魔女と百合とそしてあたし

Cecil C
Cecil

悠奈は憑かれやすい?

公開日時: 2020年9月2日(水) 22:08
文字数:5,457

悠奈に連れられて、スマホのショップに来たのはいいが正直言ってどれを選べばいいのかがわからない。スマホも本来不要な物なのだが、悠奈と連絡を取ったり悪しきものとの戦いで学校に通えない時に連絡するのには便利である。

 マリアは、どのスマホを選べばいいので、悠奈の持ってるのと同じ機種にしようと思って悠奈と同じのでいいですと言ったのだが、どうやら悠奈が持ってるスマホは在庫切れとの事で、仕方なくメールと電話が出来ればいいのと、正直わからないので悠奈に選んで貰う事にする。

「本当に、あたしが選んでいいの?」

「はい。悠奈さんや学校に連絡する以外に使用しませんので」

 アプリゲームしたり、動画を観たりしないの? と言われたが、わたしにはわからないし、わたしがこの世界に来たのは、悪しきものを倒す為と出来るならこの世界を自分の終焉の地にする為である。

 悠奈に言われなければ、スマホの存在も知る事はなかったであろう。

 ただスマホを持つ利点はあるようだ。インターネットなるものには、沢山の情報があると悠奈が教えてくれたので、そのインターネットを使えば悪しきものやあやかしの情報を得る事が出来るかもしれない。

「好きな色はある? あと薄い方がいいとか」

「特にありません」

 わたしが何でもいいと言ってしまったが為に、悠奈はうーんとかこっちも捨てがたいしとか悩んでいるようだ。そんな悠奈を観察するが、何故悠奈から不穏な感情を覚えるのか、どうして悠奈を放って置けば大変な事になると感じるのかは、やっぱりわからない。

 わからないが、やはり悠奈には悪しきものが憑いているようだ。

 生まれたばかりなのか、殆ど力はないらしいが成長すれば厄介である。

 消滅させる必要があるので、ショップを出たらスマホの使い方をレクチャーして欲しいと言って、悠奈には家に来て貰う必要がある。

 わたしがそんな事を考えていたら、悠奈がどっちがいい? と二台のスマホをわたしに向けている。わたしは、どっちのスマホが使い易いのかを悠奈に聞いて、多分こっちかなと悠奈が言った方を選んで契約すると、悠奈と共にショップを出る。

「悠奈、今日はありがとうございます。それで、スマホの使い方をレクチャーして欲しいので、良かったらわたしの家に来て頂けませんか?」

「いいの?」

 いいですよと、是非とマリアが言うので悠奈は心でやったぁー!とガッツポーズしながら、マリアについてマリアの家へと向かう。

 これでクラスメートを出し抜ける。女子校と言う場所柄なのか、学園には女の子同士のカップルが多い。男子禁制、秘密の花園を地で行く様な学園なので同級生にも先輩にも女の子同士のカップルが多数存在している。そんな中で、悠奈を含めた恋人がいない組は、我先にと恋人候補を探しているのだ。

 そんな、野獣の檻の中とも言える場所にマリアの様な美人が転校して来たのだから、悠奈じゃなくてもマリアを恋人にしたいと思う生徒は多い筈である。

 そんな美人転校生に初日に家にお呼ばれされたのだから、悠奈じゃなくてもテンションはMAXだろう。悠奈に関しては、天にも昇る勢いである。

「ここです」

 マリアに言われて、見上げると意外にもと言うか本当に意外な事に普通のアパートである。勝手なイメージだが、マリアは何処かのお嬢様なのではないかと思っていたので、そのマリアが普通のアパートに住んでいる事が意外だった。そんな悠奈の気持ちが伝わったのか、マリアに意外ですか? と言われてしまった。悠奈は、慌ててそんな事はないよと言うが、本音はマリアってお嬢様っぽいだけなのかなと思ってしまう。マリアから言わせれば、住めればいいのだ。

 トイレとお風呂とキッチンさえあれば、部屋の広さなど関係なかった。

 この部屋は、マリアにとってはただ身体を休める為の場所にすぎないのだから、別に余程汚いかボロボロでない限り拘る必要などないのだ。

 マリアにどうぞと言われて、部屋にお邪魔する。

 何もなかった。女の子の部屋とは思えない程に何もない。

 あるのは、布団と小さなテーブルだけでぬいぐるみや鏡台や本棚すらない。本当に女の子の部屋なのかと思うくらいに簡素と言うか、すっきりしていた。

「マリアの部屋って、すっきりしてるね」

「必要最低限の物だけあればいいので」

 そうは言っても、テレビもパソコンも無いなんてさすがに寂しすぎる。

 マリアは必要ないと言うかもしれないけど、今度家で使ってないテレビでも持って来てあげようかと思ってしまう。

「悠奈に、レクチャーして貰う前に聞きたい事があるんですが」

「何?」

 マリアの質問は、不思議だった。最近誰かを殺したいと思った事はないかとか、変な場所に行った記憶はないかとか、その可愛らしい綺麗な顔からおよそ発せられるとは思えない質問ばかりであった。

