妖魔の美少女とスローライフ!

退会したユーザー ?
退会したユーザー

スローライフ第三十話 色とりどりのきのこ

公開日時: 2021年11月6日(土) 23:49
文字数:1,709

 ヘビを食べ終わると、おれたちはまた海辺の集落への道を歩き始めた。

 その前にきちんと火の後始末をした。枝を燃やし尽くしてもう消えかけてはいたが、念のためさらに土をかぶせて消しておく。

「さ、行こうか」

 リンラは元気よく先に立って歩き出した。おれは後を追い、すぐに横に並んだ。


 踏み固められた地面には、まだ歩くのに苦労するほどの草は生えていない。左右の草むらには、村や森で見られるような花々はなかった。その代わり、色とりどりのきのこが生えていた。宝石か、お菓子のゼリーみたいに透明感があって、陽の光を受けてきらきらしていた。と言うと毒きのこかと思えるだろうが、おれには分かった。大丈夫、これは食べられるきのこだ。


「キレイだね、きのこ。色んな色があるね」


 リンラは楽しそうだった。

 そう、色んな色があった。オレンジに赤にグリーンにブラウン、それに黄色。


「そうだな、一つ取ってみるか?」

 おれは目を輝かせて見ているリンラにそう言った。

「いいよ、帰りにしようよ」

「この道はしばらく使われていなかったんだろ? こんなきのこは他では見たことがないぞ」

 そこでリンラは気が付いたようだ。


「あ、そうか。海辺の集落で交換に使えるね」

「そうそう。この道を使っていた集落の人たちがいなくなってからは、海辺の集落では、このきのこを見ていないんじゃないかな? 以前にも海辺のには行ったけど、きのこなんて見なかったよ」


「そっか、そっか。じゃあ多めに取って行こうか」

「うん、どうせ向こうで交換するんだ。籠(かご)にいっぱい取ろう」


 おれたちはそうした。鮮やかな、ゼリーみたいなきのこをたくさん取って、籠(かご)にいっぱいにした。

 籠の中でもきのこは鮮やかな色を失わず、陽の光に照らされてきらめいていた。


「うわあ、こうして集めてみるとすごくキレイ」

 リンラは心底感心したようだ。


「リンラ、帰りにもきのこを取って帰ろう。熱を加えたらどうなるのか分からないけど」

「食べられるんでしょ?」

 リンラは目をぱちくりさせた。


「もちろん。それは間違いない。たけど色がどうなるのかは分からないな」

「そっか。他のきのこみたいに白や茶色っぽくなるのかも? まあいいよ、それでも」


 リンラのその返事を聞いて、おれは思い付いた。


「海辺の集落の人たちにも言っておかないとな。色がどうなるのかは分からないって」


 リンラはうなずく。


「さっきの火、消さなければよかったね、アイルーン。試しに焼いてみたらよかったよ」

「そうだな、交渉のためには分かっていた方がいいけど」


 リンラはきのこを一つ手に取った。赤い、ルビーみたいな色のきのこだ。リンラは傘の部分をちぎって、手ですり潰した。色は変わらない。


「手の温かさくらいじゃ色は変わらないみたいだね」

 リンラは言った。


「そうだな、ひょっとすると火であぶっても大丈夫なのかも知れない」

 おれはそう答える。


「この道がずいぶん以前に見捨てられていたのでなければ、きのこのこと、あっちの集落の人も覚えているかも知れないんだけど。今は、どうだろう?」

 リンラが、ふと思い付いたように言った。


「そうだな。まあ、行って実際に聞いてみないと分からないよ」

「そうだね、ところでアイルーン」

「何だよ?」


 リンラは、左右の草むらを手で示しながら言った。


「近いうちにこの道にも、目印を付けるからね。お守りの像も置くんだよ」

「お守りの像って、山の上で見たあれか?」

「そう、似たような感じ。山の神様とは少し違う姿だけど」

 そ、そうか。いろいろあるんだな。


「海の神様の像を置かせてもらうんだよ。海辺の集落への道だからね」

 おれはうなずいたが、別なことが気になった。


「なあ、リンラ。なくなってしまった集落は、どうしてなくなってしまったんだ?」

「その集落はとても小さい集落だったけど、この辺りであまり獲物が捕れなくなってしまったんだよ。だから別な場所に移動していった。ごくたまにそうしたことがあるんだよ」

「そうなのか」

 おれは驚いた。当時に不安にもなった。それならおれたちの村は? 大丈夫なんだろうか。


「アタシたちの村は大丈夫だよ、アイルーン。北にも南にも豊かな森があるからね」

 

 それを聞いておれは安心した。


「そうか、よかったよ」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート