妖魔の美少女とスローライフ!

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スローライフ 第二十二話 ヒスイとサンゴを手に入れた!

公開日時: 2021年10月5日(火) 13:25
文字数:1,947

「いやあ、いい気持ちだね! でもアタシはそんなに長くつかっていられないみたい。なんだか足が熱くなりすぎてきたよ」


「大丈夫か、リンラ」


 まさか足湯で湯あたりはないだろう。でもそういえば、潮風と海水は妖魔の体には良くないんだったな。

 あれ? この温泉大丈夫なのか?


 あれ? でもリンラも塩分は取らないとダメみたいだし。

 

 あれ? どうなっているんだ?


「塩、たぶん温めると大丈夫みたい。それでも人よりは少なめでないと、ちょっと具合が悪くなる」


 人間にとっても、塩は取りすぎれば害になるけど。その量が少ないのか。

 あと、温めたらいいのか?


 冷たい食べ物に塩を振った物だとダメなのか?

 いやいや、まさかリンラの体で実験なんてできないぞ!


「でもかなり回復した! 足がほかほかして、元気が出てきたよ」


「そ、そうか。それならよかったよ。リンラに具合が悪くなられると、おれも困るからな」


「そうだね。これから交渉だし、アタシたちの村まで背負って行ってもらうの、悪いもんね」


「あ、いや、それは別にいいんだけど……」


 リンラを心配しているんだぞ。伝わらないなあ。


「アイルーンはもっと休んでいていいよ」


「おれもあと少ししたら出るよ。交渉が気になるもんな」


 そうやってリフレッシュしたおれたちは、となり村に戻った。

 じゃがいも交渉をした相手のエミットさんを探して、見つけたのはじゃがいも畑だ。


「エミットさん、お話があります」


 リンラが声をかけた。


「何だね?」


 エミットさんは温厚な微笑をおれたちに向けた。


「この近くに温かい湯が湧いてくる場所あります。そこをこの村とアタシたちの村で、いっしょに使いませんか?」


「え? 何だって? そんなものが」


「はい、よかったら今すぐアタシたちと来てください。案内しますよ」


 エミットさんは少し考え込んでいた。


「実はね、山奥の集落には、そんな自然の恵みがあると聞いたよ。まさかこんなところにも、それが湧くなんてね。いやあ、実に素晴らしいじゃないか」


「見つけたのはアイルーンです。アイルーンに言ってくださいね。それから、アイルーンがほしいと言うもの、できるだけください。それが、条件です」


 リンラは足湯をして確かめた効き目と、どんなに豊かな湯が湧いているかを説明した。


「どうですか? すごいでしょう? だから、アイルーンにたくさんほうびをください。この村のためにもなるんですから」


 エミットさんはじゃがいも畑を離れた。戻って来たときには、大きな手に一つかみほどのヒスイのまが玉を持って来てくれた。


「これを君に。この村からのお礼だよ」


 エミットさんはおれにそのまが玉を差し出した。


「あ、ありがとうございます!」


 恐る恐る両手で受け取る。おれの手はふるえた。


 あああ、ヒスイだヒスイだヒスイだあ!


「リンラ、これこれこれ、こんなにたくさん……!」


「大丈夫、それだけの値打ちはあるの! それに」


 と、おれに軽くひじ鉄して、今度はエミットさんに向かって、


「アイルーンはこれからもとても良い物を作るし、見つけてくれます。だから、先に取り引きしておいても損はありませんよ」


 リンラはきっぱりと確信ありげに宣言した。


 待てよリンラ、まさかまだ何かエミットさんに出してもらうつもりなのか?


「先にその温かい泉を見せてもらえるかね?」


「分かりました。では着いてきてください」


 おれたちはエミットさんを温泉まで案内した。エミットさんは、それを初めて見たとき、感嘆の声を上げた。


「うわあ、すごいじゃないか。こんな広々と豊かに湯が湧くのを見たのは初めてだよ。山奥の集落にも、こんな大きなものはないよ」


「そ、そうですか」


 山奥の集落の温泉は、どんな温泉なんだろう? 山奥は海からは離れているし、その高さまで海の塩分が届くとも思えない。


 いつか山奥の集落の温泉にも入りたいな。おれがそんなことを考えていると、


「よし分かったよ。確かにこれはすごい値打ち物だ。では、アイルーンくんには、これも差し上げよう」


 エミットさんは、サンゴの首飾りを取り出しておれに渡してきた。

 サンゴが大きめのビーズみたいになっていて、それがつながっている首飾り。


「リンラ、これ!」


 おれは思わずリンラの顔を見て叫んだ。

 やった、やったぞ。リンラにサンゴをプレゼントできるんだ!


「あ、エミットさん、ありがとうございます。これ、欲しかったんです」


 おれの声は上ずっている。こんな風に、サンゴが手に入るとは思っても見なかったからだ。


「はは、そうだろうね。この首飾りは、私の母の形見の一つさ。リンラちゃんが大事に持っていてくれたら、空の上で見ている母も喜ぶよ」


「はい、ありがとうございます。大事にします」


 リンラはきっぱりと約束した。この時には、交渉を有利にしようという態度ではなくなっていた。ただ、リンラらしい、心からの誠意が見えたのだった。

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