それから数時間も経過すると、満腹だったお腹の方も余裕が出てきたので、次なる行動を開始する。
「さてと。ならストロベリー狩りに出かけるか」
「おう」
そして楽しいデートタイムだ。
マーシャはレヴィと腕を組んでストロベリー狩りエリアへと向かい、二人分の料金を支払った。
栽培ハウスに入ると、ストロベリーの甘酸っぱい匂いが二人に直撃した。
「うお。美味そうな匂い」
「もぎたてならすっごく美味しそうだ」
「持ち帰りが別料金で、その場で食べるのは入場料金内なんだよな?」
「うん」
「よし、食べよう」
「食べまくろう」
二人はうん、と頷き合って、まずはもぎたてストロベリーを堪能することにした。
太陽の光を存分に浴びた赤いストロベリーはとても美味しかった。
お腹周りが二割増しになるぐらいに食べまくった二人は、備え付けのベンチで休むことにした。
「はふぅ。もう無理だぁ」
「食ったなぁ」
「美味しかった」
「すげー美味かった」
お互いに寄りかかって、満足そうなため息をつく。
「お腹いっぱいだな」
「ああ。これ以上はちょっと無理だ」
これ以上食べるとぴーごろごろ的な事になってしまう可能性がある。
ベンチでのんびりした後は、持ち帰り用を確保するつもりだった。
「何だかのんびりな時間だな」
「ああ。こういう時間は好きだぞ」
「私も好きだ」
「ここのところ、バタバタしていたからなあ」
「トラブルも嫌いじゃないけど、やっぱりのんびり出来る時間も好きだな」
「……嫌いじゃないのかよ」
「平和すぎると勘が鈍るし」
「それはそうだけどさぁ……」
「それにトラブルがあるからこそ、出会えた人も居るし」
「それはその通りだな」
一番の収穫は、マーシャに同性の友人が出来たことだろう。
ランカ・キサラギはマーシャが亜人であることを知った上で、それでも友達になることを望んでくれた少女だ。
別れてきたばかりの美少女を思い出しながら、マーシャは口元を緩めた。
「タツミと上手くいっているといいんだけどなぁ」
ようやく実ったランカの恋を応援したいマーシャは、あの二人が上手くいっていることを祈るのだが、レヴィは逆に同情していた。
「どうだろう。上手くいっていることは確かだろうけど、タツミは犬だからなぁ。しかもご主人様を振り回すタイプの駄犬。今頃は針でしばかれているんじゃないか?」
「簡単に想像出来るな……」
調子に乗りまくったタツミがランカに殴られたり、針でしばかれたりしているところが簡単に想像出来てしまった。
それはそれで上手く行っていると言えるのだろうが、ラブラブな恋人同士とは言えないだけに少しばかり複雑だった。
あの駄犬にもう少しだけ乙女心を理解するだけの理性があったらと思うのだが、そんなものを期待出来るのなら駄犬などと呼ばれてはいないだろう。
なまじ知性があるだけに、理性が欠けているのが嘆かわしい。
「相方がアホだと苦労するよな」
しみじみとマーシャが呟く。
「……それは誰と比較して言ってるんだ?」
「もちろんレヴィに決まっているじゃないか」
「言い切ったっ! タイムラグ無しで言い切りやがったっ!」
少しぐらい言葉を濁してくれることを期待していたレヴィは大いに傷ついた。
「傷つく資格は無いと思う。レヴィのもふもふマニアっぷりは異常だ。端から見るとただのアホだ」
「ひでえっ! そこに愛があるんだぞっ!」
「愛というよりは執念にしか見えない」
「ひでえっ!」
「だって私以外のもふもふも触りたいんだろう?」
「もちろんだっ!」
「トリスのもふもふも触りたいんだろう?」
「トリスだけじゃない。ナギも触りたいっ! もふもふ愛で溢れているっ! 愛情たっぷりに触りまくりたいっ!」
「つまり男に愛を振りまくんだな」
「……そういう言い方をされると、激しく誤解を招きそうなんだが」
男に愛を振りまく男。
勘弁して欲しい表現である。
恐ろしい誤解を招きかねない。
レヴィはもふもふが好きなのであって、男が好きな訳ではない。
「なら萌えだっ! もふもふに萌えてるんだっ! これでどうだ?」
「ふむ。つまり男に萌えを感じる男?」
