人類が武器を超える時/Out There

Don't think, feel!!!!!
タツマゲドン
タツマゲドン

Antaircraft

公開日時: 2021年7月11日(日) 20:00
文字数:5,295

 兵士達が機械の兵士共と戦う最中、アダムとクラウディアがサングラスの男と戦い始め、リョウとレックスが引き返し始めた頃。


 ハンはロサンゼルス市中心部のビルの指令室でオペレーター達と籠っている。


 一見落ち着いた雰囲気を見せるアジア人は、左手をデスクの上にある、丁度掌が乗るサイズの黒い台へ置いていた。


 手をその台に置き、神経を通し使用者の思考によってコンピューターを操作する入力装置の一種だ。ハンが自身のトランセンド・マンとしての情報処理能力を活かすために作ったのだ。


 頭で考えた事が卓上のモニターに反映され、素人から見れば不可解なプログラムの文字群が、常人には全く追い付かないスピードで目まぐるしく生成される。


 ハンがほっと一息つく。左手を台から離した。画面が止まる。


「ついに出来たぞ。早速送ってくれ」

「はい!」


 隣の副官を務める女性オペレーターが張り詰まりながらも張り切った声で答え、キーボードを叩く。


「送信開始しました」

「敵の航空戦力の接触までは?」

「あ、あと三十秒です」

「そうか……どうか間に合ってくれ」


 声には冷静さが保たれていたが、一方で混じる焦燥。もう一度思考操作インターフェースに手を置き、自然と虚空を握る。


「送信完了。あと二十秒です!」

「即席だが、これで試すしかない」


 ハンの意識は電気信号の流れへ集中した。電気信号はコンピューターから遠く、サンタモニカの観測所。


 エネリオンが電気信号のネットワークを通し、そこへ送られる。


 雷は非常に電気抵抗の強い空気中を進む。高電圧のあまり電気が無理やり強行突破するのだ。だがほんの一瞬であり、長くは持続しない。


 ハンの能力は「電子操作」であり、直接電子を操作する力と間接的に電気エネルギーを操作する力の双方を持っている。今回使うのは後者だ。


 ハンの意識は自分の肉体が居座るビルの指令室から、電気信号を通る――戦場のすぐ近くの観測所。


 観測塔の頂上にあるエネリオンレーダー、そして電気を観測用エネリオンに変換する装置。信号を送り、装置の機能を停止。


 次にレーダーへ送られる余剰電気を空気中へ流し込む。空気の導電性を「操作」する事で通常よりも遥かに電気が流れやすくなるのだ。


 観測所には高出力のレーダーが必要、したがってコンデンサー等で昇圧した遥かに高電圧の電気を扱う。


 そんな強力な電気が一直線に放出――空気を伝わり、味方達が苦戦する戦場の上空を通過――軌道上にあった物体、地球管理組織側の無人小型爆撃機へ。


 無人機は高電圧を受け過電流が流れた故に動作を停止、そして金属火花によってエンジンやバッテリーや燃料が出火、しまいには爆発した。


 残った電気や爆発が周囲へ拡散し、並んでいた他の無人機が停止し爆発する。


 だがハンは結果を確かめず、次弾を撃つ。電流が空間へ、そして無人機の群れへ。空中で爆発。


 コンデンサーに規格ギリギリに溜めた電気を断続的に発射する。どれだけこの即席の電子砲が強い電圧とはいえ、大量のマシンを相手にするには分が悪い。


(僕にはこれだけしか出来ない。皆、他を頼む!)





















「何だ?!」


 兵士の一人が空を見上げて言った。何せ遥か遠くの夜空に星よりも明るい光点が現れたのだから。それも突然、大量に。


「上だ!」


 今度は別の一人が真上を指さした。指に沿って見上げる。空気中で光る青い直線――直線は前方の光点の群れに、後ろには観測塔の頂上に。


 光点は徐々に光量を上げ近づき、正体は爆発だと知ったのは高倍率赤外線スコープを覗いてからだ。


「こりゃハンだな。あんな事が出来るのは奴しか居ねえ。お前ら、俺達も負けてられねえ! 一匹も逃さず撃ち落とせ!」


 ロバートの後に続く数々の兵士共の叫び。『有効範囲到達まで残り十秒』と通信機のスピーカーが告げる。


「なあお前、カモ狩りは得意か?」

「まあまあかな。昔親父に連れて行ってもらったのを覚えているよ」

「誰がカモを一番撃ち落とせるか、勝負だな」


 重機関銃や高射砲や二足歩行戦車のサブマシンガンを上空に構える兵士達が嵐の直前、最後まで楽しもうと意気を見せる。ジョークには笑ったが、誰もが緊張に心拍数を上げていた。


