おれとリンラは、また海辺の集落に行くことになった。今度は前よりたくさんの塩を交換してもらうためだ。
冬が近いから、塩漬けの肉や山菜を多く用意しないといけない。冬にも狩りはするし釣りもするので食料が不足することもないのだが、それでも寒さに備えて用意はしておくのだ。
冬に茂る山菜もある。それは森の中まで行かないと採れないが、丈の短い若芽のようなのが地面にびっしり生えるらしい。おれは楽しみになってきた。そんな山菜摘みなら、おれでも簡単に出来るよな。
「さあ、行こうか」
リンラは背負い籠を背負って現れた。背負い籠はアケビに似た植物のつるで編まれている。おれが知る、向こうの世界のアケビよりも細くて軽くて頑丈だ。
これでハンモックを作って木から吊るしておくのもこの村ではやっている。ここの人たちは、ぶらぶら寝床と呼んでいるのだ。いやあ便利だな。この草のつるは。
「よし、行こう」
おれは元気よく歩き出した。もうリンラも海への道は知っているわけだ。今回の行き来は楽だろう。
海の集落の巫女さんに翡翠を渡そうかと思ったが止めておく。もう珊瑚も充分に手に入れた。リンラも喜んでくれた。とは言え、どう見てもアクセサリーや宝物と言うより、いざという際の交換品として持っていてくれてる気がするけどな。
「この翡翠の勾玉(まがたま)、いくつか村の宝物庫に収めるからね」
「うん」
おれは初めて村の宝物庫を知った。海辺の集落にも巫女さんが管理しているのがあるんだから、ここにもあっておかしくはない。
「勾玉、十個あるから、そのうち四個を収めるよ。珊瑚の首飾りはアタシが持っておくね」
「うん、いいよ。リンラの言う通りで」
良きに計らえ、ではないがそのあたりはリンラに任せておく。
「昨日の夜、村長さんに渡してきたんだよ」
「そうだったのか」
リンラ、おれに言う前にもう渡していたのか。別にいいんだけどな。温泉はおれが見つけたけど、おれが生きていけるのはリンラたちのお陰なんだから。
「さ、それじゃ出掛けようか。夕暮れには帰って来られるようにしないとね。もう日が短くなってきているからね」
「そうだな」
おれは念のため、愛用の棍棒と黒曜石のナイフを確認した。それを腰から下げて、おれたちは出発した。
実は今回は小山を越えては行かない。山を迂回(うかい)するルートが見つかったから、そちらで海辺まで行く。
今ではなくなってしまった集落の人たちが、使っていた道を他の人が発見した。そうなんだ。残念ながら、それを見つけたのはおれじゃなかったんだよ。
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