妖魔の美少女とスローライフ!

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スローライフ 第十一話 米を食うぞ

公開日時: 2021年7月31日(土) 00:01
更新日時: 2021年12月27日(月) 20:35
文字数:2,280

 おれたちは、無事村に戻ってきた。もう夕暮れ、予定通りだ。遅くも早くもなかった。

 村の人たちは、おれたちを出迎えてくれた。さっそくリンラと手分けして塩と魚醤(ぎょしょう)を配る。

 村の人たちはみな喜んてくれた。

 鹿を見つけたのもおれ、山を越えて交換をしてきたのもおれだ。リンラも手伝ってくれたが、重い塩を運ぶのは、リンラだけでは難しかっただろう。


「ありがとう、リンラ。それにアイルーン君も」

 村長さんがおれたちに礼を言ってくれた。

「大したことはしてないですよ。それと、これを見てください」

「ああ、ウサギか。またどこかで見つけてきたんだね」

「そうです。何と交換してもらえますか?」

「そうだな。陸稲(おかぼ)はどうだい?」

「陸稲、米ですか」


「そう、米だよ。となり村では栽培をしているからね。私たちのように、自然の木の実や山芋を取るだけでなく、栽培した米を食べているんだよ」

「ありがとうございます。ぜひください! それにしても、こちらでは育てないんですか」

「こちらの土は水はけが悪くて、周りを森に囲まれているからね。となり村は、もっと平らでここより広いんだよ」

「余った土地で陸稲を育てているんですね」

「そうだよ」









「村長さん、米を食べるのは楽しみです。リンラ、今晩さっそく食べようか」

「そうだね。氷室(ひむろ)から昨日の残りの魚の煮込み持ってくるから、一緒に煮込んでしまおうか」

「じゃあ、火をもらってくるよ」

 おれは地下に降りて、通路を伝ってとなりの夫婦の住まいに行った。藁(わら)を編んだ、すだれのような仕切りがかかっている。

「すみません、火を分けてください」

 旦那さんの方が出て来て、火鉢から藁束に火を移しておれにくれた。

「ありがとうございます」

「いやいや、こちらこそ。君が来てから助かっているよ。リンラちゃんと仲良くしてやってくれ」

「は、はい!」

 急にリンラとの付き合いを言われたのでびっくりしてしまった。とても照れくさい気持ちだった。

 地下とは言え、天井には風を通すための穴があるから、火を小さくしておけば、空気が汚れることはない。

 でも、みなが火を持っていると火事の危険もあるし、空気もよどみやすくなる。だから火を管理する役割の家は決まっている。

 今日も天気が良いので外で煮炊きできる。おれはまた地上に出た。

「リンラ、火をもらってきたよ」

「うん、ありがと」

 リンラは火がついた藁束を受け取ると、火を起こすための地面の窪(くぼ)みにそれを置いた。そこには枯れ葉と薪(たきぎ)がある。火はめらめらと燃え上がる。リンラは、煮炊き用の土器を火にかけた。

 その中には別な人から分けてもらった、川魚と山芋の煮込みがある。リンラは交換した陸稲の米もその中に入れた。米は二人で三食分くらいありそうだった。今回食べない分は、別の土器に入れて保管しておくことにした。

「だいぶ夜が涼しくなってきたな」

「もう一枚着る?」

「いや、いいよ。リンラは?」

「アタシは大丈夫だよ」

 しかし、地面から来る冷たさは嫌だったので、今回はゴサを二枚重ねにした。それでかなりマシになった。冷気は、空気中よりも下から来るのが大きいのだ。座ったり寝ているときは特にそうである。

「もっと寒くなったら、これ靴(くつ)に入れようね」

 リンラは、おれが見つけた鹿やウサギの毛を、服と同じように草の繊維を編んで作った袋に入れていた。

「これをね、足の裏をおおうように、靴の底に入れるんだよ」

「ありがとう。リンラが作ってくれたのか?」

 藁靴の底に試しに入れてみた。とても暖かくてふわふわして気持ちが良い。

「そう、アタシが作ったの」

「ありがとう、これで雪が降っても平気だな」

「雪はあまり降らないけどね。アイルーンは、ここでの冬は初めてだよね」

「うん」

「大丈夫だよ。ちゃんと冬は越せるよ。山の上に行かなければ、そんなには寒くないから」

「山奥の集落には行けなくなるのか?」

「行けないことはないよ。ひどく雪が降っていたら嫌だけど。そうでなければ、少し寒いだけ。どうしても交換したい物があれば行くよ。あちらから来る人もいる」

「おれは夏の初めにこの世界に来たけど、まだ他の集落の人がこの村に来るのを見たことがないな」

「うーん、他の集落ではあまり外に出るのが好きでない人が多いからかな。山奥の集落は、アタシたちが塩を持っていかないと困るはず。どうしてもって話になれば、自分たちで直接海に行くかもしれないけれど、あまりそうしたくないんだって」

「そうか。保守的なのかな」

「ホシュテキって?」

「何て言うか、新しいことをやりたがらないってこと、かな」

「でもないよ。集落の中ではいろいろあるんだよ。時々、新しい交換品も出してくれる。でも外には出たがらない」

「危険だと思っているから?」

「それもあるだろうけど。人がいなくなるのが嫌なんだろうな。そのまま、別の集落に住み着いて帰って来なかったらって思うから」

「でも、外に出たい人だっているだろう?」

「いるよ。ここにも山奥から出て来た人、いるもん」

「もう帰らないのかな?」

「帰りたいときもあるみたい。でも帰ったら、引き止められるから」

「出してもらえないのか?」

「そんなことはないよ。どうしてもと言えば、またここに来られる。でもやりづらいでしょ、そういうの」

「うん。分かる、気がする」

「お米、やわらかくなったよ」

 リンラは、火にかけた土器の中を、木をけずってできた、柄(え)の長いスプーンのような物でかき混ぜた。

「ありがとう、リンラ。じゃあ食うか」

 おれたちは二人で食事を始めた。初めて食べる陸稲の米の味は、思ったよりもずっと美味しかった。

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