「アンジュ、無理すんなよ」

「分かってます。でも皆さんを守ってみせます!」


 張り切っている一方、少女は震える体を制御しながら今も送られ続けている敵の砲弾を見えざる障壁で防いでいる。その証拠に前方で砲弾が飛翔中に爆発している。


『ピーター、ヘマすんなよ』

「大丈夫です。俺を何歳だと思ってるんですか」


 二足歩行戦車に居座るピーターは上司からの通信に反抗してみせた。


 腕を包むように装着されている骨格付きコード。装着者の疲労を抑制しつつ、腕の動きに合わせて二足歩行戦車の腕も動く。


 操縦席には人が浅く腰掛け、膝を曲げて立つ姿勢で搭乗者が入る。足にも同様に動作検出装置が付いているので、足を動かすスペースも必要なのだ。


 ウォーカーの指は自分と同じく正確に動くが、少し遅く感じる。人の一・六倍のスピードを出し、体格は人間の二・五倍。速度を体格で割れば体感速度は〇・六四倍。


『五、四、三、二、一……』

「撃てえーーーーー!!!!!」


 ゼロ、と告げる声よりも兵士達の方が引き金を先に引いていた。


 一斉に砲塔が火を噴く。上空へ向けて発射される数え切れない弾丸。


 空中で起こる爆発が激しさを増す。同時に地上の敵勢力の押す勢いも増えた。


 爆発は食い止めたいと思う反乱軍達の意思を無視し、徐々に接近する。地上の機械獣の群れも押し寄せている。


 空中で爆発、低い位置だった。投下中の爆弾に命中したのだろう。連射力のある高火力兵器を押さえられた対地側は次々と手榴弾を投げ込む。数秒後、あと少しで塹壕まで辿り着きそうだった機械獣が爆風に吹き飛んだ。


「何か良い考えないか?」

「考えていたらとっくに動いているさ」


 前線でロバートとルーサーが悩み合う。離しながら銃を乱射し榴弾筒を発射するのも忘れない。


 その後ろから人影が走って寄って来ていた。ロバートの部下でスペイン系のスナイパー、シモンだ。両手に銃を抱え、背中にも大量の銃を背負っている。


「コイツでどうです?」


 背負っている物を目の前に見せ、ロバートが高揚し満足したように答えた。


「最高だ! やるぞ!」


 銃身が通常の二、三割も長い重機関銃だった。代わりに口径は通常のライフル弾よりも狭い。長銃身故に重く、発射薬は高速を得る為に特殊で、機関銃ならではの連射速度もあり、兵士一人で扱うには負担が大きい。


 シモンからひったくる様に受け取り、塹壕に身を潜め、銃身中央に付いた三脚を地面へ着ける白人と黒人。早速狙いを付け、躊躇わず引き金を引いた。トリガーを引くだけで反動の強力さが分かる。


 弾頭重量二十五グラム、弾速は秒速千七百メートル、それが秒間二十発。低質量だが高速と小口径により貫通力は高く、これを受けた機械獣達は容易く機関部を貫かれてしまう。


 周囲を見れば近距離で高火力を持つサブマシンガンや他の機関銃、榴弾筒や迫撃砲も猛威を振るっていた。


 斜め後ろで閃光――直後熱を帯びた爆風が爆音と共に服越しの肌に伝わる。離れていても威力は絶大で、爆炎に巻き込まれた兵士が数名垣間見えた。


 視線を見渡すと、他でも爆弾が落とされたらしく、土砂と共に地面や車両を巻き上げていた。


(不味い!)


 アンジュリーナは右手を前方の砲弾の群れに向けながら、無意識に左手を上空へ。広い範囲に対する知覚に優れている彼女は、降下する爆弾や空対地ミサイルを認識し減速させる。その衝撃で信管が刺激され、空中で爆発が起こる。少女はこれまでにない力を発揮していた。


