異世界転移するって話だったのに途中キャンセルされたんですが……。

トーリ
トーリ

11話

公開日時: 2020年11月2日(月) 19:35
文字数:7,967

後編です。めちゃくちゃシリアスになります。

温度差に気を付けて。


「ここが博人の部屋か」

「はい……」


 あれから美代子は大人しくなり、構成員らも手を出してこなくなった。

 事実上鷲田組最強の女が負けたことで、反抗は破滅を意味すると理解しているようだ。


 ただ、ちょうど組長の剛造がいたので一緒に連れて行こうとしたら、居合わせた幹部らがギャーギャー喚いてうるさかったので殴り飛ばして気絶させた。


 幹部ら10人のうち6人が博人の手勢とかヤバすぎだろ。

 組長、もっとしっかりしてくれよ。


 とはいっても、組長なりに苦悩もあったらしい。

 鑑定によると息子の暗い噂については聞いていたそうで、先日の風俗襲撃を機になにかと良くない話を聞くようになったそうだ。

 それでも一人息子と言う事もあって信じたい想いから、妻共々様子見に回っていたそうだ。



 まあ、同情はするが許しはしない。

 そのせいで多くの無関係な女性が泣いているのだから、あとで相応の罰は背負ってもらうつもりだ。



 そして今は剛造の妻であり、俺に完全敗北してから従順になった美代子とその夫であり組長の剛造の二人を連れて博人の部屋に来ていた。


「鍵がかかってるな」

「その、部屋に入る事を酷く嫌うので」

「そうか、まあ関係ないな」


 俺は扉を蹴り破り、中に押し入る。


 部屋の中はいたって普通。

 ギターだったりポスターや額縁、また勉強机など、学生の部屋であればおよそあっても可笑しくはない家具が置かれていた。

 それを見て美代子はホッと息を吐く。……だが、悪いがその安心は無駄だ。


 俺は部屋の中に入りポスターをはがす。するとその裏には金庫らしきものが置かれていた。


「これは……」

 不安そうな顔でこちらを見る美代子と剛造。

 俺は構わず部分収納で扉だけを取り除く。


「な、消えた!?」


 皆の反応はもっともだが、それよりも中にある物に注目した。

 そこにはメモ帳と、一枚のメモリーカード。

 

 メモ帳には無数の連絡先とその横には〇〇万円といった、それぞれの金額らしきものが掛かれていた。


「……なんですか、これは」

「おたくらの息子がやってたシノギとやらだ」


 俺はそのままパソコンに向かって歩き、起動させる。

 もちろんパスワードが設定されていたがそんなもの、鑑定の前には無力だ。


 さらさらと解除する俺に2人は不気味な物を見るような目で見るが、無視をしてメモリーを差し込む。


 暫くして読み込まれたのは……動画ファイルだ。


「……これから見せるのは、これまでお前らが必死に目を逸らして来た現実だ。正面から受け止める勇気はあるか?」

 その言葉に青ざめる美代子。


 だが、極道の妻としての強さが気丈にも彼女を奮い立たせる。

 剛造もまた顔色は悪いがそれでも威厳を持った目でこちらを見つめ返してくる。


「もちろん。嫌な事から目をそらして生きるほど、鬱屈した人生を送ったつもりはない」

「見事、なら刮目してみろ。お前の息子が築いた地獄を」



 そこから流された映像はまさに地獄絵図だった。

 20代後半の女性から10代前半の幼い少女までが、男たちの欲望のはけ口にされていた。

 泣き、喚き、必死に許しを請うが、男たちは笑いながらそれを踏みにじり更なる暴行を続けた。


 反応が無くなったから詰まらないと、タバコの火を押し当てて悲鳴を上げたその様を見て笑う。

 そしてそのなかには博人の姿もあった。

 時には注射器のようなものを被害者に打ち込み、狂ったように笑いだす女性。それを見て笑って更なる暴力を行う男たち。


 奴は、金を数えながらニヤニヤと笑みを浮かべている。

『1人15万だからな、そいつは割と新しいから高く売れるぞ』


 その額を聞いて美代子はメモ帳を見た。

 そう、あの額はその連絡先にある少女の売値とこれまでの合計販売額だった。


 そしてそのメモ帳は……これでもかとびっしりと刻まれ、余白が無いほどだ。


「うっ、おええええええ!!」



 息子の行っていた吐き気を模様す様な残虐行為に、美代子は文字通り嘔吐した。

 これが息子。腹を痛めて生んだ子だと認めたくない思いと、今もなお流れる少女たちの悲鳴が否定を許さない。


 剛造は呆然と言った様子で動画を眺め震えている。


 すると美代子が震えながらつぶやく。

「とめて……お願い。動画を、止めて」

「駄目だ」

「お願い!」

「駄目だ!!」


 俺は美代子の顔を掴み、無理やりにでも画面を見せる。


「見ろ、これがお前とお前の夫が手をこまねいていた結果だ! なんだこれは! 地獄以外の何物でもない、これが人のする事か!? 同じ人間にする事か!? これはもはや家畜じゃないか!」


