異世界転移するって話だったのに途中キャンセルされたんですが……。

トーリ
トーリ

4話

公開日時: 2020年10月25日(日) 00:02
文字数:7,972

 レベルアップのお陰で移動速度も大きく上がり、問題の暴力団が潜む横浜の中華街まで来ていた。

 正直「なんてベタな……」と思ったのだが、岡田が「木を隠すなら森」という発想でこの場所に至ったそうだ。


 事実、奴らはここにきてからかなり精神的に安定するくらいには、隠れるのに十分な場所を見つけたようだ。

 鑑定の結果、鷲田組の傘下に入っている小規模な暴力団体が経営している性サービス店だった。

 いわゆる風俗だ。それも違法ギリギリの年齢の子を働かせてる。

 

 中には年齢が本当にアウトな子もいて、その子を調べたらホスト狂いだとか、借金まみれ、さらには駄目男製造機なんていうとんでもない情報が網羅されてた。

 っていうか16歳の女の子をホスト狂いになるまで通わせんな!金も貸すな!おまけに風俗店に働かせんな!!


 トリプル役満級の問題児が其処に居た。

 溜息を吐きつつ、俺はその店へと向かう。



 店は表通りから見えない、裏路地を入った奥まった所にあった。内容が内容だけにひっそりと営業しているみたいだ。


「ようこそ、ご紹介はございますか?」

 扉の前には1人の男が立っており、どう見てもカタギじゃないのは火を見るよりも明らか。

 というか招待制だったのか。


 ガードマンというか、門番風のガタイの良い男は俺を下から上へと視線を動かし眉を寄せた。

 まあ、全身真っ黒で赤いマフラーって怪しいからな。わかるよ。

 

「紹介は無い」


 そう告げると「ではお引き取りを」と言われた。

 俺は諦めて帰る素振りをしつつ、聞こえる様に独り言を言う。


「吉田の兄貴に『ここはいい店だから一度行ってみろよ』って言われてたんだ。せっかく休みが取れたんで、来たんだが……だめなら諦めるか。兄貴に謝んねぇとな「話の分かんねぇ奴が俺を追い返したんだ」ってな」


 すると途端に門番が慌ててやってきた。


「まて、その吉田ってのはまさか」

「鷲田組の兄貴に決まってんだろ。ここだってあそこの傘下なんだしよ」

「……そこまで知ってるって事は身内か。冗談きついぜ、ならそう言えよ」

「悪いな、テレビでああなっちまったから名前出すのもやべぇかなって思ったんだよ」


 俺の言葉に門番は「ああ、なるほどな」と得心いった顔で頷く。吉田と岡田の事件はテレビで流れているから、彼らも神経質になっているのだろう。


「一応聞くが、お前があの人の知り合いって証拠は?」

「証拠なんて大層なもんはねぇよ。ただ、俺がヤンチャしてた頃兄貴にボカンと殴られちまったんだ。それからずっと舎弟よ」


 そういうとそれ以上門番は聞いてくる事は無かった。

 ちなみに今の話は、吉田の過去の経歴に「若い跳ねっ返りを舎弟にする癖がある」というのがあったのでそれを使った。

 しかも吉田自身は、数を揃えるのは好きだが一人一人は覚えてないという適当っぷりで、一人くらい紛れてもばれないと思った。


 実際に、身内しか知らない話題を鑑定でいくらでも引っ張り出せる俺が「いやあ、あの時は大変だったぜ。兄貴が女をやっちまった時俺もいてよ」なんてさもその場に居たかのように言うと、門番は慌てて「おい、いくらここでも店先でする話じゃねぇだろ」と慌てて止めて来た。

 だがコレのお陰で完全に身内判定されて、店の中に招いて貰えるようになった。


 店の中は元スナックの内装を無理やり風俗の受付にしたような形状で、目線が入った嬢の写真が並べられていた。


 至る所から女の嬌声が聞こえてくる。壁が薄いみたいだ。


 カウンターの中には金髪のピアス、さらに眉無しと言うこれでもかと言うくらいに不良スタイルの若い男が居た。

「誰にする?」


 ちらりと鑑定をかけるとその男はヤクザ者ではなく、その舎弟と言う立場だった。

 まあ、警察が来たら間違いなく捕まるが。


「ん~……」

 悩むふりをしつつ店内の嬢たちを調べる。

 するとほとんどが自業自得の人達ばかり。中には不法滞在者の海外の女性までいて真っ黒だと分かり苦笑い。

 ただその中に異質なまでに普通の女の子が居た。


日野明美(22)

大学生

精神状態:消沈・絶望


情報:同じ大学に通うサークル仲間に騙され連れて来られた。逃げようとしたが、サークルの先輩やら女たちに脅され逃げれず、働かされている。得た賃金はサークルに搾取されている。アケミとして活動させられている。




 胸糞わるい内容だ。

「アケミって子いるだろ? その子空いてる?」

「……随分と情報が早いな」

「伊達に兄貴のために情報通やってねぇんだよ」

「なるほどな。ただアイツはNGが多いぞ」

「へえ、そうなのか?」

「前回、俺もちょいとヤろうとしたらキンキン声で喚いて他の客から文句が来たよ。ったく、ここまで来たら諦めろっての」


 ……うん、わかった。

 お前はそっち側なんだな。ただの下っ端なら見逃してもいいと思ったが、そういう事なら遠慮はしない。


 俺がそんな事を考えてると、金髪は2槍を笑み浮かべた。

「でも残念だったな」

「ん?」

「今さっき、兄貴がアケミを指名した所だ。もしかしたらぶっ壊れちまうかもしれねぇな。兄貴はエグイから」


 その言葉を聞いた途端、部屋の奥から悲鳴が聞こえた。


「お、始まったか」

 楽しそうに笑う金髪。

 俺は我慢できずにカウンターを飛び越え、彼女がいるだろう部屋に走った。


「テメェ! 待ちやがれ!」


 後ろから声がかかるが関係ない。

 走って扉を開けようとするが鍵がかかっているらしく、すぐに開かない……が力を込めて殴りつけると扉はあっさり蝶番ごと外れて吹き飛んだ。


 部屋の中に入るとそこには顔を抑えた女性と、パンツ1枚で迫る吉田の姿があった。

 俺に気付くと吉田は険しい表情で俺を睨んでくる。


「てめぇ、なにしやがる!?」

「うるさい、だまってろ!」


 一応殺さない様に1.1倍の手抜きパンチで腹を殴りつけると、嘔吐しながら白目を剥き自分の吐瀉物に頭から突っ込んで倒れた。


 部屋を見回すともう1人いた。

 咄嗟の事で逃げる事は出来なかったようだが、吉田の者と思われるナイフを持った岡田がこちらを見て睨んでいる。


「て、てめぇ……サツか!」

「吉田と岡田だな。東京都の暴力事件で逃走中の」

「ちっ」


 踵を返して裏口から逃げようとするが一瞬で間合いを詰めて首筋に手刀を打ち込む。

 漫画とかで見るやつを真似てみたのだが、あっさり倒れた。……死んでないよな?


 一応鑑定で調べたが、2人とも内臓や頸椎にダメージが入っていたが……死んでないし犯罪者だし、まあヨシ!

 

