めちゃくちゃかわいいオレは、めちゃくちゃかわいい女装男子と時間限定で百合カップルやってます

白乃パンダ
白乃パンダ

彼は妹キャラでめちゃくちゃかわいい!

公開日時: 2020年9月3日(木) 09:10
更新日時: 2020年9月3日(木) 09:14
文字数:2,467

俺は男子トイレの個室でメイクを落としている。

 彼女は隣の個室にいる……。

 訂正する、彼女じゃなくて彼だ。

 何だ……この状況……?

 俺の憧れてた女の子が……女の子じゃなかった。

 自分でなんだかわけが分からない。

 女装してたやつが女装してたやつに惚れてた。

 簡単に言えば『男が男に惚れた』

 ……それだけ聞くとなんか任侠映画っぽいな。



 通販で買ったニセ制服を、学校の制服に着替え、ウィッグをはずし個室を出る。

 ちょうど

 「んなっ……!?」

 「……なっ!?」

 ……制服が同じだった。

 「同じ学校かよ!?」

 「……これは驚いた」

 それは、同じ駅で降りるよなぁ……。

 きっちりと制服を着こなしたメガネ姿、ふわふわした女装姿からまるで想像出来ない真面目そうな印象だ。

 「いきなり怒涛の展開すぎて頭がついてかねえ……」

 「まったくだよ、いつもあそこのトイレが空いてなかったのは君がいたからか」

 洗面台の鏡で髪をセットし直す。

 「……多分な、はぁ……」

 「その溜め息はなんだい?」

 彼はワックスで髪をオールバックにしている、さっきよりもキッチリした印象が増した。

 「……憧れの子が男だった俺の気持ちにもなってくれ、初恋だぞ」

 羽鳥はそれを聞いてため息をつく。

 「……ひとつ言っとくけど、それは僕も同じなんだけどな」

 ……んん?

 「なんだそれ? どういうことだ?」

 「言葉通りだよ、毎朝女装して乗り込んでたら、すごく気になる黒髪ロングのかわいい女の子が傍に乗ってるのが気になっていた……それが女装した男ってことさ!」

 「そんなことあるかっ!!」

 「……実際あるから今この状況なんだろ、ぼくが動揺してないとでも思ってるのかっ!」

 うん、確かにそうだよな。

「なんか……すまん」


 つまりは憧れのあの子と両思いだったと。

 なんだか少し嬉しい……けど。


 まてまてまて!  こいつ男だぞ!!


 駅を出て学校に向かう。

 「そういえば、君、名前は?」

 「本橋優希もとはしゆうき、2年2組だ」

 「本橋か、僕は3組の羽鳥葵だ……以後よろしく」

 隣のクラスだった……見たことがあるかもしれない。

 「あぁ羽鳥、よろしく」

 何がよろしくなのか、以後があるのかはわからない……。


 どこの学校か知りたかった。

 名前を知りたかった。

 一気に解決してしまった……。


 ……多分考えられる限り、最悪の結果で。


 その日は授業も上の空だし、夜はあまり寝られなかった。


 「うん、今日もかわいいな俺」

 朝、鏡に映る美女に俺は言う。

 少し目の下にクマがあるがファンデーションで誤魔化す。

 結局、今日もいつものように女装して電車に乗ってしまった。

 もはや、ルーティンと化したこの行動に自己嫌悪に陥っている。


 しばらく電車に揺られる。

 昨日の今日で女装して女性専用車両に乗ってるのも大概だ……。

 もう、多分憧れの彼女は乗ってこない。


 だって男だしな!


 いつも彼女が……いや彼が乗る駅につく。

 ふわふわしち栗色の髪のボストンバッグを担いだ女の子が当たり前のように乗ってくる。

 乗ってきたよ!? 昨日の今日で!?

 間違いなく羽鳥葵だ。

 羽鳥は俺に気づくなり、少しハッとした顔をする。

 そして直ぐににこりとした笑顔で俺に近づいてくる。

 「おはよう、優希ちゃん」

 「お……おはよう」

 ……こいつもかよ!?

 いきなり下の名前で呼ばれて戸惑ったぞ。

 あまりに地声と違う可愛らしい声に面食らう。

 「どうしたの優希ちゃん? 顔色があまり良くないよ」

 あの真面目そうな男の姿から想像できない、ふわふわの栗色の髪に大きなリボン、正直こいつ……めちゃくちゃかわいい!

 「ちょ、ちょっと待て羽鳥……」

 「しっ、地声で喋るなよ……あと下の名前で読んでくれないか、ここでは」

 上目遣いになりながら周りに聞こえない位の小声で俺に話しかける。

 俺は軽く咳払いして声を高くする。

 「ごめんね葵、少し寝不足なの」

 「ダメだよー、寝不足は肌に悪いんだから」

 そう言って、少し下から俺の頬を人差し指でつついてくる。


 ……なんだこれ!?


 やっときながら上目遣いで少し頬を赤くするな。

 くっそかわいいじゃねーか!

 「そ、そうね、気をつけるわ」 

 「優希ちゃんは肌綺麗なんだからもったいないよ」

 「ありがとう、葵も綺麗……か、かわいいわ」

 「ふふっ、優希ちゃん顔真っ赤だよ」


 ……なんだこれ!?(2回目)


 どうやら俺も顔が真っ赤らしい。

 傍から見たら仲のいい女の子同士のやり取り。

 でもな、このやり取りやってるの男同士だからな!



 電車を降りて羽鳥と辺りを確認し

 それぞれトイレの個室に入る。

 俺は壁越しに羽鳥に話しかける。

 「おい、羽鳥」

 「なんだい?」

 「なんでお前また乗ってるんだよ?」

 「そのままその質問を返すよ、正気じゃない」

 ……互いにそうだろうが。

 はぁ……正直に言っちまうか。

 「わかんねぇけど……多分、あの姿でならまた会えるじゃないかと、うっすら期待してた」

 「……そうか、僕も同じだ」

 「変態だな」 

 「君もだろ」

 互いに正体がバレてしまった。

 でも、『好き』って気持ちはそうそう裏切れないんだと思う。

 しばらくの沈黙……そして羽鳥は口を開く。

 「多分、好きなんだと思う、君じゃなくてキミを」

 「言いたいことはわかる、俺もお前じゃなくてお前が好きなんだと思う」


 ――生まれて初めての告白した――


 ――生まれて初めて告白された――


 ――駅の男子トイレで男に――


 トイレから出ると真面目そうな姿の羽鳥がいた。

 「その姿には全く興味わかないんだけどな」

 少し顔をしかめながら羽鳥は言う。

 「そっくりそのまま返すぞ」

 「ははは、学校では普通にしててくれ」

 「わかってるよ、うっかり呼ぶなよ」

 「君の方がやりそうだろう、というか君はあの姿だとクールなお姉様キャラなんだな!」

 「……お前はふわふわした妹キャラなんだな」


 そして少し距離を取りながら学校に向かうのだ。


 今日もまた、電車が来て……。

 いつものホームで葵が大きなボストンバッグを担いで乗り込んでくる。

 「おはよう、葵」

 「おはよう! 優希ちゃん!」

 「あ、今日はリップを変えたんだね? いつもと違うわ」

 にっこりと笑いながら葵は話しかけてくる。

 「よくわかるわね、新作よ」

 俺も葵に優しく微笑み返す。


 こうして、本橋優希と羽鳥葵は通学時間だけの百合カップルになったのだ。

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