そうしてヘビをキレイに捌(さば)いたが、生では食べられない。魚も何もかも生では食わなかった。海辺の集落でも、刺し身のような物はないらしい。まあそれが無難というものだろう。
「じゃあ、これから火を起こすからね」
リンラは辺りから枯れ草を集めて、持ってきた乾燥した枝と木の板を取り出した。
おれは、まだ自力で火がつけられない。以前に、自然発火した森林火災から火を取ってきたのはおれだ。だから村には火が管理されて残っているのだが、一から摩擦熱(まさつねつ)で火を起こしたことはない。
「じゃあ、見ていてね」
リンラは枝の先端を黒曜石ナイフでけずり、少しとがらせた。次に木の板にも枝の尖端が収まるくらいの穴をけずり開ける。
それから枝を両手を合わせた間にはさみ込むようにして、摩擦(まさつ)を加え始めた。シュッシュッと軽やかな音が聞こえてきた。枝と板がこすり合わされる音だ。
「リンラは相変わらず手際が良いなあ」
「慣れればどうってことないよ。アイルーンもすぐに出来るようになるよ」
あまり時間を置かずに、薄く煙(けむり)が立ち上った。この段階ではまだ火はつかない。
まだまだ枝を回し続けて、こすれた場所から木の粉が生じ、そこから煙が出る。
「お、やった!」
「うん、ついたね」
リンラは手を止めた。枝を脇に置くと、煙(けむり)を出している木の粉を乾いた落ち葉や枯れ草にそっと乗せる。煙が出続けているのを確認してから、優しく息を吹きかける。そうするうちに火が燃え上がった。
リンラは火がついた枯れ草を、乾いた枝を集めた上に置いた。火は枝に燃え移り、温かい焚(た)き火となる。
「出来たよ、アイルーン。さあ、ヘビを焼こうね!」
「うん」
おれは、他の木の枝を火であぶってキレイにしてから、ヘビの身を刺した。川魚を焼くときのように、火のそばの地面に立てる。身は焼かれて良い匂いが漂(ただよ)い出した。
「美味しいな」
充分に火を通してから、おれとリンラはヘビの肉にかぶりついた。今となっては抵抗はない。ありがたく感謝していただくのみである。
「ありがとう、リンラ。火を起こしてくれて。疲れただろ?」
「平気平気。アイルーンのお陰でヘビ捕まえられたんだからね」
「毒ヘビ出なくてよかったよ」
「毒ヘビで死んだ人もいないから大丈夫! かまれるとめんどうだけどね。しびれて動きが鈍くなるから。一晩休めば元に戻るけど」
「毒ヘビは食わないんだろ?」
「うん。毒のないのがいくらでもいるからね。川魚も釣(つ)れるし」
「そうだよな」
おれはうなずいた。黒曜石ナイフで削(そ)ぎとったヘビの皮を見て、これも何かに使えるのだろうかと考えていた。
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