妖魔の美少女とスローライフ!

退会したユーザー ?
退会したユーザー

スローライフ 第二十一話 温泉♨はいいぞ!

公開日時: 2021年10月4日(月) 17:38
文字数:1,677

「わあ、すごいよ! こんなの見つけるなんて、アイルーン、本当にすごい!」


 リンラは大喜びだ。


「そうだ、リンラ、これでおれたちは冬の間も、いや今からでも温かい風呂に入れるんだ。歩くのを苦にしなければ毎日だって!」


 男女は交代で入る方がいいよな?

 さすがにリンラといっしょに、てわけにはいかないだろう。うん……たぶん無理だ。


「夢見てるみたい。こんなの初めて見たよ!」


 リンラは心底うれしそうだった。


「なあ、リンラ。この近くに火山はあるのか?」


「近くにはないよ」


「でも、あるんだな」


「うん、山奥の集落を越えて、さらに向こう側。けっこう離れてる。時々噴火するけど、こっちには害はないよ。ちょっと灰が降ってくるのを何日か我慢すればいいだけ」


「そうか。火山が噴火するとそれなりには大変なんだな。だけどリンラ、この温泉、えーとつまりこの温かい湧き水は、その火山が温めてくれたから、ここに湧いたんだよ」


「そうなの?!」


「そうだよ。火山が噴火した時に吹き出す熱いドロドロしたのは、噴火しない時でも地面のずっと下で熱いままなんだ。それが地下水、つまり井戸水として取れる地面の下の水の、一部を温める。その一部がこうして泉のように湧いてくることがあるんだよ」


「なるほど! そうなんだね」


 リンラは感心しておれの顔を見ている。おれはとても良い気分だ。


「アイルーン、アタシたちが知らないことよく知ってるね」


「まあな。元の世界には嫌な思い出が多いけど、それでも無駄じゃなかったんだ」


 そうだよ、無駄じゃなかったんだ。


「あのね、この温かい湧き水、アタシたちの村ととなり村のちょうど中間あたりにあると思う」


 リンラは発見の喜びにだけ浮つくことなく、冷静だった。おれは、この温泉の位置には気がつかなかった。


「そうか」


「うん、確かだよ。歩いてきた長さと方向、ちゃんと分かってるもん」


「さすがだな、リンラ。おれにはちょっとよく分からなかった。となり村に近いと思ってた」


「いいや、ちょうど真ん中あたりだよ」


「そうか。なら、この温泉、つまり温かい泉は、おれたちととなり村の人たちの共有ってことになるな」


「キョウユウって?」


「お互いの持ち物ってことだよ」


「そうだね。そうした方が無難だと思う。アタシたちだけで独占しないほうがいいよ。幸い、この池みたいな温かい泉はけっこう大きいから、みんなで四回くらい交代すれば全員入れる」


 やったあ、風呂だ、風呂だ!

 みんなで風呂に入れるぞ!


「歩くのは、アタシたちの村からも、となり村からも同じくらいだよ。うまい具合に真ん中にあったよね。また戻って、となり村の人たちと話をつけなきゃ」


 交渉か。よし、リンラ頼んだぞ!


「その前に、ここで足だけひたして洗おうよ。だいたいどんな感じなのか、話さないと交渉にはならないよ」


 確かにそうだ。それにおれも少し疲れた。足だけでも温泉につかって、疲れを癒(い)やしたかった。


 おれたちはワラで編まれたくつを脱ぎ、服のすそをまくって、足のふくらはぎ全体までを湯につけた。


 じんわりと広がる快感! 

 温かい! 温かいよう!


「あ〜いい気持ち。土器で沸かしたお湯と違う感じからするよ。アイルーンはどう思う?」


 そうだ、土器で沸かした湯とは違うはずだ。温泉には効能があるからな。どんな効能かまでは分からないけど。


 硫黄(いおう)のにおいはしない。肌がぬるぬるしない。と、言うことは、硫黄泉や弱アルカリ泉ではない。色は無色透明だ。 


 おれは湯を手ですくい、少しだけなめてみた。塩からい。海の水よりはからくないけれど、しっかりと塩の味がする。


「海も近いからか。地下水が流れる通り道にも、塩分がしみ込んでるのがあるんだな。それがマグマで温められて湧いてきたんだ」

 

 となり村の井戸は違うだろうけど。それは真水で冷たかった。


 塩からい。塩が入っている。すなわち塩化ナトリウム。それが溶け込んだ温泉を、塩化物泉と言ったはずだ。


 真水の湯よりも、疲れを癒やしたり、体を芯まで温める効果が大きい。湯冷めしにくく、塩分による皮ふの殺菌効果もあり、血行促進作用もある。


 やった。やった。やったぞ。


 我ながら大手柄だ。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート