ワイルド・ソルジャー

世紀末を生き抜く傭兵と軍人のバトルアクション
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第16話 第3の任務

公開日時: 2021年8月15日(日) 10:25
更新日時: 2022年3月17日(木) 22:05
文字数:3,718

 司令室でビデオレターを見てから数日後、司令室からの連絡が来た。

 ついに敵と決着を付ける時が来たのだろうか。2人は準備万全の状態で司令室に入った。


「よく来てくれた、諸君。軍の偵察隊の働きによって、オズワルドとウェアウルフ隊の居場所が判明したのだ」


 ウィリアム司令官は挨拶をしながら結果を報告した。敵の居場所が判明したということは、今度こそ出撃任務が下されるということだろう。


「ウィリアム司令官、ついに戦う時が来たのですね。私たちはいつでも準備出来ております」

「よし! しばらく戦って無かったから、久々に血が騒いで来たぜ!」


 2人は元気よく返事をした。休暇が続いていた2人にとって、ずっと待ち続けていた任務だった。

 もちろん、今まで引き受けた任務よりも過酷な戦いになることは承知の上だ。


「幸い、奴らはまだこちらに攻め込む準備は出来ていない。奴らを始末するなら今が最大のチャンスだ。この地図に奴らの居場所の目印を付けておいたから、そこに向かってくれ。……必ず生きて帰って来い」


 ウィリアム司令官はそう言って2人に地図を渡した。彼の見送り方がいつもと違うのは、今回の敵は今まで以上に強く、2人の身の危険を案じていたからだ。

 2人は必ず生きて帰ってくることをウィリアム司令官に約束し、司令室を後にした。

 2人は軍事基地の外に出て軍用車に乗ると、ウィリアム司令官から渡された地図を見て目的地の確認をする。

 軍事基地から遠い場所にある山奥のジャングルに敵の部隊が潜んでいるようだ。

 今回もハンニバルは運転席に、マティアスは助手席に乗って出発した。

 ハンニバルは相変わらず猛ダッシュで駆け抜けるが、目的地までは遠いので到着までに1時間は掛かると思われる。


「ハンニバル、この戦いを終えたらこの国に平和がやってくると思うか?」

「さぁな。今回の任務の敵を始末すれば、この国に居座る他国の残党兵はいなくなるはずだ。だが、俺はこれで終わりになるとは思わない。俺はお前と一緒に生きて帰ることが出来ればそれで満足だぜ」


