異世界転移するって話だったのに途中キャンセルされたんですが……。

トーリ
トーリ

10話

公開日時: 2020年11月2日(月) 19:35
文字数:7,327

今回は前後編に分けました。

中二病全回は楽しい! 

俺の右腕が疼くぜ……(腱鞘炎)


 最初は殴り込みと入ったが、できる限り手加減してやるつもりだった。

 ちょっと強めに叩いて早々に気絶してもらおうと思っていたのだが、鷲田組屋敷に駐留している構成員を鑑定してその判断は取り下げた。


「どいつもこいつも屑ばかりか」


 驚くことに100人中50人近くが性犯罪歴のある屑ばかりだった。それもその筈、その50人は博人の手勢だった。

 おそらく、奴の自室にあるコレクションとやらを守るために配置されているのだろう。

 そしてこの手勢は博人のコバンザメ、甘い汁を吸っていい思いをしようとするゲスの集まり。


 決めた。

 正面突破だ。


 あばれちゃうぞ。








 鷲田組屋敷入口。

 今日も構成員の男が入り口前に立っていた。

 理由は簡単だ。先日、鷲田組若頭補佐である吉田を叩きのめした謎の男を警戒しての事だ。


 傘下の稲田組若頭である錦は、あの場に居合わせた数少ない証言者と言う事で鷲田組に意見を求められていた。

 そのさいに彼は「あの男は異常です。下手に事を構えるのは避けた方がよろしいかと」と意見を述べたが、鷲田組の幹部らはその意見を却下。

 若頭補佐と言うかなり上の立場である男を完膚なきまで叩き潰されたあげく、傘下とはいえ自分のシマで好き勝手した男を逃す訳にはいかないと豪語した。


 その幹部は博人の手勢の1人で、あの場に居たであろう明美の事を知っていたのだ。そしてその女にまつわる情報全てがそっくりそのままその男に奪われた。

 それの意味するところは「鷲田組に対する反抗、もしくはその準備行動」ととったのだ。

 証拠やら痕跡を残さないという事は、後々大事になって揉めた時その女に飛び火しない様にするという意図だと思ったのだ。


 もちろん、ハジメにはそのような意図はなかったが偶然にもその図式は今になって、ぴったりとピースが嵌っている。


 もちろん、カタギの女を脅して無理やり風俗で働かせているなど、親である鷲田剛造には言える訳がない。

 あくまであそこにいた女たちは、自業自得な借金による任意の労働と言う図式が成り立っていた。

 それでも十分アウトではあるのだが、強姦からの恫喝、暴行、そして強制売春という最悪な流れよりは幾分かはマシだった。


 最初、組長の息子である博人にその話を持ち掛けられた時は狂ってると思った。

 だが「断れば組の資金を横領してることを親父にバラすぞ」と脅されて従うほかなかった。


 何より、博人の連れて来た女は存外いい女だった。

 若干根暗そうではあったが、その身体は十分すぎるほど魅力的でいつかは自分のものにしたいとまで思っていた。


 そんな矢先のあの事件。

 余りにも急変すぎた。


 だからこそ稲田組若頭の言葉に危機感を覚え、早急に対策を取るべきと強く意見した。


 鷲田組組長・鷲田剛造は思案の後その案を受け入れた。

 ヤクザと言う家業、舐められたらお終い。


 相手が何者であろうと、一度牙を剥いたのならばどちらが倒れるまでやる。男を売る稼業、つっぱるならば心が折れるまで最後までやる男。

 

 鷲田剛造は今の日本では数少ない、硬派かつ古き流れを組む任侠人。

 それが息子博人との違いでもあった。




 そしてそれは唐突に起きた。

 ドゴォン!