 ちらりと彼女に視線を向けるとビクッと身体をすくませる。

「ひっ」

「ごめん、怖がらせたな。とりあえずここを出よう」

「や、やめ……殴らないでっ」


 怯えきっている彼女をみて、これまでどのような対応をされていたのか想像し怒りがあふれ出て来る。

 だがそれを彼女に悟らせては怯えさせる一方だ……なんとか隠さないと。



 そんな事を考えていると受付の金髪がやって来た。


「てめぇ、何をして……って、兄貴! てめえ、兄貴の舎弟ってのはうそか!アケミィ!何やってんだこっちこい!ぶっ殺すぞ!」

「ひぃ!!」


 怯えて言いなりになろうとする彼女を手で制する。


「行かなくていい」

「え、あ……」

 混乱しているようでアケミ……いや、明美は俺と金髪をきょろきょろと見ている。


「もう大丈夫だ、とりあえずこいつらは警察に突き出すから服を着てすぐ出られるようにしておいてくれ」

 そう言うと彼女は嬢としての衣装に着替える。おそらく私服は別の所にあるのだろう。



 金髪を睨みつつ、明美の私物を鑑定で探すと確かに事務所らしき場所に保管されている。

 見えないとスキルで回収も出来ないので、とりあえずこっちが先だな。



「お前らはもう終わりだ。ここは潰れて、お前らの人生はここで終了だ」

「何言ってやがる。ここから出られると思ってんのか。おい! でてこいやぁ!」


 その声に合わせて従業員用の通路からぞろぞろと体格のいい男たちが出て来る。

 柄物の服をきて、いかにも暴力団の下っ端と言わんばかりの奴らがニタニタと下卑た笑みを浮かべている。


「アケミちゃーん、なにしてんのかなぁ?」

「仕事をさぼっちゃダメじゃん。俺達怒っちゃうよ?」

「そーそー! 休み時間、あれだけ可愛がってやったのに、もっとかわいがってやろうぁ!?」


「「「「「ぎゃははははは!!!」」」」」



 その言葉に、震えて縮こまる明美。



「いい加減にしろ屑が」


「あ?」


 俺の言葉に1人が前に出て来る。

「だぁれが屑だって?」

「お前らだよ」

「んだと!? てめぇ、ぶっ殺――ぶぎゃ」


 何かを叫ぼうとした茶髪の顔面が大きく陥没した。

 そして一瞬遅れて、男は後ろに吹き飛び仲間を巻き込んで倒れ込む。


「うわぁ!?」

「ぐああ!」


 狭い部屋の中に集まった10人近い集まりだが、その数を生かし切れていない。

 むしろ隣の仲間が邪魔で、持ち込んで来た角材やらバッドが振り回せないでいる。


 しかもこちらは身体強化をフルに使って高速移動。

 腕力だけ1.1倍という器用な事をしつつ、1人また1人とノックダウンしていく。


 鼻をへし折られたもの、腕があらぬ方向に曲がった物、わき腹を抑え痙攣する者、吉田と同じく自らのゲロにダイブする者様々だ。

 ただ一様に俺の後ろ……つまり明美に一歩も近づけずに終わっていた。


「て、てめぇ……なにもんだよ! なんだよその動きは! バケモンが!!」


 最後の1人になった受付の金髪が備え付けのランプを振り回して襲ってくるが、遅すぎる。

 3倍に引き上げられた動体視力で見た限りだと、避けるとかの以前に「当たってもコレ痛くないよな?」と判断できるレベルだ。


 とは言っても、殴られるのも癪なので躱しつつ足払い。


 ゴキン、と骨が折れる音が響いた。


「あ」


「うぎゃあああああ!!」


 しまった、腕力を1.1倍にしてたけど脚力は3倍のままだった。それで足払いしたら脛の当たりから折れてしまった。



 地面で転がってのたうち回る金髪。


 ……やっちゃったぜ!


 とりあえず辺りを見回すと客と思わしき男たちと、嬢たちが怯える目でこちらを見ていた。


 それを掻き分けて入って来たのは見せの門番をしていた、ガタイの良い男。


「……こ、これはいったい。お前がやったのか」


 何と答えたらいいのか分からず黙って見つめ返すと、何を勘違いしたのか門番は両手を上げた。

「降参だ。ウチの精鋭がボロクソになっちまったら、俺らがどうこうできる問題じゃねぇ」


 あ、精鋭だったのか。

 確かに暴れ慣れてるなとは思ったけど、スキルでやったせいで文字通り赤子の手をひねるような物あった。


「俺の目的はそこの二人だ」

「……吉田と岡田か。アンタ警察か?」

「違う」

「……裏の人間か。まさかこんな所でそんな奴に目を付けられるなんてな……ったく、とんだ疫病神だぜ」


 忌々しそうに倒れ伏す吉田たちを睨みつける。

 しかも裏の人間ってなんだよ。そんなの知らねぇってばよ。

 まあ、勘違いしてくれているならちょうどいい。そのまま思い違いをしててもらおう。


「ここの活動は上に知らせて置く。大人しくまっとうな仕事をするなら良し、そうでないならまた来るぞ」

「わ、わかった。そろそろ潮時だと思ってたんだ。女共は開放するし、この手のシノギから手をも引く。それでいいだろ?」

「ああ……お前名前は何て言う」

「聞いてどうするんだ……って言っても無駄だな。ちくしょうっ、……錦だよ。稲田組若頭、須藤錦だ」


 おっと、この人門番かと思ったら若頭だったのか。なんであんなところに居たんだよ。

 そういえばこの人は鑑定してなかったな。


須藤錦 33歳

稲田組若頭

状態:恐怖・尊敬


情報:鷲田組傘下稲田組の若頭。武術を学んでおり、その腕を買われ極道の世界に入る。

「極道とは男の価値を計る場所」と感じていたが、ここ最近の極道は金ばかりに執着しており失望している。また、女を傷つけるものを酷く嫌う性格で岡田を心底嫌っていた。アケミの事情を知っており、憐れに想い面倒な客を少しでも跳ね除けるために店先でその選定をしていた。

それでも岡田は極道社会でも顔が効く男で、逆らえなかった為彼を通してしまった。



 ……めっちゃいい奴じゃん!!

