おれたちは、真珠貝を手にした。おれが元の世界で見ていた物よりももっと美しい。微光が放たれている。神秘的な美があった。
「すごくきれいだね。話には聞いていたけれど、見るのは初めてなんだよ」
「おれもだ。写真でしか見たことがない」
写真が何であるかは前に説明した。上手く伝わったかどうかは分からないが、リンラは関心を持って聞いてくれた。
すごくきれいな貝がらだけでも価値がありそうだなと思う。
「真珠、取り出してみるか」
「気を付けてね。真珠を傷つけたら価値が下がっちゃうよ」
「ああ、そうだな。リンラがやってくれるか? リンラはおれより器用だし、黒曜石ナイフの扱いにも慣れてるから」
「分かった。じゃあアタシがやるね」
リンラは黒曜石ナイフで、巧みに真珠を取り出していった。初めてとは思えない手さばきの良さだ。心底感心した。
「いや、実に素晴らしいよ」
「うん、すごく大粒の真珠だよね」
「いや、それもあるけど、リンラの器用さがすごいなって」
「そうかな? そう言ってもらえるとうれしいな」
少し照れくさそうに。
「アタシ、これが珊瑚より好きだよ」
リンラはにっこりした。
「見つけてくれてありがとう、アイルーン」
「あ、いや、これはおれが見つけたんじゃない。気が付かなかったよ、全く」
「そうなの?」
「ああ、そうだよ」
でもなぜ気が付かなかったのだろうか。
おれは不安になってきた。
「どうしたの、アイルーン?」
「真珠貝にまるで気が付かなかった。まさか、力がなくなってきてるわけじゃ……ないよな」
「なんだ、そんなこと? 大丈夫だよ。仮に力がなくなっても、アイルーンは村の仲間だよ。アタシも付いてる。心配しないで」
「ありがとう、リンラ」
おれは、それだけを口にした。
「うん、大丈夫。大丈夫だよ。何も心配いらないよ」
リンラの笑顔は美しかった。
「ありがとう、アイルーン。君がこの世界に来てくれて本当にうれしいんだよ。アタシ、本当に……」
リンラが急に涙声になった。
「なんだよ、リンラ。泣いたりするなよ」
「アイルーンのおかげでね、アタシ本当に寂しくなくなったんだよ。今まで、村の人たちは良くしてくれたけど、家族はいなかった。ずっと自分の部屋で独りだったから」
「リンラ……」
いつも元気で明るいリンラにこんな一面があるなんて。おれは驚いていた。
「アイルーンが来てくれて、家族のいない人がもう一人いるって思えて、アタシだけじゃないって。アイルーンはアタシを大事にしてくれた。敬意を持って接してくれた。ありがとう、ありがとう! アタシ、本当にアイルーンが」
その時、大きな波がやって来た。危険なほどの大きさではない。リンラは板の上に乗ったまま全身に波をかぶった。おれの胸の高さまでの波だ。リンラなら立っていても頭の上にきてしまうだろう。
「リンラ、ここを出よう」
「うん」
おれたちは真珠貝と取り出した真珠を持ってほら穴の外に出た。
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