「貴方には異世界へと転移して頂きます」
夢とも思える光の溢れる空間で、見た事ないほど美人の女性はそんな事を言って来た。
なんでも彼女は女神らしく、異世界に魔王が現れたので地球の勇者の素質を持った人間を数名異世界転移させているらしい。
どこぞのラノベのように「いつの間にか見知らぬ土地」とかではなく、ちゃんと今の俺のように前もって告知した上で然るべき土地へと転移させるのが役割らしい。
「あの、拒否権は……」
「ありません」
勝手すぎません? とは思ったのだが……どうにもこの人は慈愛溢れる女神ではないようで、どちらかというとギリシャとかに見る自分勝手なタイプの神様らしい。
「貴方の力は格闘系スキルと魔法スキルに優れた平均的な勇者のようですので、そのようにしてきます。また、既に向かった者達にもつけたサポートスキルをいくつか付けておきます」
いや、そのようにしておきますって……何のことやらわからんのだけど。
「終わりました、では貴方には先に転移した勇者たちの手伝いを……」
そこまで告げると女神は何やら少し驚いた顔をして固まる。
どうしたんだ?
「……どうやら、以前転移させた勇者が魔王と相打ちして討伐したようです」
「は?」
なに、魔王倒したの? 速すぎない? っていうか、そんな魔王弱かったの?
そんな事を考えていると、女神が僅かに睨んでくる。
「……訂正しておきますが、アストリアに現れた魔王によって既に国が複数滅亡しているので、その戦闘力はアストリア最強と言えます」
あ、ちょっと怒ってる。もしかして心読めたりします?
「読めます」
おっと、この女神さんもラノベ特有の心読める人だった。
うっかり下手な事を言って怒らせても後が怖いからこれ以上はやめておこう。
「一応確認したいんですが、なんで魔王がこんなに早く討伐されたんでしょうか?」
「前提として間違っている点があります」
「間違い?」
「こちらの時間の流れと、向こうの時間の流れは大きくずれがあります。地球で過ごした1時間はアストリアにとって、1年相当になります」
「え」
なにそれ、1時間で1年!? ってことは1日で24年!?
「ちなみに異世界転移を最初にされたのはいつで?」
「35時間前です」
「35時間って、35年!? その転移者って何歳だったんですか」
「55になります」
56歳がマイナス35年って……つまり21歳で異世界転移してずっと戦い通しで、おまけに魔王と相打ちって……可哀想すぎる。
「ちなみに他の転移者は?」
「すべて死んでいます」
あっぶねぇ! なんだよそれ!
そんなやべぇ所に俺転移させられるところだったのかよ!
冷や汗を流しながら俺は胸を抑える。
「とにかく、貴方の転移は不要となりました。即座に元の場所へ戻します」
よかった、元の場所に戻れるんだ。
「ではさようなら」
「あ……はぁ」
たいして話をする暇もなく視界が光に包まれた。
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