 腹の底に響く様な音に場は騒然とする。

 何が起きたのかと困惑して暫くすると、廊下がドタバタと騒がしくなり始めた。


 会議をしていた幹部らと鷲田剛造の下に構成員が駆け込んで来た。


「た、大変です!」

「何事だ! 先ほどの爆発はなんだ!」


 いらだった様子で怒鳴るが、構成員は一瞬怯むが意を決して声を上げる。


「か、カチコミです! 男が1人、正面からカチコミを仕掛けてきやがりました!」

「カチコミだとぉ!? テメェら、1人の男相手になにビビってやがる! さっさと黙らせて来い!」


 1人の男に泡食う姿に幹部は苛立ちを露わに叫ぶが、構成員は続ける。


「ただの男じゃねぇんです! あいつ、化物みたいに強いんです! すでに武器を持ったウチの20人がのされちまいました! しかも相手は素手です!」


 その言葉にその場に居た幹部らと剛造も顔つきを変える。

 1人の男に構成員20人がやられた。

 武器を持った構成員を相手に素手の男が押しているという言葉に、稲田組若頭の言葉を思い出す。


『あの男は異常です。下手に事を構えるのは避けた方がよろしいかと』

 

 幹部らの後悔はまだ始まったばかりである。












 まず最初にやったのは、鷲田組の正面にあるビルの屋上からのハイジャンプ&ヒーロー着地。

 これやってみたかったんだよな。


 まるで爆発でも起きたのかってくらい激しい音を立てて、地面は陥没するわ煙がいい感じに俺を包んで今回用意した光沢ある黒のロングコートがはためくという、イメージ通りのヒーロー着地が出来た。


 というのも明美とのデートで手に入れた演出スキルが役立っているみたいだった。


 コレ、最初見た時はネタスキルかと思ったのだがそうじゃなかった。


 ●演出スキル……パッシブスキル。使用者の望む環境を生み出す効果を持つ。レベルに応じてその効果を拡大させていく。

 Lv1=2メートル。レベルが上がるごとにその範囲を1メートル追加していく。


 最初なんのこっちゃと思ったのだが、これ土煙の流れだとか地面の陥没の仕方とかを俺のイメージ通りに従わせる効果があるそうだ。

 つまり物理法則に干渉するスキルだった。


 ただ「ガラスのコップを割れて、その破片が狙い通りに的に刺さる」みたいなことは無理で、あくまで「そうなるだけの因果」が必要との事。

 つまり先ほど述べた結果に至らせるとしたら「狙いを定めてガラスを的に向かって投げつつ、空中で割る」という手間が必要だ。

 