 観測塔から放出される雷は相変わらず航空戦力を撃ち落としてくれるが、この場に居る反乱軍達の負担は減るどころか増えている。


『ピーター、ロケットの存在忘れんな。ぶちかましてやれ!』

「あっ、そうでした」


 二足歩行戦車が二本の腕を閃光の瞬く夜空へ向け、銃口の発光と共に二丁の銃から空薬莢が次々と地上へ落ちる。そして、肩に付いた箱形ロケット連装砲が地上の戦場へ。


 ロケット連装砲の動作は単純で、簡単な思考操作で動く。正面モニターの中央部にロケット砲に搭載されたカメラ映像が映る。前方でうごめく金属体の群れに照準を合わせる。


『幾つ残っている?』

「十八個です」

『ようし、ケチるなよ。大量生産、大量消費、大量廃棄の素晴らしさを見せてやれ!』


 右肩から九発、左肩からも九発、五秒以内で全部がロケット噴射。


 十八発のロケット弾は扇状に飛翔し、着弾と同時に機体を破片にして空中に巻き上げた。


「……でもこれその場しのぎですよね?」

『補給すれば良い』

「前向きですね……」


 空になったロケット連装砲を意識から外し、上空を飛ぶ航空機や爆弾を撃ち落とし続ける。





















 荒野の中で戦いを繰り広げる三人の男女。


 片方は小柄なナイフを持つ少年と長身で細剣を握る女性、もう片方はナイフを手にする大柄なサングラスの男。


 男性は二人に側面から挟まれている。左右から攻撃が飛んで来る。


 男性の右方から素早く振られる小ぶりなナイフ。男のナイフがそれを次々に受け止める。左方から迫る長い剣を、腕で軌道を逸らし躱す。


 アダムが八の字連続斬撃を繰り出しつつ前進し、男がナイフでガードしながら後退。もう片側のクラウディアが隙を突き、刃先が男の頭へ一直線。


 男が左手で剣の刀身を掴んだ。血が滲んでいたが、相手は表情を歪ませもしない。掴んだ刃をアダムの方へ、丁度上から来るナイフを防いだ。


 右に握るナイフの先端が少年の腹へ、アダムは身を引いて避ける。左で止めた剣を固定したまま女性へ横蹴り、クラウディアが空いている左手でブロック。


 一歩下がったアダムが進路を逆転、跳び膝蹴り。クラウディアが反対側から左ミドルキックを仕掛ける。


 正面から前蹴りを出して膝と衝突、少年が後ろへ吹き飛んだ。後方に対し、体を回転させ既に出した足で回転蹴り、女性の足に当て彼女の体勢を崩した。


 サングラスの男が左手で掴んだ剣を投げ捨て、クラウディアが後退する。代わりにアダムが前へ出て刃を振るう。


 ナイフで左側頭部、喉、腹、右側頭部――左裏拳、左上段蹴り、右上段回し蹴り、身を屈め右下段回し蹴り、体勢を戻し、前進に合わせ一薙ぎ。


 全てを躱し、最後の一撃を同じくナイフで迎え撃ち、競り合う。隙を見せた後ろから剣先。男が左半身を後ろに細剣と向かい合った。


 顔面、右肩、左上腕、腹、右腿、喉、左脛――刺すための構造をした剣は男の左腕に逸らされ、軽い切り傷を作るだけに留められる。後ろでナイフを押し付け合うのも忘れない。


「やあっ!」


 掛け声と共に胸に向かって勢いの付いたクラウディアの突き。男の左腕が横からその軌道を逸らそうと伸びる。


 エネリオンがクラウディアの脳から腕を通って掌へ――手に握られた武器へ流し込まれ、刃が不可視の素粒子を纏う。


 刃に腕が触れ、逸らそうと横へ。その瞬間、刃に纏わり付くエネリオンが男の腕へ送られ、その力を発揮した。


 今までは切り傷程度に収まっていた筈が、男の腕から血が噴き出た。


 エネリオンによって接触点の分子結合力を弱める、クラウディアの能力「結合操作」なのだ。


 剣が引き戻され、再び心臓を狙う。男の上半身が横にずれ、間一髪で避けた。


 後ろで拮抗する抵抗が消えた。首を反対へ向けた時、屈んだ少年の下段回し蹴りが男の足元に――脛に衝撃。


 転げ地面を背に、視界に女性から振り下ろされる剣を認めた。


(離脱だ)


 サングラスに表情を隠したままの男が、首にある輪に手を触れる――エネリオンが体表から首輪を通って男の中枢神経へ、中枢神経からやりとりを交わし首輪を通って体中へ、エネルギーが身体の限界を超えた過剰な流れを作る。


 男の視界に映る細長い刃が遅くなった――正面から腕へ、ゆっくり接触。


 タンパク質で構成されている腕は無傷のまま、金属の鋭い剣を受け止めていた。先程の出血が嘘のように。


(やはりあの首輪か!)


 クラウディアは攻撃が効かなかった事より、以前このサングラス男を逃がした時に起きた出来事を思い返し、確信した。首輪がエネリオンの流れを活性化させているのが見える。


 仰向けの身体が起き上がり、女性の操る刃がまたも襲い掛かる。男の腕が刃を阻み、切断される事なく押し返した。


 直後、サングラスの男は背中に強い衝撃を感じた。クラウディア視点では少年、アダムが相手の背後から膝蹴りを見事命中させているのが見えた。


 だが相手は負けず、踏み止まって体を百八十度ターン。直後、裏拳をアダムの側頭部に決め、飛ばす。


 倒れた少年と再び襲い掛かる女性を後に、サングラスの男は荒野を駆け姿を消した。


「大丈夫か?」

「今のは何だ? 明らかに強くなっていた」


 クラウディアは心配で声を掛けたが、アダムにとっては痛みこそ大した事は無さそうだが、驚きの方が強かったらしい。


「その話は後だ。早く皆を助けるぞ! 動けるか?」

「ああ」


 相変わらず抑揚のない平常通りの声だったが、普段とは違って安心感があった。彼はいち早く起き上がり、すぐに足を動かし走る。


 クラウディアが少年の背中を追い掛け、前線で窮地に追い込まれているであろう仲間達の元へ急ぐ。


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