ヘビを食べ終わると、おれたちはまた海辺の集落への道を歩き始めた。
その前にきちんと火の後始末をした。枝を燃やし尽くしてもう消えかけてはいたが、念のためさらに土をかぶせて消しておく。
「さ、行こうか」
リンラは元気よく先に立って歩き出した。おれは後を追い、すぐに横に並んだ。
踏み固められた地面には、まだ歩くのに苦労するほどの草は生えていない。左右の草むらには、村や森で見られるような花々はなかった。その代わり、色とりどりのきのこが生えていた。宝石か、お菓子のゼリーみたいに透明感があって、陽の光を受けてきらきらしていた。と言うと毒きのこかと思えるだろうが、おれには分かった。大丈夫、これは食べられるきのこだ。
「キレイだね、きのこ。色んな色があるね」
リンラは楽しそうだった。
そう、色んな色があった。オレンジに赤にグリーンにブラウン、それに黄色。
「そうだな、一つ取ってみるか?」
おれは目を輝かせて見ているリンラにそう言った。
「いいよ、帰りにしようよ」
「この道はしばらく使われていなかったんだろ? こんなきのこは他では見たことがないぞ」
そこでリンラは気が付いたようだ。
「あ、そうか。海辺の集落で交換に使えるね」
「そうそう。この道を使っていた集落の人たちがいなくなってからは、海辺の集落では、このきのこを見ていないんじゃないかな? 以前にも海辺のには行ったけど、きのこなんて見なかったよ」
「そっか、そっか。じゃあ多めに取って行こうか」
「うん、どうせ向こうで交換するんだ。籠(かご)にいっぱい取ろう」
おれたちはそうした。鮮やかな、ゼリーみたいなきのこをたくさん取って、籠(かご)にいっぱいにした。
籠の中でもきのこは鮮やかな色を失わず、陽の光に照らされてきらめいていた。
「うわあ、こうして集めてみるとすごくキレイ」
リンラは心底感心したようだ。
「リンラ、帰りにもきのこを取って帰ろう。熱を加えたらどうなるのか分からないけど」
「食べられるんでしょ?」
リンラは目をぱちくりさせた。
「もちろん。それは間違いない。たけど色がどうなるのかは分からないな」
「そっか。他のきのこみたいに白や茶色っぽくなるのかも? まあいいよ、それでも」
リンラのその返事を聞いて、おれは思い付いた。
「海辺の集落の人たちにも言っておかないとな。色がどうなるのかは分からないって」
リンラはうなずく。
「さっきの火、消さなければよかったね、アイルーン。試しに焼いてみたらよかったよ」
「そうだな、交渉のためには分かっていた方がいいけど」
リンラはきのこを一つ手に取った。赤い、ルビーみたいな色のきのこだ。リンラは傘の部分をちぎって、手ですり潰した。色は変わらない。
「手の温かさくらいじゃ色は変わらないみたいだね」
リンラは言った。
「そうだな、ひょっとすると火であぶっても大丈夫なのかも知れない」
おれはそう答える。
「この道がずいぶん以前に見捨てられていたのでなければ、きのこのこと、あっちの集落の人も覚えているかも知れないんだけど。今は、どうだろう?」
リンラが、ふと思い付いたように言った。
「そうだな。まあ、行って実際に聞いてみないと分からないよ」
「そうだね、ところでアイルーン」
「何だよ?」
リンラは、左右の草むらを手で示しながら言った。
「近いうちにこの道にも、目印を付けるからね。お守りの像も置くんだよ」
「お守りの像って、山の上で見たあれか?」
「そう、似たような感じ。山の神様とは少し違う姿だけど」
そ、そうか。いろいろあるんだな。
「海の神様の像を置かせてもらうんだよ。海辺の集落への道だからね」
おれはうなずいたが、別なことが気になった。
「なあ、リンラ。なくなってしまった集落は、どうしてなくなってしまったんだ?」
「その集落はとても小さい集落だったけど、この辺りであまり獲物が捕れなくなってしまったんだよ。だから別な場所に移動していった。ごくたまにそうしたことがあるんだよ」
「そうなのか」
おれは驚いた。当時に不安にもなった。それならおれたちの村は? 大丈夫なんだろうか。
「アタシたちの村は大丈夫だよ、アイルーン。北にも南にも豊かな森があるからね」
それを聞いておれは安心した。
「そうか、よかったよ」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!