 そうすることで「ガラスの破片が目的に飛んでいく」という形が整い、あとはスキルが演出の一環としてその軌道を微調整する。

 土煙も俺が地面に着地する際にわざと足に力を入れて地面を踏み抜き、その土埃が舞ったからこそ濛々もうもうと立ち込める演出が出来た。

 ちなみに地面の綺麗な陥没も同様だ。

 踏み抜いたが足りなければこのようには出来ないが、必要なだけの力を与えたのであとは演出スキルがそれに即したものを用意してくれた。


 たぶん、これがい一番チートだと思う


 ともあれ、登場シーンは大成功。

 すると門の前に立っていた2人は唖然とした様子でこちらを見ている。


 その間にゆったりと歩いて近づくと、ようやく再起動したらしく怒鳴り声を上げる。

「てめぇ、何もんだ! それ以上近づくんじゃねぇ!」


「右は黒、左は白」


「黒? 白? 何をごちゃごちゃとわけのわかんね――はぎゃっ!!」


 次の瞬間、右手に居た男の顔をグーで殴りつける。もちろん1.1倍だが手加減は無し。

 この状態での本気での殴りはヘビー級ボクサーを超える一撃で、用意に男の顎を砕いた。


「て、てめ……ぐあっ!」


 左手の男には腹にパンチ。こっちはちょっと手を抜く。まあ、それでも悶絶レベルだろうが




 そう、黒というのは性犯罪歴ある屑で白はそうじゃないってだけの見分け。

 既に屋敷に居る人間の精査は終わっており、俺の視界には頭の上に白と黒のアイコンが浮かんで見える。


 扉に手を添えるが開かない。

 恐らく閂がされてるのだろう。錦の話ではすでに俺……というか裏モードの俺の噂が上がっていたようだし、警戒して扉を固めてるのだろう。

 今どき門番なんて置かないのに、ここの2人のように人を配置してるので間違いない。


「ま、そんなの関係ないんだけどな」


 拳を引いて、腕力の倍率を一時的に最大に引き上げる。

 全身の筋肉を総動員して拳を打ち出す。


 直後、木製の大きな扉は弾けるようにして開かれた。

 その際に「うぎゃ」と短い悲鳴が聞こえた。

 見れば扉の開閉に巻き込まれた憐れな構成員がいた。


「あ~わるいな、って黒か、じゃあ別にいいや」


 すたすたと敷地内に入ると砂利道で出来たこれまた風情ある屋敷だった。


「まったく、これほど良い家に住んでるのに何でいる奴こうも屑ばかりなんだ」


 思わずため息を吐きながら歩くと、屋敷からぞろぞろと木刀やら日本刀を持った構成員が出て来た。まるで映画のワンシーンである。


「てめぇ、どこの組のもんだ!」

「生きて帰れると思うなよ!

「なんとか言えやコラァ!!!」


 何ともすさまじい気迫である。スキルを得る前の自分であれば腰を抜かしていた事は間違いなく、そもそもこんなことにすらならない筈だ。

 だが――。


「お前らに用はない。ここの長男、博人の部屋を見せて貰えれば早々に立ち去る。案内しろ」


 あえて煽る様に命令する。

 そんな意見が通るわけもない、というか通ったら通ったで面倒なのでぜひ反発してほしい。


 するとヤクザたちは「ふざけんな!」「博人さんの部屋に入れる訳ねぇだろぶっ殺すぞ!」などと怒りの声を上げた。

 ちなみに過剰に切れてるのは博人の手下に成り下がった奴らだ。

 

 そりゃそうだよな。本人から「絶対人を入れるな。親父であっても」と言いつけられてるよな。

 コレクションがばれたらそれこそ殺されるもんな。



「ならしょうがない。無理やりにでも漁らせてもらおう――推して参る!」


 行ってみたかった台詞トップ10の1つを言いながら、俺は走り出した。



 ざっと見た感じ、集まっているのは40人未満。

 とりあえず黒の連中は逃がすつもりはないので優先的に叩きのめす。

 

 大きく跳躍し、集団の中に降り立つと身体能力をフルに活用して四方への拳の連打を叩きこむ。

 すると同時に吹き飛ぶ数名の構成員。どれもが皆顎や両腕をこれでもかと砕かれ、再起不能であることは調べるまでもなく明らかだった。

 

 しかもよく見れば、股間が大きく陥没して失禁している。


 そう、攻撃の際に不能にしておいたのだ。

 もうアイツらは女性に手を出す事は出来ない。永遠に。


 奴らが手を出した女性の中には2度と子を産めなくなっていた女性もいた。それには相応の報いが必要だと感じた。

 なんせ、一歩間違えたら明美も同じ末路を辿っていたかもしれない。そう思うだけで怒りがふつふつと湧いて出てくる。


 ちなみに白の連中は最初の敵同様、比較的人道的な威力で倒す。

 それでもしばらくベッドの上だろうが。時間が経てば復帰できるはずだ。


 とはいえ、敵に応じて威力の調整は面倒なので見える限りの黒を不能にした後、白連中を退場させる。


 すると背中を何かで引っ叩かれた感覚が走った。

「ん?」


 振り返ると日本刀を振り抜いた姿勢のまま、唖然とする構成員が立っていた。

 まさかと思って背中を触ると……見事にバッサリ切られていた。

 