 ハンニバルは一瞬真剣な表情になったが、その直後に明るく振る舞った。マティアスも気にせず笑顔で返事をした。

 出発して1時間ほど経過し、ついに目的地のジャングル付近に到着した。2人は敵に見つからないような場所を探して車を停車させる。

 2人は緊張した様子でジャングルの中へ入り、慎重に少しずつ進んでいく。

 奥に進んでしばらくすると、複数のテントと、訓練をしている兵士達の姿があった。

 その場にいるのは10数人の兵士と、顔にガスマスクを装着した大柄で筋肉質な男だ。

 ガスマスクの男は半裸のジャケットを着ており、手には大きな刃を装着したアサルトライフルを持っている。

 ウェアウルフ隊という名前の割には人狼らしい敵はいない。敵の数も少なく、ここにいるのは少数の第一部隊に過ぎないことが分かる。

 2人が隠れて奇襲を仕掛けようとしたその時、どこからか遠方からハンニバルの頭部目掛けて弾丸が飛んできた。

 ハンニバルは弾丸が頭に直撃しても無傷で、すぐに弾丸が飛んできた所に向けて砲撃を数発放つ。

 すると、遠方にいる敵のスナイパー数人が砲弾の爆発の衝撃でふっ飛ばされているのが見えた。


「私達がこのジャングルに足を踏み入れた時点で、既に敵に見つかっていたようだ」

「俺達に安全地帯は無ぇってことだな。マティアス、まずはあの部隊から片付けるぞ!」


 2人は何の迷いも無く敵の訓練場に入り込む。敵も最初からこちらの存在に気づいていたのか、攻撃体勢に入っていた。


「軍の奴らが我々の居場所を嗅ぎ付けて来やがったな。野郎ども、ウェアウルフ隊の強さを思い知らせてやれ!」


 ガスマスク男が言葉を発すると、敵は一斉に銃撃を仕掛けてきた。

 マティアスはスタングレネードで敵を怯ませた後に攻撃する作戦に、ハンニバルはいつも通り力任せにバズーカで砲撃を放つ。

 周辺の敵はスタングレネードで一瞬怯んだが、すぐに目を開けてこちらの攻撃を回避した。

 ガスマスク男にはスタングレネードは全く効かず、手に持っている銃を連射しながら徐々にこちらに近づいてくる。

 2人はこの日の為に日々トレーニングに励んでいた為、今更雑兵ごとき敵では無いと思っていた。

 しかし、敵は全員が改造人間で構成された精鋭部隊だ。敵の雑兵も1人1人が体力や身体能力を強化されており、簡単に蹴散らすことは出来なかった。

 それでも2人は無数の弾丸を浴びつつも、それぞれ手榴弾と砲撃による範囲攻撃で少しずつ雑兵を仕留めていく。


「ハンニバル、私は雑魚の始末をしてくる。お前はそいつの相手を頼んだぞ」


 マティアスはハンニバルとガスマスク男の元から一旦離れ、雑兵の処理に向かって行く。

 すると、こちらに接近してきたガスマスク男が大きな刃が付いた銃で勢いよくハンニバルの左腕を斬りつけた。

 ガスマスク男のパワーと鋭利な刃の威力が重なり、さすがのハンニバルも血を流さずにはいられなかった。


「やってくれるじゃねぇか!」


 そこでハンニバルもつかさず渾身の力を込めた拳でガスマスク男の胸を殴った。

 しかし、ガスマスク男の体は鋼鉄のように硬く、手応えが全く感じられない。


「何だこいつ! 馬鹿みてえに硬ぇぞ!」


 ハンニバルは自分の攻撃が通用しない相手を目の前にして驚く。

 物理攻撃がほぼ通用しなかった敵は過去にも戦ったことがあるが、自分より硬い肉体を持つ改造人間と対面するのは生まれて初めてだった。


「凄いパワーだな。なかなか良いパンチだ。だが、鋼鉄の体を持つこのクラーク様には傷一つ付けられないぜ!」


 クラークと名乗るガスマスク男は外見は普通の人間とほぼ変わらないが、肉体改造で鋼鉄のような鉄壁の肉体を手に入れていたのだ。

 ハンニバルは予想外の敵を相手に動揺する。しかし、今ここでクラークが標的をマティアスに切り替えてしまえば、雑兵達と戦闘中のマティアスの身が危ない。

 クラークが再び銃剣で斬りかかり、ハンニバルはそれを受け止める。

 耐久力はクラークが上だが、腕力ではハンニバルが上回っていた。

 ハンニバルはクラークがその場から動けないように、力いっぱいクラークの銃と腕を押さえつける。


「ぐぬぬ……貴様、何を考えている!? このままじゃお互い身動き取れなくて勝負にならないだろ!」


 クラークは必死にハンニバルの手を解こうとするが、武器も腕も封じられて身動きが取れない。

 腕を封じられたクラークはハンニバルを蹴り始めるが、クラークは上半身に比べて下半身は貧弱なのか、ハンニバルにダメージは無かった。


「なんだそりゃ? お前、ただ硬いだけで武器を使えなくなると何も出来ないんだな! ハッハッハ!」


 ハンニバルはクラークを嘲笑いながら言う。

 クラークはガスマスクを被っていて素顔は見えないものの、そのガスマスクの下の顔を真っ赤にして怒っていた。

 しばらくすると、雑兵を仕留め終えたマティアスが戻って来た。

 雑兵も1人1人が強かったせいか、マティアスは結構なダメージを受けている。


「ハンニバル、そいつの手を放せ。……そして、そこのガスマスクの男、今度は私が相手になってやる」

「おい、マティアス。結構ダメージを受けてるじゃねえか! その体で無茶すんなよ!」

「良いから手を放せ!」


 ハンニバルは傷を負ったマティアスを見て戸惑ったが、マティアスにも作戦があるのだろうと思い、彼の言うことに従った。

 そしてハンニバルはクラークの手を放すと、銃を奪い取る。


「貴様! 俺の武器を返しやがれ!」

「あっちにいる俺の相棒を倒せたら返してやってもいいぜ。まさか改造人間のくせに、武器が無いと生身の人間にすら勝てないってことは無いよなぁ?」


 ハンニバルに挑発されたクラークは怒りつつも、武器を持っていない状態のままマティアスのところへ走っていった。

 マティアスは自分のところへ走ってくるクラークを無言で待ち続けている。

 そして、クラークがマティアスに接近したと思った瞬間、クラークの足元が爆発し、上空に大きく吹っ飛んだ。

 マティアスは倒した雑兵から地雷を奪い、それを地面に設置していたのだ。

 上空から落下し地面に叩きつけられたクラークは地雷の炎で下半身が燃えている。


「熱い! 助けてくれ~!」

「ほう、お前は火に弱いんだな」


 マティアスは熱がっているクラークを見つめ、微笑していた。

 その様子を見ていたハンニバルも勝利を確信したような表情で近づいてくる。


「こんな小せぇ火で熱がっているようじゃ改造人間失格だぜ。まぁ安心しろ。今から冷ましてやるからよ!」


 ハンニバルは下半身が燃えたままのクラークを持ち上げ、川の流れる音が聞こえる方向へ運んでいった。

 その場所から見下ろすと、そこには美しくも底が深い滝壺がある。


「おい、俺を殺したら隊長とオズワルド博士の居場所が分からなくなるぞ! それでもいいのか!?」

「残りの奴らの居場所は俺達で探すさ。お前は改造人間としてはまだまだだが、俺はお前と戦えて楽しかったぜ」


 ハンニバルは笑顔で言いながらクラークを滝壺に向かって投げ落とした。

 クラークは足を動かすことも出来ず、上半身だけをバタつかせながら深い滝壺の底へ沈んでいく。

 その様子を最後まで見届けたハンニバルは、マティアスの元へ戻っていった。

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