「うっ、うう……うううう」


 ぼろぼろと涙を流しながら美代子は振える。

 後ろに控えていた組員も映像を見て青ざめている。彼らはこの事を知らなかった白と判定された者たちだ。


 黒はとっくに不能に陥っている。まだ生き残りは居るが。


「いいか、お前らはこれを一生背負わなきゃならない。謝ろうと思うな、責められて楽になろうと思うな。ただひたすら背負え、踏みにじられた人生とその女の悲鳴を一生抱えて過ごせ。できるのはそれだけだ」


「……」

「……」


 このわずか数分で老け込んだ二人を見て、俺は僅かに心が痛む。

 愛する息子が人ならざる行為に及んでいた事をしったショックは計り知れない。


 だが、だからと言ってそれを覆い隠せるほどこれは安い内容じゃない。

「俺の恋人も、奴の被害者だ」


 その言葉に2人は跳ね上がる様に顔を上げた。

 居合わせた組員も顔を歪め、苦しさから顔を逸らした。


「お前らが心から償いたいというのなら1つだけ手を貸してやれる」

「な、何をすればいい」


 俺一拍置いてからハッキリ言う。

「息子――いや、博人を捨てろ。アイツはもうだめだ、人じゃない。アイツに更生はむりだ……生きてるだけで害をバラまく病原菌と何ら変わらない」

「……」


 一瞬否定しようと顔を上げた美代子だが、俺の目を見てすぐにうつむいた。


「子を捨てる辛さは分かる。だからこそ、子を……それも娘を道具のように汚された親の気持ちはわかるだろう」


 その言葉に2人は静かに頷いた。


 俺は銀から奪った刀を取り出す。

 ざわつく組員たちを制して、刃を自分の腕に這わせた。


「痛っ……くう」



 割と深く切った。

 血がボトボトと落ちてカーペットを濡らす。


「な、なにを」


「見てろ」


 困惑する皆を無視して、腕に回復魔法を施す。

 すると身体が淡く光り輝き、傷口はあっという間に消える。


「なんだい、それは」

「そんな事はどうでもいいだろ? 俺は傷を癒す力がある……これの意味が分かるか?」


 すると剛造が理解を示したようで頭を地面にこすりつける。

「たのむ! その力を貸してくれぇ! 被害に遭った子達を癒す手を貸してくれぇ!」


 その言葉に妻・美代子も理解が追い付いたようで必死に頭を下げる。


「お願いします!」


「いいだろう、俺としても彼女らをいつまでも放置するのは心苦しい。だが……これで息子の罪が消えたと思うなよ。俺が癒せるのは身体の傷までだ。心までは治せない」

「「………………」」


 2人は重苦しくも、しっかりと頷いた。


 俺はその場に居合わせた組員に視線を向け、懐(に見せかけた異空間収納)からA4サイズの封筒を取り出し渡す。


「こ、これは?」


「この案件に関わっている鷲田組のメンバーだ。証拠もその中に入ってる、1人も逃がすな……もし逃がすような真似をしてみろ、その時は俺が本気で鷲田組を潰すからな」


「ひっ」


 剛造は組員に指示を飛ばし、各地に散っている黒たちを捕まえるよう指示した。


 剛造も美代子もすっかりやつれている。

 今にも倒れそうなくらいだ。


 ……いま倒れられると面倒だ。


 俺はへたり込んだままの二人に近付き、両手をそれぞれの方に乗せる。

 びくりと肩を震わせるが「落ち着け、少し気を楽にしろ」と言って、2人に回復魔法を施す。


 実は回復魔法は傷をいやす事も出来るのだが、その際にわずかな安堵感というかホッとするような効果があるのが分かっている。

 しいて言うなら温泉などでゆったりしてる時のような安心感。


 傷らしい傷は無いのだが、まあそれは肌の老化だとか髪の痛みを対象にしてゆっくりと魔法をかけてやると先ほどまで憔悴しきっていた2人はみるみる生気を取り戻していった。


 驚きながら目を見張る2人。


「な、なんで」

「アタシたちは、アンタの恋人を傷つけた男の親だよ?」