 痛みが若干感じるあたり、無傷って訳でもないのだが日本刀に血が殆どついていないところを見る限り剝皮を切り裂かれた程度のようだ。


 とはいえ、ちょっと痛いので回復魔法で治すことにした。

 痛いのは嫌いだ。


「な、なんだ……」

「どうして刀で切られて平然としてんだよ!」

「光ってる……」


 皆がざわめきだす中、俺に切りつけた男は目の前で傷が塞がるのを見ていたらしく、青ざめた顔で「ば、化物」と呟いた。失礼な。


 その男は白だったが、ちょっと身のこなしが良かったので油断せず少し強めに叩いたらまるで鞠のようにバウンドしながら転がっていった。

 すまん。


 ……しかし、まさか日本刀で切り付けられてもこの程度で済むとは身体強化さまさまだ。

 とはいえ後ろを取られて斬られた当たり、慢心が見え隠れするな。

 もうちょっと警戒をするとしよう。


 また切り付けられても面倒なので、切れ味の良さそうな刀を拾って持ち運ぶ。

 見た所他には木刀だとかばかりで、長物はこれくらいだった。


 俺を囲う構成員だが、ある程度数が減ると奴らは一定の距離で囲うばかりで攻めて来なくなった。

 完全に腰が引けている。


 ちらりと周りを見た限り、白ばかりでココでさらに暴れるのも時間の無駄と判断した。

 玄関から入ると思った以上に屋根が高い。日本屋敷特有の室内でも刀が触れるだけの広さが確保されてることに若干の感動を覚えつつ、二階に向かおうとすると障子の向こうから何かが突き出て来た。


「うお」


 思わず声を上げながら仰け反ると、それは薙刀と呼ばれる類の武器だった。

 掴もうとするとその前に引っ込められ、障子がザクリと切り裂かれて倒れる。


 なんだろうかと見ると、赤い着物を着たいかにも「姉御」みたいな女性が立っていた。


「うちにカチコミかけるとはどういう了見だい!? みょうな面をしやがって、舐めてんのかい!」


 お面に関してはぐうの音も出ない正論だ。


「姉さん、さがってくだせぇ! そいつは――」

「黙ってな! 易々と鉄砲玉を屋敷に居れるなんて恥を知りな! 漢なら命張ってでも止めてみせな!!」



 こわい。

 何この人、めっちゃ気迫がさっきまでのやつらと段違いじゃないか。

 ヤクザさんも真っ青だ。


「それにしても、ウチの銀が表に居たはずなんだけどねぇ、あんた何をしたんだい?」


「銀?」


「その刀の持ち主だよ。それを奪ったって事は倒したんだろ? すごいじゃないか、ウチのなかでも一番の手練れだったんだが……死んだかい?」


「まさか、誓って殺しはしてないぞ。まあ、確かにあの場に居た奴の中では一番強かったかもな」


「……その言い草だと、大した障害でもなかった。みたいな言いぐさだねぇ」


「その通りだな」


「弟子をそこまでコケにされたらアタシも黙ってられないね! アタシが叩きってやる! それでもって銀も鍛え直しだよ!」


 すまん銀さん、ハードな訓練が確定したよ。


 すると彼女は気合の雄叫びと共に斬りかかって来た。

 その太刀筋は明らかに首を狙っており、殺す気満々であることが伺える。


 というか早い。

 身体強化してる俺でもスローではなく、ゆっくりとした素振り位に見える。

 これ、一般人からしたら達人クラスなんじゃないのか?


 とはいえ問題なく避けることは可能だ。

 上半身を僅かに逸らして、首筋を紙一重で薙刀が通り過ぎる。


 すると構成員が「おお!」と声を上げる。


「すげえ、やっぱ姉さんはすげぇ!」

「あの化物が防戦一方だぜ!」

「夜叉狩りの異名は健在なんだ!」


 なんだそれ。異名持ってるとかかっこいいな。


 突き、払い、切り付け、ときおり逆手持ちして石突での殴打も織り交ぜて来るコンビネーションは流石と言えた。

 

