おれとリンラは、村までの帰り道を歩いていた。
すでに夕暮れだった。四交代で草刈りに来ていた、両方の村人全員が温泉に入った後だった。
入る前に、土器か竹づつに湯を入れて浴び、ざっと体を洗う。それから湯につかる。
もちろん、おれはリンラとは別々に入ったのだ。がっかりなんて言わないぞ。
「いやあ、いいお湯だったね! アイルーン、本当にありがとう」
「いや、みんなの助けもあったからだよ。本当に良かった」
「うん、となり村の人たちも、アイルーンには感謝してると思うよ」
「こんなにヒスイやサンゴをもらえるなんて思ってなかったな」
「それはいいの! ちゃんとエミットさんも同意してくれたんだからね」
そう言うリンラの首元には、エミットさんからもらったサンゴの首飾りがある。
ヒスイのまが玉も、リンラがひもに通して、自分の腕に巻き付けて持っていた。
「ヒスイはアイルーンが持っておく?」
「いや、リンラが持っていてくれよ。これはリンラのおかげでもあるし、おれは、リンラのおかげでここで暮らしていけるんだから信じてるよ」
「うん、ありがとう。アイルーン」
「帰ったら、また石けん作りに挑戦しなきゃな」
「そうそう、アタシたち、海の集落で海草をもらわないとだよね」
「そうだな。うっかりと忘れていたよ。温泉を見つけたのがうれしすぎたよ」
「アタシもうれしかったよ。冬の水浴びには慣れてるけど、アイルーンのお手柄だもんね! それも、となり村の人たちまで認めてくれたからんだからね。アイルーン、すごいことしたんだよ? こういうのも財産なんだよ。ヒスイやサンゴ以上にね」
「そうだな。これからも良い物を見つけていきたい。でもな、この力は、おれが欲を強めすぎると働かなくなるみたいなんだ」
「そうなの?」
「そう。あくまでも、何というか、よくばらない気持ちが必要なんだ。よくばると、上手く探知できなくなる」
「そっか。無欲の勝利ってやつだね。分かるよ。アタシも、よくばると上手く魚を釣れなくなる。もちろん釣りたいから釣るんだけどさ。欲が強すぎるとだめ。分かるよ、その感覚」
「リンラも、なのか」
おれは意外に思った。おれと同じ感覚が、リンラにも分かるとは思ってなかったな。
「うん。狩りをする時の、研(と)ぎ澄まされた感じも、そんな風だって、前に他の人にも聞いたよ。みんな同じなんだよ、そのあたりは」
「そうなのか」
他の人にも分かる。分かるんだ。おれと同じ感覚が。
おれはうれしかった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!