悠奈を守る為とは言え、この三人での同居生活は些かおかしい気がする。
取り敢えずイヨが悠奈と同居するのは、あの屋敷にはあやかしを操っている親玉らしき存在がいるので仕方ないのだが、どうしてわたしまでとマリアは思う。
イヨがあやかしを消滅できても、一緒に悠奈を消滅させてしまうかもしれないと言っていたので仕方ないのだが、本来一人を好むマリアとしては、正直苦痛でしかない。
プライバシーがどうとかではないのだが、マリアは正直イヨを完全に信じている訳ではない。
イヨが言った通りで、あの屋敷の地下には強大な妖力を持った存在がいる事は確かだが、イヨがそのあやかしの親玉と思われる女性の手先でないとは言い切れないのだ。
取り敢えずイヨと言う少女の事が、少女と言っても20年以上も絵の中に非難していたのだから実際はいい年齢なのだが、本人がわたしは13歳ですと言い張る以上は13歳なのだろう。
しかしどうやって絵の中で生きていたのかは、正直謎である。
イヨ曰く魔法で何とでもなるとの事だが、魔女であるマリアには理解出来ない事もないが普通の人間である悠奈の頭の上には?マークが乱舞していた。
イヨと悠奈は、用意が必要なマリアと一緒にマリアの部屋で待っていたのだが、基本物を持っていないマリアの準備は僅か10分で終わったので、三人で悠奈の家に向かう。
悠奈の家は、平均的な一軒家より少し大きいくらいだが三人で暮らすには充分な広さである。
「悠奈、本当に宜しいのですか?」
「何が?」
素性の知れないイヨと暮らす事もそうだが、悠奈の両親の許可も無く勝手に二人も住まわせる事がマリアは気になっていた。イヨだって魔法を使えるのだから、本人は霊能力者と言っているが霊能力者と言うよりは魔女と言った方が正しいと思う。
悠奈が大丈夫と言うので、マリアはそれ以上は何も言えない。
イヨは、魔女と呼ばれるのが嫌なのかわたしは霊能力者ですと言い張るので、マリア的には正直言ってどっちでもいいのだが、イヨは霊能力者で何故かマリアは魔女になってしまった。
実際魔女なのだから、魔女と呼ばれる事には全く抵抗はない。
悠奈的には、魔女より魔法少女の方が似合ってるよと言っていたが、わたしは正直魔女でも魔法少女でも好きな呼び方をすればいいと思っている。魔女でも魔法少女でもやる事に変わりはない。
あやかしを、あやかしの親玉と思われる女性を倒す事が、そして自分にとっての終焉の地を見つける事がマリアの目的であり、長い時間を掛けて旅をしてきた理由なのだから、でも今は先ずイヨと言う少女の本質を見極める必要がある。
イヨが本当にこちら側の人間なのか、それともこちら側を殲滅する為に味方を装っているのか、もし敵だと判断した場合は容赦なくイヨを屠る。
そこに一切の妥協も情もない。
わたしの敵になるのであれば、わたしは例え力を持たない無力な人間でも容赦なく屠る。
そうしないと、わたしが殺されかねない状況に追いやられてしまう。この世界が例え自分にとっての終焉の地だとしても、騙されて命を落とすなんて情けない最後だけは迎えたくはない。
全力で敵と戦った上で殺されるのなら、わたしはそれを受け入れる事が出来る。でも、人間を信じて騙された挙句命を落とすなど、そんな惨めな死に方だけは絶対に受け入れられない。
悠奈がわたしとイヨの部屋を用意してくれたのだが、わたしは悠奈にあやかしが取り憑いた際の事を考えて、悠奈と同じ部屋にしてもらう。イヨが狡いと駄々を捏ねるかと思われたが、意外にイヨは一人で過ごすほうが落ち着くらしい。
長い時間を絵の中で一人過ごしてきたのだから、悠奈と過ごしたいと言うと思っていたのだが、元々呪われた屋敷と言われていた屋敷の娘と言う事もあり、絵の中に避難するまでの間に友人は出来なかったらしく正直どう触れ合っていいのかがわからないようだ。
何はともあれこうして、普通の少女と年齢を詐称している見た目少女と魔女の三人の不思議な同居生活が始まった。
同居生活が始まっても、やはり悠奈はあやかしに取り憑かれてしまう。何度消滅させても、その都度新しいあやかしが、悠奈に取り憑くのでマリアもイヨもそして、取り憑かれる悠奈本人も不思議でしかない。悠奈は、イヨの館に一度訪れてはいたが、例の地下室には侵入していない。
地下室に行っていない以上あやかしを操っていると思われる女性には、会ってすらいないのだ。もしその女性に会っているのなら、その女性が悠奈に呪いを掛けてしまったと考えられるのだが、それともその女性は離れていても、悠奈に呪いを掛ける事が出来る妖術でも持っているのとでも言うのか。
そんな事は、現実的ではない。
自分が意図した相手に呪いを完璧に掛けられる保障などないのだ。
古代には、呪術を使って相手を呪い殺すと言った秘術を使える術士もいたようだが、それは古代の話であって、現在においてそんな秘術を使える術者も魔女も存在してはいない。
マリアは沢山の世界を回って来たが、今まで一度もその様な能力をもった魔女にも術者にも出会った事はなかった。もしこの世界のあやかしを操っている存在が、その様な能力を持っているのであればかなり厄介な相手である。