 絵に描いたような極道さんだよこの人!


 いや、やってることは犯罪だから好い奴ってのは違うか? でも、一本通った男みたいだし、後始末をしてもらう奴が必要だから少しだけ譲歩してやるか。


「コレを受け取れ」


 俺が差し出したのは、フリーで取れるメールアドレスだった。

「こ、これは?」

「何かあれば連絡しろ。常に答えるとは言えないが、内容次第ではお前の手助けをしてやる。もちろん、それが犯罪行為だった場合は……わかってるな?」


 壁に拳を叩きつけると、大きな亀裂が入り客や意識の有った暴力団関係者が悲鳴を上げる。


「わ、わかった……でもなんでそこまでするんだ? ただ俺に命令をすればいいだろ」

「まずこの後始末を頼みたい。ついでに『腐った野郎』たちを整理するにはちょうどいいだろ?」


 俺の言葉に一瞬目を見開いた彼だったが、すぐに顔つきを戻して頷く。


「わかった。それについては渡りに船だ。協力させてくれ……岡田達はどうする?」

「そうだな、お前たちの手で警察に……と言いたいところだが無理だよな」

「流石に無理だ。上から睨まれちまう」

「だったら俺が連れていく。警察署の前に縛った状態で放置すればあとは奴らがやってくれるだろうさ。たぶんここに来るだろうから、その時は上手くやれ」

「ああ、わかった」

「あと、彼女の所持品を全て出せ。それとここに来た理由にまつわる証拠も全てだ。痕跡は残すなよ

「わかった」


 錦は無事な部下に命令を出して明美の私物を持って来させた。

 さらに彼女を嵌めたというサークルの男女らの情報もまとめてもらった。


「……必要ならこっちで処理するが?」


 処理と聞いてちょっと嫌な予感がしたので断る。

 ただ代わりに「俺が頼んだ時に少し手を貸せ」と言うと2つ返事で答えた。












 その後、俺は未だ怯える明美と、SM用の荒縄で縛り上げられた岡田と吉田を引きずりながら店を後にした。


 時間にして僅か30分も満たない短い時間での大立回り。

 行きは手ぶら、帰りはヤクザ2人と悲劇の嬢を1人拾うとは何ともふざけた話だ。


 後ろでびくびくした様子の明美に振り向くと、これまたビクッと肩を震わせる。


「怖がらせてすまん。……正直、他にもやり方があったんだと思うがあれしか思いつかなかった」

「い、いえ……その、助けてもらって、感謝してます」

「ちょっとだけ待っててくれるか? こいつ等を警察に突き出してくるから。あ、勿論君の事は錦にも言わせないし、警察にも言わないから」


 そう告げると少しホッとした様子で頷いた。


 裏路地で1人で待たせるのも可愛そうなので、全力でジャンプして、屋上に上る。男2人を抱えた状態でも軽々だ。


 繁華街には交番がいくつかあるので、入り口の交番に向かうことにした。


 すると運よく巡回の警察が戻ってくるところだった。

 俺はマフラーを深く顔に巻いて、警察の前に降り立つ。




 突然、男二人を抱えた黒づくめ、赤マフラーの男が居りてきたことで警察や通行人が驚きの声を上げる。

「な、なんだ!?」

「何今、あの人何処から来たの!?」

「空から降りてこなかった?」

「え、何、撮影?」

「っていうか何あの恰好。コスプレ?」

「しかも縛られてる人……あれ、ヤクザじゃね?」

「パンツ1枚とか受けるww」



 ざわつく周囲の人々を無視して警察官に近付き声をかける。


「東京都で暴行事件を起こした暴力団組員、岡田と吉田だ。後は任せた」


 俺の言葉に警察官は顔を見て目を見開く。


「き、君! 詳しく話を」

「すまない、人を待たせてるんだ。それは出来ない、もし気になるなら裏路地にあるスナックに行ってみろ。錦と言う男が事情を説明してくれる」



 それでも俺を引き留めようとする警官を振り切って大きくジャンプする。


 走って逃げても良いが、その方角から明美と逃げる所を見られても面倒だ。


「うそ!?」

「ちょ、ビルの上までいったよ!?」

「やべー! かっけー!」

「動画投稿しよ!!」



 そんな声が聞こえて来たが無視だ無視。


 屋上伝いに明美の場所に戻ると、彼女はぽつんと1人立って待っていた。


