おれたちは海から上がり、塩を交換してくれたおじさんの家で少し休ませてもらった。
巫女さんと女の人たちの踊りはゆっくりと休みをはさみながら、夕暮れまで続くと聞いた。なのでおばさんにはあいさつをしないまま帰ることになる。
おじさんはおれたち二人に昆布と貝のスープを振る舞ってくれた。海から上がって冷めていた身体が温まる。
そういやクラゲは出ないんだな。もしいたら刺されていて、やっかいなことになっていただろう。
「クラゲかい? いるよ。でも刺したりはしないよ。ふわふわとただよっているだけだ。白くて光に透けていて、きれいだなとワシは思うんだよ」
「クラゲ、食べるんですか?」
「またにはね。でも貝や魚や昆布の方が美味しいよ」
おじさんは、小さな貝と昆布を干して乾燥されていたのを湯で煮出してくれたのだ。最高に美味い出汁スープだ。塩を入れなくても美味い。でも塩を全く取らないのも健康に良くない。それは元の世界と同じだ。
「ありがとうございました。それでは帰ります」
「ああ、またおいで。いつでも歓迎するよ」
おれたちは小山を登らずに、ふもとの道を歩いて帰ることにした。あの透明なゼリーみたいなきのこが生えている道だ。
「リンラ、きのこ少し摘(つ)んで帰ろう。おれはまだ食ったことがないぞ」
「アタシもだよ。じゃあ、少しだけね。あまり重くなるのも困るからね」
「確かに、このきのこ少し重いよな。水気が多いっていうか」
「干したら萎(しぼ)んじゃうかな。そのまま煮込んでもいいと思うけど」
おれたちは黄色やオレンジ色、それに赤いきのこを摘んだ。それぞれ三個ずつ籠(かご)に入れた。
「さあ、まだ夕暮れには間があるよ。明るいうちに村に戻ろうね」
リンラの言葉におれはうなずく。
そうやって二人で並んで歩き続けた。予定通り明るいうちに帰って来られた。村では川辺で煮炊きが始まっている。湯気と煙と、いい匂いがただよっている。
「少しくたびれたな」
おれは持ってきていたゴザを敷いて座った。セイナさんが作っておれにタダでくれたゴザだ。広げると干し草の良い香りがした。この香りにはいつも癒(いや)やされる。
リンラも同じゴザに座り込んだ。遠くから花の香りもただよう。甘い、蜂蜜(はちみつ)に似た香り。
そのセイナさんが出迎えてくれた。
「おかえりなさい。大丈夫だった?」
「はい、この通り、塩を持ってきましたよ」
おれは言った。セイラさんは、それを皆で分配するために持っていった。当然、おれたちの取り分は残しておいてくれた。
「休んだら、石けんを作るよ。この海草で、やってみよう」
休んだ後に、リンラとおれは立ち上がり川辺に向かった。
火をもらって薪(たきぎ)に火を着けて、摘(つ)んできたゼリーみたいなきのこを焼く。きのこはみるみるうちに、淡い茶色に変わっていった。少し焦げ目が付いて美味しそうだ。
「いただきまーす!」
おれはきのこにかぶり付いた。
「リンラも食い終わったな。じゃあ、次は石けんだ!」
「うん」
おれたちは海草を灰にするため焼き始めた。もらってきた海草は、ほぼ乾燥していて水気はほとんどない。たやすく燃えて灰になった。
「これを脂(あぶら)と混ぜるんだ」
「今日、借りでイノシシが取れたって。脂身、もらってくるね」
リンラはその場を離れた。おれはワクワクしながら脂身が来るのを待っていた。
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