「わあ、すごいよ! こんなの見つけるなんて、アイルーン、本当にすごい!」
リンラは大喜びだ。
「そうだ、リンラ、これでおれたちは冬の間も、いや今からでも温かい風呂に入れるんだ。歩くのを苦にしなければ毎日だって!」
男女は交代で入る方がいいよな?
さすがにリンラといっしょに、てわけにはいかないだろう。うん……たぶん無理だ。
「夢見てるみたい。こんなの初めて見たよ!」
リンラは心底うれしそうだった。
「なあ、リンラ。この近くに火山はあるのか?」
「近くにはないよ」
「でも、あるんだな」
「うん、山奥の集落を越えて、さらに向こう側。けっこう離れてる。時々噴火するけど、こっちには害はないよ。ちょっと灰が降ってくるのを何日か我慢すればいいだけ」
「そうか。火山が噴火するとそれなりには大変なんだな。だけどリンラ、この温泉、えーとつまりこの温かい湧き水は、その火山が温めてくれたから、ここに湧いたんだよ」
「そうなの?!」
「そうだよ。火山が噴火した時に吹き出す熱いドロドロしたのは、噴火しない時でも地面のずっと下で熱いままなんだ。それが地下水、つまり井戸水として取れる地面の下の水の、一部を温める。その一部がこうして泉のように湧いてくることがあるんだよ」
「なるほど! そうなんだね」
リンラは感心しておれの顔を見ている。おれはとても良い気分だ。
「アイルーン、アタシたちが知らないことよく知ってるね」
「まあな。元の世界には嫌な思い出が多いけど、それでも無駄じゃなかったんだ」
そうだよ、無駄じゃなかったんだ。
「あのね、この温かい湧き水、アタシたちの村ととなり村のちょうど中間あたりにあると思う」
リンラは発見の喜びにだけ浮つくことなく、冷静だった。おれは、この温泉の位置には気がつかなかった。
「そうか」
「うん、確かだよ。歩いてきた長さと方向、ちゃんと分かってるもん」
「さすがだな、リンラ。おれにはちょっとよく分からなかった。となり村に近いと思ってた」
「いいや、ちょうど真ん中あたりだよ」
「そうか。なら、この温泉、つまり温かい泉は、おれたちととなり村の人たちの共有ってことになるな」
「キョウユウって?」
「お互いの持ち物ってことだよ」
「そうだね。そうした方が無難だと思う。アタシたちだけで独占しないほうがいいよ。幸い、この池みたいな温かい泉はけっこう大きいから、みんなで四回くらい交代すれば全員入れる」
やったあ、風呂だ、風呂だ!
みんなで風呂に入れるぞ!
「歩くのは、アタシたちの村からも、となり村からも同じくらいだよ。うまい具合に真ん中にあったよね。また戻って、となり村の人たちと話をつけなきゃ」
交渉か。よし、リンラ頼んだぞ!
「その前に、ここで足だけひたして洗おうよ。だいたいどんな感じなのか、話さないと交渉にはならないよ」
確かにそうだ。それにおれも少し疲れた。足だけでも温泉につかって、疲れを癒(い)やしたかった。
おれたちはワラで編まれたくつを脱ぎ、服のすそをまくって、足のふくらはぎ全体までを湯につけた。
じんわりと広がる快感!
温かい! 温かいよう!
「あ〜いい気持ち。土器で沸かしたお湯と違う感じからするよ。アイルーンはどう思う?」
そうだ、土器で沸かした湯とは違うはずだ。温泉には効能があるからな。どんな効能かまでは分からないけど。
硫黄(いおう)のにおいはしない。肌がぬるぬるしない。と、言うことは、硫黄泉や弱アルカリ泉ではない。色は無色透明だ。
おれは湯を手ですくい、少しだけなめてみた。塩からい。海の水よりはからくないけれど、しっかりと塩の味がする。
「海も近いからか。地下水が流れる通り道にも、塩分がしみ込んでるのがあるんだな。それがマグマで温められて湧いてきたんだ」
となり村の井戸は違うだろうけど。それは真水で冷たかった。
塩からい。塩が入っている。すなわち塩化ナトリウム。それが溶け込んだ温泉を、塩化物泉と言ったはずだ。
真水の湯よりも、疲れを癒やしたり、体を芯まで温める効果が大きい。湯冷めしにくく、塩分による皮ふの殺菌効果もあり、血行促進作用もある。
やった。やった。やったぞ。
我ながら大手柄だ。
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