おれたちは、カラフルなゼリーみたいなきのこを、たくさん籠(かご)の中に入れて海辺の集落まで歩き続けた。小山を越えるより楽だった。見晴らしの良さとふもとより澄んだ空気が味わえないのは残念ではあるが。
海辺の集落では、数日前に来た時に会った巫女さんを中心に、女の人たちが十五人、舞を舞っていた。老いも若きも皆一緒だ。
巫女さんと同じ紅い衣を身に着けて、首や腕から珊瑚(さんご)の飾りをさげていた。珊瑚は桃色と、白に近い淡いピンクがあるようだった。
カランコロンと、巫女さんが土鈴(どれい)を鳴らす。澄んだきれいな音だ。元の世界で聴いた、金属製の鈴より柔らかでありながら、涼やかでもある音。
「お祭りなのかな?」
リンラが興味津々の目で見ている。
「さあ? おれも初めて見るよ」
おれは前に塩と魚醤(ぎょしょう)を交換してくれた夫婦の家に向かう。場所は覚えていた。
幸い、おじさんもおばさんも家にいておれたちを歓迎してくれた。
海辺の集落の家はおれたちの村と違い地上に屋根がある。藁(わら)のような干し草を三角錐(さんかく すい)の形にしているのだ。
トンガリ屋根とは言えない。なぜなら、三角錐の底辺に当たる面は広く、屋根のてっぺんの尖りは鋭い角ではなく広い角になっているからだ。その底辺の広さが、家の床の広さなのだろう。
「あの、冬は寒くないですか?」
おれは気になって尋ねる。
この世界の冬はさほど厳しくはなく、十二月の小春日和ほどの気温がずっと続くと聞いている。山奥の集落では、時折雪も降るらしいが、おれたちの村では稀だ。ちなみに雪は、固められて干し草に包まれ、山奥の集落からの交換品となるときもあるらしい。
「冬の寒さはそれほどではないよ。海からの風を避けられればね」
「そうですか」
「外からでは分かりにくいだろうけど、この家の中はね、半分地下にあるんだよ。ちょうどそのお嬢さんの背丈の半分くらいを、下に掘り込んでいてね。地面より下に床があるんだよ。床も壁も土の中だから暖かいよ」
「あ、そうなんですか」
おれはそれを聞いて安心した。おれよりもずっと長い間暮らしているのだから、このくらいの工夫をしているのは、考えてみれば当然だったなぁと思う。
「それで冬は床にゴザと毛皮を敷いてね。床の真ん中で焚き火をする。天井から汚れた気は出ていくよ。火を起こしても、気は濁(にご)らないんだ」
「ああ、それは良いですね」
空気を『気』と呼ぶのを知っている。呼吸により、体内にも気をめぐらしていると考えられているのだ。それは酸素などでなく、生命エネルギーのような物らしい。
そこでリンラが横から言った。
「あの、今回交換していただきたいのは塩だけではないんです。海草を、食べられない物でかまわないので分けてもらえますか? このきのこと交換してください」
海草。そうだよ、石けんのための海草だ。忘れるところだったよ。
「ああ、かまわないよ。そのきのこを見るのは久しぶりだよ。もう採(と)れないと思っていたんだがね。ちょうどよかったよ」
おじさんは快く了解してくれた。
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