正直言って、自分の手には余ってしまう可能性がある。
悠奈がもしその様な呪いを掛けられているのなら、考えられるのは前述した能力をこの世界の仮に魔女と名付けるが、魔女がその能力を持っている可能性とその魔女の息が掛かった者が悠奈の近くに存在していると考えられる。
後者なら、その人物を特定するのは骨が折れる。
悠奈は学生である。学校のクラスメートから、学校関係者、そして現在は悠奈と違う高校に通っている中学時代の友人など、その数はかなりの人数に上ってしまう。
更に言えば、悠奈自身の知らない人物の可能性もある。
現在転勤先にいる悠奈の両親の関係者も含めれば、特定は更に困難を極める。
術者が未熟な者であれば、特定は簡単だがある程度の能力者になってしまえば、自分の魔力や霊力と呼ばれる力を隠す事が出来る。そうなれば、いくらマリアでもある程度その人物に近付かなければ相手が術者であると特定する事が出来ない。
それが、イヨやマリアに近しい力の持ち主になってしまえば、自らの魔力も気配も消す事が出来てしまうのだ。そうなれば、かなり至近距離に現れない限りは相手が術者や魔女であると特定する事は不可能に近いと言っても過言ではない。
先ずは、あの屋敷の地下を調べようと考えたマリアはイヨに悠奈を任せて一人で屋敷を訪れてみたのだが、既にもぬけの殻であった。イヨが話していた地下室も調べてはみたが、確かに何者かがそこに滞在していた痕跡はあったが、余程の魔女なのか魔女本体を追う事は出来なかった。
イヨをまだ完全に信じた訳ではないが、イヨが悠奈に何かを仕掛けようと言う気配が見られないのと悠奈自身がイヨを信じているので、悠奈が信じる以上は自分がいくら言っても無駄であろう。
それにもし悠奈に何かあればすぐに、自分のスマホに連絡が入るしイヨなら自分が負ける事はない。イヨもそれなりの魔女ではあるが、自分が負ける事はない。
それは、今までの経験と魔力量の違いからも明らかである。
マリアとイヨの魔力量には圧倒的な程に違いがあるのだ。
子供と大人と言っても、それ以上と言っても問題ないくらいにマリアとイヨの魔力量には差がある。
それをイヨもわかっているので、もしイヨがこの世界のあやかしを操っている魔女の手下だとしても下手に、悠奈に手を出してくる事はない。
今一番問題なのは、誰が悠奈に呪いを掛けたのかである。
魔女なのか、それとも魔女の手下なのかで対処法が変わる。
魔女本人なら、魔女を殺さない限り呪いを解くのは難しいだろう。
手下なら、殺さずとも抵抗する気力を奪ってしまえば悠奈に掛けた呪いを解かせる事も可能だ。もしそれに応じないのなら、その手下を殺してしまえばいいだけの話だ。
自分の仲間を傷つけたりする輩には容赦などしない。
非情と言われても、残酷だと非難されてもわたしは目的を遂行する。
それが、悠奈の呪いを解く事になり自分の目的を完遂する為には必要なのだから、わたしは今までもそうやってどの世界でも、非情に徹してきたのだ。
自分に仇なす者には死を、そうでない者には救いをそれがわたしというマリアという魔女だ。
それでいいと思っている。情けを掛けて裏切られて殺されたり死に掛けた、その世界の魔女や霊能力者をわたしは何人も見てきているし、わたし自身魔女になったばかりの頃は全ての人間を救えると過信して、そして悪しき考えを持つ者すら見抜けずに裏切られて、危ない目に遭っている。
それでも、わたしは人間を信じていたのだが、どの世界に行ってもそう言った輩がいるのでわたしは次第に自分が大丈夫と判断した人間以外は信じなくなった。
この世界でわたしが信じられるのは唯一悠奈だけだ。
イヨも問題ないと判断すれば、わたしはイヨを仲間として受け入れるだろうが、今はまだ半信半疑の状態である。
何か怪しい動きをしたら容赦なく、イヨに拷問してでもイヨの狙いをイヨがこの世界の魔女の仲間なのかを問い詰める。場合によっては容赦なく殺害する。
勿論悠奈の居ない場所に呼び出してにはなるが、悠奈に人が死ぬ姿など見せたくはない。
もしだが、悠奈自身が魔女の仲間だった場合わたしは、悠奈を殺せるのかという疑問がある。悠奈からは魔力は微塵も感じないが、もし魔女の手下だった場合わたしは悠奈を手に掛ける事が出来るのか、この世界での唯一信じられる存在である悠奈を……。
そんな事にならないのが一番だが、今までの世界でもあった。
本人が知らない内に操られているなんて事例は、わたしはいくらでも知ってる。
だから、悠奈があの館に訪れてしまった時に既に操られてしまった可能性はある。
そう考えると、やはりこの世界にもわたしの味方はいないのかもしれない。
例えそうだとしても、わたしは悠奈だけは大丈夫だと信じたい。
悠奈がわたしに見せる笑顔に偽りはないと信じたい。
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