「見たところ他の道と変わりないな。ただ、道しるべになる縄(なわ)と勾玉(まがたま)はないみたいだけど」
「まだ見つかったばかりだからね。大丈夫だよ。道は真っ直ぐで迷ったりしないよ」
「リンラ、この道行くのは初めてなんだろ?」
「教えてもらったから大丈夫。本当に真っ直ぐなんだって。迷ったりしないよ。途中に泉もあるって。川の水より澄んでいて美味しいらしいよ」
そうなのか。楽しみだな。そこで水分を補給したら、長い道のりも平気になれそうだ。
今回は陸稲(おかぼ)の蒸し米も持ってきた。大きな笹の葉に包(くる)まれている。
笹の葉は乾燥させてから煮出してお茶のように飲んだりもする。ちょっと草の香りがするような、青くさい匂いだがおれは好きだ。
リンラと歩いていく海辺の集落への古い道。踏み固められていた道はまだ健在。余計な草が茂って通れないなんて羽目にはなっていない。
道の左右には草木が茂る。それは山の上の道と同じだ。
歩いていて、途中の草むらでヘビを見つけた。
「リンラ、このヘビ食えるのか?」
「うん、毒が無いから大丈夫だよ!」
ヘビを食うのには慣れた。獣や鳥を捕まえて赤い血を流す方が、おれには抵抗がある。今でも。
「上手く捕まえられるかな」
「けっこう素早いからね。アタシが後ろから行くから、アイルーンは前に回り込んでね」
「分かった」
おれは出来るだけ音を立てずに、草むらを移動した。ヘビに気づかれないように、そっと。
リンラはまだ動かないヘビの後ろから離れた場所でじっとしている。
おれがヘビの頭の方に来ると、リンラがヘビに近寄って後ろから手を伸ばした。当然、ヘビは前へ逃げる。
おれは両手を大きく広げて、ベビの前方で待ち構えた。ヘビはとっさに、左右への方向転換は出来ないはずだ。
案の定、へビは大きく首の向きを変えて逃げようとしたが、すぐには隠れられない。おれはヘビが毒を持たないと知らされていたので、首元を持ってつまみ上げた。
次に、胴の半ばあたりをしっかりと握る。
「捕まえたぞ、リンラ」
「ありがとう! じゃあ、さっそく捌(さば)こうね」
おれはヘビを押さえて、再び地面に置いた。リンラは近くから出来るだけ平たい石を持ってきた。上にヘビの頭部を乗せて、
「じゃ、アイルーン、やってみて」
と、言った。
「よし、やるぞ」
おれは黒曜石のナイフで、ヘビの首元をかき切った。
ヘビや魚からも赤い血は流れるのだが、おれにはヘビは魚に近い生き物だ。殺すのに抵抗は少ない。
「温かい血って感じがしないんだよな」
今回は、キジを殺した時のような緊張はない。ソレでもおれは、命を軽んじてはいなかった。
「よしよし、よくやったね」
「うん」
おれはその後、魚の三枚おろしみたいに、骨と肉を分けていった。
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