“ 頼む ひと突きさせろ。 そうすれば すべて終わるから ”
『SHE SAID その名を暴け』
2020年に起きたパンデミックで、ワクチン開発競争で米中に遅れをとっていた日本の令和製薬はインドのベンチャー系製薬会社を買収してその差を埋めようとした。
全国一斉休校宣言を出すなどして完全にパニクっていた政府が、アメリカ製のワクチンの輸入に踏み切ろうとした。令和製薬の本部は首相がとある学園の設立に関して様々な優遇措置を取っていた事を週刊夏草などにリークした。その結果首相は秋には退陣、総選挙となり国家の危機には国内の総力をかけて立ち向かうべきであると国威の発揚を訴えた日本共産党が初めての政権奪取を成し遂げた。
「民意である」
書記長、桜田公平がNHKの開票速報特番の放送開始三秒後に発した言葉だった。
〈すまん桜田。ワクチンは間に合わない〉
「分かっている大林。心配するな」
学生時代の友人からのホットラインをすませた桜田は首相としての最初の仕事を開始する。
「前政府の負の遺産を、私たちは有効に役立てることにしました」
アメリカ製薬最大手ザイファーとの契約に既にサインがされていたとして、翌年2021年の1月に二億本のワクチンを桜田政権は輸入した。これに対する拒否反応はほとんど聞かれなかった。むしろ前政権のワクチン利権がらみの裏金問題の方が重要視された。投資対象として全く見向きもされてこなかった日本共産党は、かえってその事がクリーンさの証明だとして人々に支持された。
〈面白いものが出来たかもしれん〉
「というと?」
〈少子化対策に目処がたつぞ〉
「聞かせてくれ」
〈久しぶりに飲むか〉
「千林吉兆だな。明後日なら空けそうだ」
〈俺も明後日なら大丈夫だ〉
「じゃ、そう言うことで」
〈ああ。明後日〉
「明後日」
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