 悠奈にとっては、不思議な質問でもマリアにとっては重要な質問である。

 もし悠奈が、誰かを殺したいとか傷つけたい等の感情を抱いていれば、悠奈に取り憑いた悪しきものかあやかしが、悪さをしている証拠、目覚めた証拠になるのだから、目覚めてしまえば加速度的に悠奈の心は悪に染まってしまう。

 そうなる前に、悠奈に取り憑いた悪しきものを消滅させる必要がある。だからマリアはこんな質問をしたのだが、その真意が悠奈に伝わる筈もない。

 悠奈は、ただ首を傾げながらそんな気持ちになんてなった事はないよと、でも変な場所かはわからないけれど、心霊スポットと呼ばれる場所には行ったけどと話した。

(心霊スポット? 普通の霊が出ると言われてる場所ですね)

 心霊スポットに、面白半分で行けば祟られるとか呪われるなどの話は何処の世界にも存在する。それ自体は別段驚く話ではないが、そこに普通の霊に混じってあやかしや悪しきものがいた可能性はある。

 そして憑かれ易い体質なのかはわからないが、悠奈をターゲットにして取り憑いた可能性は考えられた。詳しく話を聞いて見る必要はありそうだ。

「その時の話を詳しく教えて頂けますか?」

「いいけど、特に何もなかったけど」

「それでもいいんです。何か、変わった物があったとか、行った後に何か変な事があったとかどんな小さな事でもいいんです」

 どうして、マリアはこんなにもあたしが心霊スポットに行った時の話しを聞きたがるのかはわからないが、その表情は真剣である。自分にとっては対した事のない出来事でも、マリアにとっては何か重要な事なのかもしれないと、マリアがわざわざドイツから日本に転校して来たのは、そういう事情があるのかもしれないと思い、悠奈はその日の事を思い出してみる。

「確か、そこに行ったのは……」

 自分がその心霊スポットに行ったのは、入学式を終えて最初の週末だったので、今から約一月程前になる。入学して、知り合ったクラスメートに聞いて興味を持ったのだ。

 そういう場所や幽霊の類が好きな訳ではないが、所謂怖いものみたさもあり一人でその廃墟を訪れたのだ。昼間だと言うのに、その廃墟(元は洋館)は不気味な雰囲気を放ってはいたものの悠奈は、折角来たのだからとよくわからない理屈で廃墟に入ってしまった。

 霊感0の悠奈でも、その館には何かいるのではないかと幽霊がいると思わせる程の雰囲気だったのだが、悠奈は導かれる様に、館の奥へ奥へと歩を進めてしまった。

「その館には、何かあったのですか?」

「うーん。特には……そう言えば」

「何かあったのですね」

 一枚の肖像画あった。

「肖像画ですか。それは、その館の主のとかですか?」

 その館は、自分が生まれた時には既に廃墟になっていたので、その肖像画がその館に関連する人物の肖像画になるのかはわからないが、綺麗な少女の肖像画であった事は覚えている。

 その少女は、日本人の様な外国の少女の様な表現が難しいのだが、とても綺麗で可愛らしい少女の自分とさして年齢の変わらない少女だけだった事は覚えている。

「その肖像画を見てから、悠奈の体調に異変は?」

「特にはないけど、その肖像画を見ていたら」

「見ていたら何ですか?」

 この表現が適しているのかはわからないが、その肖像画の少女の瞳を見ていたら吸い込まれそうな感じを受けた。実際に吸い込まれたわけではないが、何故か別世界に吸い込まれてしまう。そんな感覚を覚えた事を悠奈は思い出していた。

 悠奈の話を聞いている限りでは、その館は20年は放置されている事になる。

 それだけの期間撤去されずに放置されていたと言う事は、何かしら原因があるのだろう。

 その原因が、悠奈の話した少女の肖像画に関係しているのかはわからないが、一度訪れてみる必要がありそうだ。

「悠奈、話してくれてありがとう」

「いいけど、どうしてこんな事を聞いたの?」

 本当の事は言えない。言ってしまえば、悠奈は自分を恐れて距離をおいてしまうだろう。それは、正直痛い。この世界での始めての知り合いなのだ。悠奈は友達と言っていたので、友達で構わないが、この世界の情報を、この街の情報が必要なわたしにとって悠奈が自分と距離をあけてしまうのだけは避けなければならない。