「すまない、待たせたか?」

「きゃっ!?」


 声をかけると尻餅を尽きそうなほど驚いてしまった。


「……すまん」

「い、いえ」


 見ると彼女はいつの間にか着替えたのか、私服姿に戻っていた。

 よかった、嬢の格好は色々と露出が多いから連れ歩くには目立つ。

 とりあえずこれならばれないだろう。


「とりあえず移動しよう。ここにいると警察が来るから」

「え、警察?」

「ここの事をリークしておいた。じきにここは潰れて、君がココで働かされていたという事実は消えてなくなる」


 その言葉に彼女は少し黙ったのち、ぼろぼろと涙を流し始めた。

 どうしたらいいのか分からずオロオロしていると、彼女は鼻をすすりながらも「移動しましょう」と言って来た。


「とりあえず人の目を避けるために、屋上に向かう。……いやかもしれないが掴まってくれ」


 そういうと彼女はおずおずと身体を密着させてきたので、膝の下に手を入れてお姫様抱っこのように抱きかかえた。


「さっきみたいに飛ぶんですか?」

「ああ」

 首元に掛かる彼女の吐息がくすぐったい。


「重く、ないです?」

「男2人を軽々運ぶんだぞ? 女の人一人くらい分けないさ。むしろ軽いくらいだよ」

 そう言ってジャンプすると耳元で「きゃ」と短い悲鳴が聞こえた。


 そして近場にあったビルの屋上に降り立つ。


 繁華街のライトがキラキラと光る夜景を見せる様に少しだけ佇むと、彼女は小さな声で「綺麗」と呟いた。


「さて、綺麗な光景を見て貰いたいんだがいつまでもここにいると見つかるかもしれない。君の家は?」

「……」

「どうした?」

「たぶん、私の家はサークルの人に見はられてます」

「……そこまでするか?」

「あの人達、ずっと私を監視してて、店から逃げてないかいつもチェックするんです」

「随分と手の込んだ真似をするんだな」


 その言葉に彼女は黙ってしまう。

 ……ふう、とため息をついてから俺は意を決して声をかける。


「うちに来るか?」

「え」


 顔を上げてこちらを見る彼女は、少しだけポカンとした表情をする。


 なんというか、かわいい顔立ちだった。

 髪が元々長いのだが、環境のせいかボサボサになっている前髪の隙間から覘く瞳は夜景を反射していて、漫画やアニメで見る様な綺麗な瞳をしていた。


 ただ、頬などは吉田に殴られたせいか左頬が青くなっている。

 痛ましい傷痕に顔をしかめていると……。


戦闘経験により回復魔法lv1を獲得しました。


 まじか。

 驚きつつ、鑑定でスキルを調べる。


 ●回復魔法:怪我や病気を治す事が可能になる。代償としてスタミナを消耗する。

  レベルが上がる事にとって、治療の範囲と速度が上昇する。重症もしくは重篤な病であればあるほど時間がかかる。傷口に触れて無くとも対象の患者の一部に触れてさえいれば治癒が可能。しかし、術者がキズの位置を把握できていないと治せない。



 超便利スキルだった。

 しかも「傷の位置が把握できていないと」ってコレ鑑定があればどうとでもなるし、スタミナを使うって身体強化で全速ダッシュしても良き1つ乱れない今の俺なら使い放題じゃないか?



 ……とはいえ、いつまでも突っ立ってるわけにもいかない。

 彼女にどうするか返事を聞かねば。



 視線を改めて彼女に向けると、意を決した様子で明美が「おねがい、します」と呟いた。


 まあ、さっきまでされていた事を考えれば男の家に行くって怖いよな。

 でもカプセルホテルとかに連れて行っても、彼女の状態を見て通報される可能性すらある。

 彼女には申し訳ないがここは我慢してもらおう。

 


 俺は彼女を引きつれて自宅付近まで高速移動を繰り返す。

 最初は怯えていた明美だが、途中から「すごい」と呟きながら流れる景色を見ていた。

 すこしでも現実離れした景色を見せて、気分転換になってくれたらうれしい。


 そんな事を思いつつ、俺は夜の街を少しだけ遠回りしながら自宅へ向かった。


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