おれたちは、浅瀬を海岸から離れて歩いてみようと思った。おれはリンラのそばを歩き、何かあったらすぐ抱きかかえて戻るつもりで歩いていった。
波はキラキラと陽光に輝いている。波頭は白く立たず、ただ透明と青が打ち寄せる。淡い、明るい青だ。
しばらく沖まで歩き続けた。だいぶ遠くまで来たけれど浅瀬は続く。足の間を魚が泳いで通り抜けた。まるで用心しないんだなと思う。試しに捕まえてみた。取り放題のつかみ取りだ。入れ物がないから放すしかないが、川魚を釣るよりも楽だなと思った。もっとも、おれは釣りは好きだ。面倒ではない。
その時、リンラがこう言ってきた。
「やっぱり少し疲れやすくなっちゃうな。温泉に入っている時と同じだね。ああ、温泉は気持ちよくて疲れが取れるけど、長くいるとのぼせちゃうんだよ。アイルーンには感謝してるからね」
「疲れるって? だるいのか?」
おれは少し心配になった。
「ちょっと足が重くなってきた。でもまだ気になるほどじゃないよ」
「もう、けっこう海岸から離れたな。戻ろうか」
「大丈夫! それにほら、これを持ってきたから」
リンラはさっと木の板を取り出した。籠(かご)とは別の粗布の袋に入れて持ってきていたらしい。
「塩を交換してくれたおじさんに借りたんだよ」
リンラは板を海に浮かべた。
「こうやってね、つかまって足を浮かせれば、けっこう楽だから」
「分かった。疲れたら言えよ。おれが板を押して戻るからな」
「うん、ありがとう。アイルーン」
リンラは腰から上を板に乗せた。両足を浮かせて、軽く水を蹴(け)る。似たような泳ぎを川でもやっていた。この浅く穏やかな海なら、おぼれたり波にさらわれたりもない。
歩いていくと、海の中にそびえ立つ大岩が見えてきた。大岩には、洞窟(どうくつ)のような穴が空いていた。奥は暗くてよく見えない。
「入ってみようよ」
リンラが好奇心いっぱいに、そのエメラルドグリーンの目を輝かせて言う。エメラルドって見たことあるか? と尋ねると村の誰も知らないと答えたが。
「行っても大丈夫かな」
「山歩きのためのつえは持ってきているでしょう? それでつつきながら歩こうね」
おれはそうした。山や草むらを歩くときには、何か危険な物がないか探りながら歩く。つえを使って、つつきながら。ここでもそうすることにした。
ゆっくりと奥へ進みながら辺(あた)りを見回すと、だんだん目が慣れてきて外から見たよりも明るいとは思えた。何も見えないほどではない。夕暮れ時くらいの薄明るさだ。
「見て、アイルーン。貝がある」
リンラの言う通りだった。きれいな真珠貝があった。ぱっくりと口を開けて、貝の内側が見えた。白銀の光沢(こうたく)に虹色の光のツヤが見える。真珠らしきふくらみも見えた。
「きれい!」
「ああ、きれいだな、リンラ」
おかしい。何の感覚もなかった。
それでもこの発見はうれしいものだ。真珠貝は、見たところ五つもあった。
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