「実は、わたし霊能力者なんです」

 霊能力者? マリアが? よくテレビで除霊的な事をしてるうさんくさい人なの? と思ったけどマリアは真剣な表情をしている。

「そ、そうなんだ。それで、マリアは幽霊を退治する為に日本に来たの?」

「はい。詳しくは話せませんが、両親も霊能力者で」

 マリアの一家は、ドイツでは有名な霊能力者で日本に力の強い悪霊がいるので、マリアが両親に代わってその悪霊を退治しに来たのだ。勿論、これは本当の事を言えないのでマリアの作り話なのだが、悠奈はそれを信じたらしい。

「それで、さっきあたしが話した館にいるの!」

 興奮気味に聞いてきたのだが、それは確かめないとわからないと、そしてその館を訪れた悠奈に弱い霊が取り憑いているので、除霊する為に部屋に呼んだのだと話した。

 正確には除霊ではなくて、消滅させるのだが悠奈を怖がらせない為にも、マリアは笑顔で心配いりませんとわたしに任せてくださいと言って、悠奈の背後に回る。

「あたし、取り憑かれたの?」

「心配いりません。わたしが今から祓いますから」

 霊能力者のマリアが言うのなら安心だ。基本悠奈は単純な女の子だった。

 悠奈に取り憑いたあやかしが悪さをする前に、消滅させなければ悠奈が悪に染まってしまう。

 マリアは魔力を集中させると、ゆっくりと悠奈の中に注入していく。

「身体が熱くなってきたんだけど」

「大丈夫です。除霊されてる証拠です」

 そうなんだ。なら良かったと悠奈は思いながら、マリアはテレビに出てるインチキ霊能力者とは違って本物だと安心する。

 これで大丈夫ですとマリアの除霊は終わった。

「ありがとう。今度はあたしの番だね」

「悠奈の番って、何かありましたか?」

 悠奈にスマホの使い方をレクチャーしてもらうのを、マリアはすっかり忘れていた。

「スマホの使い方だよ」

 そうだった。悠奈に取り憑いたあやかしの事が気になってしまって、すっかりスマホの使い方を教えてもらうのを忘れていた。マリアは、そうでしたと言うと悠奈にスマホの使い方をレクチャーしてもらう。

 悠奈が帰った後、悠奈に聞いた館に行ってみようかとも考えたが、明日も学校があるし取り敢えずは悠奈に取り憑いたあやかしは消滅させたので、焦る必要はない。

 悠奈のスマホには魔法を掛けているので、悠奈に何かあればすぐに連絡が入る。

 いつまでも、悠奈が話していた館を放置する訳には行かないが今日はいいだろう。

 少女の肖像画か、それが悠奈に悪さをしたのだろうか? 20年以上も廃墟のまま取り壊されずに放置されているのが気になる。

 悠奈の話では、あくまでも噂らしいが何度もその館を取り壊そうとしたらしいのだが、その度に作業員が怪我をするなどの事故が起きてしまい結局取り壊す事が出来なかったらしい。

 ただの悪霊がやってるなら、自分が出る必要もないが、もしあやかしや悪しきものが関わっているのなら自分でなくては解決も消滅させる事も出来ない。

 学校が休みの日にでも一度訪れる必要があるだろう。


翌日学校で悠奈に会って、マリアは驚きを隠せなかった。

(どうして……確かに消滅させたのに)

 昨日確かに、悠奈に取り憑いたあやかしは消滅させた筈なのに、登校してきた悠奈は再びあやかしに憑かれていたのだ。

「おはようって、マリアどうしたの? 驚いた顔をして」

「悠奈、昨日あの後すぐに家に帰ったんだよね? 例の館には行ってないよね?」

「勿論だよ」

 なら何故悠奈は再びあやかしに憑かれているのか? もしかして悠奈はあやかしに憑かれやすい体質なのだろうか、そうなら常に悠奈の側にいる必要がある。

 マリアは、トイレに悠奈を連れて行くと再びあやかしを消滅させた。

 悠奈は、除霊は成功していたと思っていたので不思議そうな顔をしていたが、マリアが一度では難しいのでこれからも定期的に除霊しますと、自分が霊能力者なのは絶対に秘密にして下さいと言うので、わかったよと言うと、マリアは安心した様に笑顔を見せてくれた。

 悠奈が、もし取り憑かれやすい体質なら何かしらの対策が必要であると、そして悠奈が訪れた館に何かしらの秘密があるとマリアは、週末ではなくて今日学校が終わったら館の廃墟に行く事を決めた。

 悠奈は、マリアが自分を心配してくれるのがただ素直に嬉しかった。

 このままマリアとの仲を深めていけば、マリアと恋人になれるのではないかと自分に取り憑いたあやかしが厄介な存在だとはわかっていないので、マリアと恋人になりたいなと考えていた。

 

 

 


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