 しかし困った。

 女性を殴るのはちょっと……いや、かなり抵抗がある。

 しかも今の俺が殴ったらとんでもないことになるのは間違いない。


 男共は遠慮しないが女性は困る。

 しかもこの人……結構美人だ。


 おそらく奥さんなのだろうから40か50なのだろうけど、肌の張りやら髪の艶を鑑みるに30中ごろに見えるほどだ。



 そんな人を殴るのは嫌だ。


「しかたない。相手してやるか」


 俺は銀さんから奪った刀を抜いて構える。

「なんだい、そのふざけた構えは。素人そのものじゃないか――馬鹿にするのも大概にしな!」


 姉さん、激おこである。

 そりゃそうだ。カチコミかけて来た男と一騎打ちと思いきや反撃してこず、やっと構えたと思ったらど素人丸出しの構え。

 キレたくもなるだろうさ。


「まあ、文句は勝ってからにしてくれ」

「面白いっ!」



 室内とは言え、広さは十分ある。

 どうやら姉さんがいた部屋と言うのは、畳が敷かれた縁側に隣接した広間だったようだ。宴会とかしたら楽しそうだ。


 そのおかげで薙刀だけでなく、刀を振るうだけのスペースも十分にあり一騎打ちをするには十分だ。

 もちろん、構成員の奴らが黙って見てるわけもなく手を出そうとしたのだが……。


「邪魔するんじゃないよ!」


 と姉さんが一喝。


「この兄さんは、構えこそ素人だが動きはただ者じゃない。アンタらが束になっても勝てないよ! ……ふふ、銀の奴が負けるわけだ。アイツは最近奢ってる節があったからね、その点だけは感謝してやるよ」


「それはどうも、感謝ついでに息子さんの部屋を漁らせて貰えたらうれしいんだが」


「アタシに勝てたらなっ!」


 発生と同時に連撃が始まった。先ほどより角度がエグイ。

 元々、先ほどまでいた立ち位置は広間と廊下の境界線だった。

 必然的に扉に合わせて天井が一部低くなっているせいで、薙刀特有の大きな振り回しが出来なかったのだ。

 だが、広間に入った事でその縛りが無くなり、生き生きと取り回しができるようになった。


 それらの攻撃を刀を使い、滑らせるようにして受け流す。

 そんな芸当が出来るのも人並み外れた動体視力のお陰だ。


 俺は軌道に合わせて、無理のない角度をじっくり見つつ、刃を寝かせる事が出来る。

 だからこそ素人の俺でも熟練の姉さんが振るう薙刀を問題なくいなせる。



 キィン、と金属音がぶつかり合う音が数度響く。

「はぁっ、はぁっ、ちくしょう。なんなんだ一体。どうしてこんな素人剣術に掠りもさせられないっ! ……それに――」


 一呼吸おいて、姉さんが吼える。

「舐めてんのかい!? さっきから防戦一方、なんども反撃するチャンスがあったのにわざと見逃してるね!? 馬鹿にするのも大概におし!!」


 どうやら手を抜いているのがばれたようだ。

 まあ、そりゃそうだ。

 何度も回避をしてるうちに、彼女のバランスが崩れるシーンが数回あった。

 それを俺は見逃し、間合いを開けたり手を止めたりしていたのだからバレて当然だ。


「それは――」


 言いかけた所で動きを止める。


戦闘経験により身体強化スキルがレベルアップしました。

戦闘経験により剣術スキルLv1を獲得しました。また、派生スキル闘気刃を獲得しました。



 いい加減聞きなれたアナウンスが流れ、にやりと笑みを浮かべる。

「わるかったな。では少し本気を見せるとしよう」

「はぁ、なん、だって」


 汗だくになりつつ、息を切らしている彼女は眉を寄せる。

 そして目に見えて動揺し始めた。


「な、なんだいそりゃ。さっきまで、さっきまで素人然とした構えだったのに、その気配は……それにその刀に纏ってるそれは何だい!?」


「鷲田美代子。世界の広さを教えてやる。――これが、先だ」


 これまた言ってみたかった台詞を使いつつ、新たに覚えた闘気刃という派生スキルを奮う。

 もちろん、姉さんに向かってではなくその横を通り過ぎる様に縦一閃する。


 次の瞬間、赤いオーラを纏った斬撃が空を切り裂き、畳や屋根の一部をえぐりつつ彼女の横を通り過ぎる。


 その際に、薙刀の先端部分を切り落とす。


「な……」


 青ざめた目で、通り抜けた先を見ると庭に生えていた木が切り落とされ倒れる所だった。

 そして彼女は再びこちらを見て震える。


「続けるか?」


 その言葉を聞いた途端、彼女はその場に膝をつき

「参りました」


 と頭を垂れた。


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