 僅かに溜息を吐きつつ、ハッキリと告げた。


「……子を失うのがつらいのは誰だって同じだ。どんなに屑だろうと、腹を痛めて生んだ子を捨てる辛さは特にな」


「――っ」

「アンタもだ、奴が屑であれたった1人の息子だ。もしかしたら、あるいはなんて思いがあっただろう。それ自体は悪くない。子を最後まで信じたいのが親だ」

「ふぐ……うう……ううううう」


 2人はボロボロと涙を流し、崩れ落ちそうなほど肩を震わせる。

 俺は面を外して、2人に顔を晒す。


 2人は俺の顔を見て心底驚いた。

 なんせあの大立回りをした男が、息子とさほど年の変わらない……いや、それよりも若い男だったのだから。



「俺も、親を亡くした時は本当につらかった。だから、少しその気持ちが分かる。互いになくしたもの同士だ。……頑張れ」


 そう言って2人を抱きしめてやると声を上げて泣いた。



 結局のところ、この2人もヤクザなんて家業をやっているが、本質は善人だったのだ。

 親の家業を継いだ者、裏家業の男に惚れた女。


 きっと少しだけ生まれが違えばごく普通の幸せな家庭に慣れていたかもしれない。

 だがそうならなかった。


 だからこの話はこれでお終いだ。

 願わくば、この2人に少しでも幸せがある事を願う。

 それくらいはバチが当たらないと思う。

 







 突然、大学から連絡が入った。

 なんでも親が倒れたとかですぐに家に帰ってくれとの事。


 あの女が化けて帰ってきた時は度肝を抜かれたが、俺としては良い刺激だった。

 なんせあの地味な見た目から華やかな女優顔負けの姿になって戻って来たんだ。


 例の店がつぶれた時はどうなる事かと戦々恐々としたもんだが、実際蓋を開けてみれば未だに動き無し。

 他の奴らはまだビビってるみたいだが、そろそろ大丈夫だと思っていいはずだ。


 それにしてもどんな手品を使ったか分からないが、アイツが綺麗になったのは好都合だ。

 アイツを脅すネタは手元にある。


 ただ、今日接触しようとしたらやたらアイツの周りがにぎやかで近づけなかった。とくに遠藤とかいうブスは「明美の友達」宣言してべったりだ。


 てめぇも虐めてた主犯だろうが。

 きっと、今朝噂になった高級車を乗り回す明美の恋人らしき男に狙いを定めて近づいてるんだろう。

 アイツは権力と金が大好きだからな。


 ただ、周りの男がやけにビビってるのが気になるな。

 噂にある「若頭」とかいうのを気にしてんのか? ばかばかしい、それなら俺は組長の息子だっての。


 それにしても明美のヤツ本当に綺麗になったな。

 俺の女にしてやってもいいかもしれない。少し楽しんだらまた売らせて、稼がせてやる。


 他の女共はすぐに反応しなくなってつまらなかったからな。





 自宅に着くと、唖然とした。

 門が吹っ飛んでいたのだ。それだけじゃない、家の前が爆発でも起きたのかってくらい陥没した道路があったり、家の中も戦争でもあったのかってくらい荒れてる。

 今なんか、なんだよこれ……何をしたらこんなふうに畳と天井が抉れるんだ?



「た、ただいま」


 物々しさを感じて、親父がいるという部屋に向かうと次の瞬間、恐ろしい衝撃が走った。

 頭部を打ち据える何かを感じた直後、俺の意識は暗転した。









 目が覚めると俺は椅子に座らされていた。

 立ち上がろうにも足は椅子にくくりつけられており、胴体や腕もこれでもかと縛り上げられて動けない。

 椅子に完全に固定されていた。


 何が起きたのかと混乱していると、薄暗い部屋の中……目の前に親父がいる事に気が付いた。



 親父は打ちっぱなしのコンクリート部屋で1人座禅を組んでいた。

 あれ、倒れたんじゃないのか?

 ピンピンしてるじゃないか……っていうか、なんか若返ってないか?

 白髪が混じってたはずの髪が真っ黒だし、染めたのか?


