようにすること。事故や自殺に見せかけるケースです。今回の犯人はその点を最重要視しています。


 ローラン君もチームメンバーも、貴族社会でもともと顔が広かったわけではないのでしょう? その為、怨恨の線は薄い。犯人の目的は、他のチームを邪魔して、優勝するためでしょう。不正がバレたら一大事ですからね。


 それを踏まえて、状況から特定できる『凶器』の特徴をお話しましょう。

 第一に、魔弾の威力には制限がありました。

 結界の性能がどの程度正確に破壊時刻を割り出すか分からなかった犯人にとって凶器発動と標的破壊のどちらも警報に引っかかるのは危険だったのでしょうし、単に発動制限のある魔術なのかもしれません。いづれにせよ、部品だけが壊れ、火災などに至らない程度の威力にとどめるしかなかったんです。


 そこで、それぞれの魔道具の様子を考えていきます。まずはクレアさん達のチーム。

 クレアさん達の<精霊>はご存知のように、今朝、<顕現>した状態で武道館にいました。クレアさん達からお話を伺った事で分かったんですが、何者かが<精霊瓶>の<封>だけを破壊していたようでした。

 おそらく、ローラン君の事件の犯人と同一犯が行ったのでしょう。

 犯人は事件の発見を恐れていますから、<精霊瓶>そのものを割ってしまっても問題ありませんよね。<精霊>かやった事にすれば良い訳ですから。

 でもそうしなかった。瓶を破壊すれば修復が遅くできたはずなのに。おそらく出来なかったのでしょう。あるいは事態が大事になることを恐れたか、他の理由か。

 いずれにしても、発見を恐れる犯人が無駄なことをするとは考えにくいので、クレアさんの<瓶>を破壊出来ない程度の破壊力だった、という仮説が成り立ちます。


 次に、破壊するのはローラン君の魔道具である必要が無かったという説を考えてみます。つまり、『破壊力の制約によって、ローラン君の魔道具なら破壊出来るから破壊した』という説です。


 他の参加者の魔道具を破壊する場合を考えてみます。

 まずニコラさん。彼の魔術を破壊する場合、灰の瓶か手袋を破壊することになります。灰を破壊する場合、容器を壊しても灰を掬い直せばまた使えますね。灰をどこかに捨てる、あるいは燃やすような機能は持っていなかったのだと思います。壊すなら手袋になります。これも出来なかった。手袋を破壊すると凶器が明らかになるか、完全に消失させられるような火属性のような属性では無かった。


 続いて、ジェームズさんの魔術を破壊する場合。彼の魔道具は猟銃を使用しており、改造は内部への魔術的書き込みですから、<瓶>も割れないような魔術では破壊は不可能でしょう。手袋の破壊は、ニコラさんの魔術と同様に出来なかった。


 というわけで、どちらも不可能です。仮説が正しい場合、有力者の魔道具のうち、破壊できるローラン君のチームだけだったから狙われたというわけです」


「アンドウのチームは?」

「ケータ君の魔術は杖に魔石が埋めてあるタイプとのことなので、ローラン君の魔術と同様の方法で破壊できたと思います。しかし、犯人にしてみれば、彼の魔道具よりもローラン君の方が恐ろしかったのでしょうね。あるいは、位置が破壊しにくかったのかもしれません。

 そして、このことから、『犯行』には回数制限があることが推測されます。単にリスク回避かもしれませんが」

「回数制限があるなら、使用する度に媒介が減っていくニコラの<魔術>が有力か?あらかじめ目標に<灰>をつけておいた。......だが、魔力紋が残るし、武道館に侵入しないといけない」


 触れていないところに作用する魔術でも、空間的に繋がっていなければ起動しない。魔力が直接届かなければいけないのだ。だから、ニコラが<枯れ木の華>を使用する場合、武道館に忍び込む必要がある。

 いずれにせよ、武道館に忍び込む方法が分からない。

「忍び込まないのか?いや、俺が見た限り、自律的に動く魔術は無かった」

 遠隔で使用する理論があるのか?

 <世界の小記録簿>は秘匿された情報にアクセス出来ない。なんでこう、知識ってやつはいつも足りないんだろうか。


 一体どうやって......? 何か方法は......


 アンナの話では、犯人はおそらく『犯人のいる犯行』である証拠を隠滅することに注力して、犯行を行っている。犯人を断定すること以上に、『事件であることを立証することが出来るか』が焦点になるかもしれない。


 俺のリアクションを完全に無視して、アンナは質問してきた。

「今日はいつ頃帰りますか?」

「ああ、まだかかるよ。ここが閉まるのは18時だろ、結構ギリギリまでやるつもりだけど...」

 トーナメントへの準備に気を使ってくれたのだろう、

「キリがいいところまでやったら呼びに来てください」

とだけ言ってアンナは別な作業スペースに向かった。

2021/08/15、加筆修正しました。


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