妖魔の美少女とスローライフ!

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スローライフ第三十四話 ありがとう、リンラ

公開日時: 2021年11月18日(木) 10:30
更新日時: 2021年12月27日(月) 22:54
文字数:1,176

 おれたちは、真珠貝を手にした。おれが元の世界で見ていた物よりももっと美しい。微光が放たれている。神秘的な美があった。


「すごくきれいだね。話には聞いていたけれど、見るのは初めてなんだよ」


「おれもだ。写真でしか見たことがない」


 写真が何であるかは前に説明した。上手く伝わったかどうかは分からないが、リンラは関心を持って聞いてくれた。


 すごくきれいな貝がらだけでも価値がありそうだなと思う。


「真珠、取り出してみるか」


「気を付けてね。真珠を傷つけたら価値が下がっちゃうよ」


「ああ、そうだな。リンラがやってくれるか? リンラはおれより器用だし、黒曜石ナイフの扱いにも慣れてるから」



「分かった。じゃあアタシがやるね」


 リンラは黒曜石ナイフで、巧みに真珠を取り出していった。初めてとは思えない手さばきの良さだ。心底感心した。


「いや、実に素晴らしいよ」


「うん、すごく大粒の真珠だよね」


「いや、それもあるけど、リンラの器用さがすごいなって」


「そうかな? そう言ってもらえるとうれしいな」


 少し照れくさそうに。


「アタシ、これが珊瑚より好きだよ」


 リンラはにっこりした。


「見つけてくれてありがとう、アイルーン」


「あ、いや、これはおれが見つけたんじゃない。気が付かなかったよ、全く」


「そうなの?」


「ああ、そうだよ」


 でもなぜ気が付かなかったのだろうか。


 おれは不安になってきた。


「どうしたの、アイルーン?」


「真珠貝にまるで気が付かなかった。まさか、力がなくなってきてるわけじゃ……ないよな」


「なんだ、そんなこと? 大丈夫だよ。仮に力がなくなっても、アイルーンは村の仲間だよ。アタシも付いてる。心配しないで」


「ありがとう、リンラ」


 おれは、それだけを口にした。





「うん、大丈夫。大丈夫だよ。何も心配いらないよ」


 リンラの笑顔は美しかった。


「ありがとう、アイルーン。君がこの世界に来てくれて本当にうれしいんだよ。アタシ、本当に……」


 リンラが急に涙声になった。


「なんだよ、リンラ。泣いたりするなよ」


「アイルーンのおかげでね、アタシ本当に寂しくなくなったんだよ。今まで、村の人たちは良くしてくれたけど、家族はいなかった。ずっと自分の部屋で独りだったから」


「リンラ……」


 いつも元気で明るいリンラにこんな一面があるなんて。おれは驚いていた。


「アイルーンが来てくれて、家族のいない人がもう一人いるって思えて、アタシだけじゃないって。アイルーンはアタシを大事にしてくれた。敬意を持って接してくれた。ありがとう、ありがとう! アタシ、本当にアイルーンが」


 その時、大きな波がやって来た。危険なほどの大きさではない。リンラは板の上に乗ったまま全身に波をかぶった。おれの胸の高さまでの波だ。リンラなら立っていても頭の上にきてしまうだろう。


「リンラ、ここを出よう」


「うん」


 おれたちは真珠貝と取り出した真珠を持ってほら穴の外に出た。


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