 それに肌も――。


 そこまで考えていると、横合いから冷水をぶっかけられた。そろそろ冬に差し掛かろうとしてる時期に細かい氷が浮かんだ水を何度も何度もかけられた。


「て、てめぇ! なにしやが――ぶはっ、やめろゴラぁ!!」


 振り返ってみると、そこに居たのは鷲田組の組員と銀だった。銀は唯一「夜叉狩り」なんて言われたお袋の薙刀を相手に10分も立ち会える腕を持つ親父のお気に入りだ。


「ぎ、銀! てめぇ、誰に向かってこんな真似をしてんだ!」


「それは重々承知だぜ、博人さんよ」


 嘲るような口調に唖然とする。

 こいつは何時も俺に対して「坊ちゃん」と呼んで来ていた。

 その呼び名が嫌いで辞めろと言ってもいつまでもそう呼ぶから嫌いだった。だがそれでも、こんなふうに見下した目で俺を見たりはしなかった。



「博人」


 静かに座禅を組んでいた親父が声をかけて来た。


「お、親父! これはどういうことだよ!? 倒れたって大学に連絡があって帰ってみればこれは何なんだよ!」


「お前……俺に言う事があるんじゃあないのか?」


「いう事?」


「そうだ、謝る事。懺悔すべき事がるだろう」


 なにいってんだ。俺は親父に謝るような事をした覚えはない。

 むしろ俺の方こそ謝ってほしいくらいだ。


 俺が言葉を出せずにいると、親父は落胆した様な声音で「そうか」と呟いた。

 そしてそこにもう1人の影が入って来た。


「お、おふ――」

 

 お袋と呼ぼうした次の瞬間、何かが目の前を通り過ぎた。


「え」


 視線を落とすと、切り落とされた前髪がばさりと落ちている所だった。

 そして一歩遅れて額から血がブハッ、と噴き出した。


「ぎゃああああ! いた、いたいいいいい!」


「さわぐんじゃあねえよ博人さんよ。この程度本の序の口なんだぜ」


 そう言って冷水を再び掛けられた。


 痛いし、寒いし、訳が分からない。

 訳も分からない状況に、何時も俺に甘いお袋がなんで、それにその……夜叉のお面は何なんだよ。


「金輪際を母と呼ぶことは許しません」


「な、何を言ってるんだオフク――ぎゃああああああああ!!」


 次の瞬間、薙刀の切っ先が太ももに突き刺さった。

 痛い痛い痛い! なんで、なんでこんなことをするんだ!?

 どうして!? お袋は何時も俺に甘かった筈なのに!!


「博人、目の前にいる女は夜叉になりました」


「な、なにを」


「アンタがこれまで女にしてきたこと全て、アタシは全て知った。如何に母であろうと、同じ女として捨て置けません――ゆえに心を鬼に、夜叉となります」


 その言葉と同時に薄暗い部屋に光が溢れ、撃ちっぱなしのコンクリート壁に見覚えある動画が映し出された。

 それを見て絶句する。

 


 俺が今まで行って来た仕事のコレクションだ。


「へ、部屋に入ったのか!? しかも金庫まで開けて、ふざ、ふざけんなよ! 何勝手にやってんだよ! オイ、ババア!」


 怒りに任せて怒鳴り散らすが、夜叉の仮面を被ったお袋はピクリともしない。


 それどころか誰ひとり何も発せず、重苦しい沈黙が流れる。


「お前がこれまでため込んだ金は全て回収した。お前を裏で支援していた幹部連中も既に始末した。さらに言えば、大学の仲間も近々破滅する予定だ」


「な、な、な」


 言葉が出ない。

 どうしてそんなことまで知ってるんだ。親父は何時も俺のやる事に気付いてなかったじゃないか。

 いや、少し怪しんでいる感はあったが、核心部分は分からない様にしていた。なのになぜ……。


「何故、という顔をしてるな」


「ぐ……」


「お前はやり過ぎたんだ……多少の女遊び程度ならばこうはならなかっただろう。だが、これは行き過ぎだ。人のする事じゃない」


「な、なにいってんだよ今更! ヤクザなんてそもそも人様に顔向けできる家業じゃねぇだろうが!今さら何善人ぶってんだよ! 親父だって殺しくらいしてんだろうが!」


 その言葉に、親父は少し間をおいて語りだす。

 相変わらず親父の顔は暗くて見えない。動画の光で若干様子がうかがえるが、逆光になっていておおよその雰囲気しかわからない。


「そうだな。お前の言う通りヤクザなんて仕事はお天道様に顔向けできる家業じゃねえ。だが、昔はな地元の人間たちと笑い合ってできた仕事でもあるんだよ」


「はっ、いつまで古い事に縋ってんだよ! 時代は変わってんだぜ!」


「……そうだな、実にその通りだ。死んだ幹部連中も同じ事言っていた。「時代は変わった」「いつまでも昔と同じではいられない」「金がなきゃ何もできない」そう言っていた」



 その通りだ。

 うちは構成員もそれなりだって言うのに稼ぎが少ない。

 それもこれも親父が古き良き時代とやらを大事にしすぎるからだ。


 不良連中だってもうちょっとまともに金を稼ぐってのに、シノギは縁日の出店だとかそんなのばかりだ。

 麻薬を売ればそれだけ儲かるし、女を嵌めて売ればそれも売れる。

 他もやってる事じゃねぇか。何意地張ってんだ。


 だから俺が稼いで、変えてやろうとした。

 そしたら幹部連中が俺にすり寄って来た。どうにも親父のやり方に不満を抱えてるみたいで、すぐに意気投合した。文句を言うような奴は秘密裏に消したし、裏で金を操ってるやつもそれをネタに脅して部下にした。


 お陰で麻薬を使って女共を落とす事も出来た。

 ……あの明美って女の時にはブツがなくてできなかったのが残念でならない。



「どうやら反省はしていないようだな。……おい」

 

 親父が声をかけると銀とその他の組員が椅子事俺を抱えた。


「な、何をするんだ! おい、おろせ! 親父、親父!」


「お前はもう息子ではない」


「なんだよそれ!」


「これまで犯して来た女の苦しみ、その一部でも背負って死ぬがいい」


 死……!?


 言ってる意味を理解して俺は必死に暴れた。

 上半身を芋虫のように動かすと、抱えていた組員は椅子事俺を落す。


 身体が痛い。逃げなきゃ。でも動けない。


「てめぇ! 逃げんじゃねぇ!」

 少し前までは俺に頭を下げていた組員が見た事ない形相で殴って来る。怖い。


「往生際の悪い野郎だ!」

「死んじまえ!」


 そんな罵声が挙げられていく中、1人の組員が胸倉をつかんで来た。


「博人よぉ、お前が犯した奴の中に中防のガキいたよな?」

「あ、え……」

「その中にヨォ、俺の姪がいたんだよ!!」


 顔面を数度殴られる。

 歯が折れて、鼻が曲がり、血反吐を吐くも止められない。

 死ぬっ、殺される。死にたくない。助けて!


 涙を流して必死に懇願するが、その度に殴られる。


 すると別の声がかけられた。


「まて、それ以上は死ぬぞ」


 出てきたのは真っ黒の闇に浮かぶ白い仮面。

 最初仮面だけが浮いているように見えたが、服装と影が同化していたようだった。


「こんなやつ、死んで当たり前だ!」


 息を荒げる男に仮面のとこは近づく。

「その通りだ。だが、あっさり死なせていいのか? その程度で済ませていいのか?」


 その言葉に怒りの形相を浮かべていた組員は動きを止める。


 仮面の男が歩み寄ってきて、俺の顔を鷲掴みにした。

 痛い痛い痛い痛い痛い!

 なんて馬鹿力だ! 頭が割れる!!


「ほら、治ったぞ」


「え」


 しかし手を放すころには口の裂傷や曲がった鼻なんかが治っていた。

 折れた歯も元通りだ。


「な、なんだこれ、なんなんだよぉ!」


「答える義理があるとでも思ってるのか?」


 馬鹿にしたような口調で俺から離れると「ほら、おかわりだ」と言って殴っていた男の肩をポンと叩く。


 するとそいつは再び俺を殴り始めた。

 しかも途中から他の奴も混じって、何度も指を折られた。爪をはがされた。玉を潰された。目を潰された。歯を抜かれ、耳を落され、鼻を削がれ、足を砕かれ、顎を割られた。

 でもその度に奴がやってきて、何度も治す。


 そして一言「よかったな。まだまだ贖罪できるぞ」


「いやだああああああああああああああああああああ!!!」





 その拷問は数時間にわたって続けられ、最後は殺してくれと言う懇願に対し夜叉となった母が最後位の手向けとしてその首を落して終わらせた。


 返り血を浴びた夜叉の母は、鬼の形相をしながら1人佇み涙を流していた。




悲しい結果となりました。

とはいえ、既に時すでに遅し……というより末期な状態だったので、ある意味これが最後の救いだったといえます。


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