「余計に酷くなったーっ!!」
うわああああああ……と頭を抱えるレヴィを見て、マーシャがクスクスと笑う。
レヴィをからかうと面白いので、ついエスカレートしてしまう。
いつもは自分がやりたい放題にもふもふされているので、これぐらいはマーシャの反撃特権なのだ。
「うう。ちくしょう。帰ったらいっぱいもふもふしてやるからな……」
「う……」
恨めしそうな目でそんなことを言われたので、今度はマーシャが身震いする羽目になった。
それから持ち帰り用のストロベリーをたっぷりと箱詰めした。
みんなへのお土産にもなるし、オッドに何か作って貰えると期待しているので、かなりの量を持ち帰っても美味しく食べられる筈だと考えている。
レヴィとマーシャは両手たっぷりのストロベリーを持ったままハウスを出た。
ストロベリーの持ち帰り料金は店売りに較べるとかなり高いのだが、新鮮さと場所の雰囲気込みの割増料金なのだろうと割り切った。
コテージに戻ると、オッドとシオンが嬉々としてベリー系調味料を並べていた。
どうやらかなりの収穫があったらしい。
楽しいデートタイムを満喫したようで何よりだった。
「ただいま。これはお土産だ。ストロベリー」
マーシャとレヴィが両手に持っていたストロベリーの箱を渡すと、オッドがぎょっとしてしまう。
「多すぎないか?」
「加工すれば大丈夫だろう? ジャムとか」
「……全部俺がやるんだが」
「頑張れ」
「………………」
オッドはがっくりと肩を落とした。
「大丈夫ですです~。あたしも手伝うですよ~」
そんなオッドにシオンがよしよしと頭を撫でてやる。
慰めているつもりなのだろうが、子供に頭を撫でられるおっさんというのも複雑な気持ちになるだけなのだった。
それからオッドが作った夕食を食べて、その日は就寝となった。
オッドだけはストロベリーの仕込みの為に夜遅くまで起きていたが、手伝う人は誰もいなかった。
シオンは頑張ろうとしていたようだが、やはり夜は眠くなってしまうようで、途中で船をこぎ始めたので、そのままベッドに運んだのだ。
デザート・ジャム・アイスなど、新鮮な内に仕込んだ方が美味しいと分かっているので、オッドは徹夜で頑張ったのだ。
もちろん翌日は寝て過ごすことになるのだが。
★
翌日になると、マーシャは移動の準備をしていた。
見て回るべき場所は一通り回ったので、次の場所に行こうとしたのだ。
しかしオッドはまだ残るつもりらしい。
ストロベリーのデザート加工が終わるまでは動けないし、何よりも眠い。
徹夜作業がかなり祟っている。
朝に美味しいストロベリームースを食べたマーシャは、次も期待していると言って、オッド達の滞在延期を申し込んでいた。
次の目的地までは車で移動して、日帰りでここまで戻ってくればいいと考えたのだ。
レヴィとシャンティと一緒に次の目的地に行こうとしたのだが、そこで邪魔が入ってしまう。
レヴィの携帯端末が鳴ったのだ。
「誰だ?」
レヴィは携帯端末を取り出して着信者を確認するのだが……
「げ……」
それを見てやばい、という表情になったのをマーシャは見逃さなかった。
「誰だ?」
じーっとマーシャが覗き込む。
「ええと、その……なんというか……」
レヴィは視線を逸らしながら言い訳をしようとしていたのだが、マーシャのジト目からは逃れられない。
「まさか、浮気相手?」
「違うわっ! つーかマーシャ相手にそんな恐ろしい真似は出来ねえよっ!」
「………………」
恐ろしいと言われたことに少しむくれてしまうが、だからこそレヴィの言葉には説得力があった。
しかし浮気相手ではないのなら、一体どんな相手がレヴィにそんな顔をさせるのか。
マーシャは何としてでも突き止めるつもりだった。
携帯端末はまだ鳴っている。
留守番モードへの切り替えはまだだ。
「出ていいか?」
「相手は?」
「……ハイドアウロ中将」
「………………」
案の定、マーシャが不機嫌MAXになった。
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