「私はレヴィにもう一度会いたかった」
「………………」
「そしてレヴィに追いつきたかったんだ」
「………………」
「もう二度と、置いて行かれたくなかった」
「………………」
「レヴィがいなくなってから、私とトリスは必死で勉強したよ。レヴィのことも調べた。だからレヴィと一緒に宇宙を飛び回る為には、自分も同じ場所にまで行かないといけないって思ってた。だからいっぱい勉強して、宇宙船の操縦も練習した。幸い、お爺さまは協力的だったから、いろいろなことを学ぶのは容易だった。途中でトリスは居なくなってしまったけれど、私は私が目指す未来を諦めないって決めていたから、ずっと頑張ってきたんだ。いつまでもお爺さまに頼る訳にもいかないから、投資家としての勉強もして、お金を稼げるようになって、そして自分で宇宙船を造ったりもした。戦闘機の操縦もレヴィに追いつきたかったけど、私には宇宙船の操縦の方が性に合っていると分かったから、そっちを専門にすることに決めたんだ。よくよく考えると、宇宙船の操縦というのも悪くないからな。レヴィが戻ってくる母船を操縦出来る訳だから」
「あの、マーシャ?」
「何だ?」
「もしかして、俺ともう一度会う為だけにここまでのことをやらかしたのか?」
「ここまでのこと?」
「だから、エミリオン連合軍に目を付けられるほどの高性能宇宙船を造ったのかってことだ」
「うん」
「………………」
即答された。
それがとんでもないことだとは考えていないらしい。
普通、そこまでの技術を開発したのなら、もっと他のことに利用しそうなものだ。
世話になったリーゼロックに理術提供をして莫大な利益を得るとか。
それこそエミリオン連合軍に提供しておけば、こんなトラブルにもならずに済んだのに。
どうして軍を敵に回すリスクまで負って、こんな危ないことをしているのか。
レヴィにはそれが理解出来なかった。
「もちろん、何も考えなかった訳じゃない。お爺さまにも忠告された。シルバーブラストを造る段階になって、性能データを見せた時、これだけのものを個人で造ろうとすれば、絶対にエミリオン連合軍が黙っていない。力ずくでも奪いに来るかもしれないと言われたよ。でも、それが分かっていても、やっぱり止める気は無かったし、エミリオン連合の為になるようなことは絶対にしたくなかった。これは単に気分の問題だな。トリスほど復讐に凝り固まっている訳ではないけれど、それでも私はエミリオン連合が大嫌いだ。あいつらの為になるようなことは絶対にしたくない。だからといってこそこそするのも性に合わない」
「気持ちは分かるけどな」
しかし意地だけで通せるようなことでもないだろうに、と呆れてしまう。
それを通してしまったから尚更呆れてしまうのだが。
呆れを通り越して賞賛するべきなのかもしれないが、それはしづらいというのが正直な感想だった。
「私はレヴィともう一度会いたかった。追いつきたかった。そうすれば一緒に居られると思ったから。本当に、それだけだったんだ」
「置いていったのは悪かったよ。でも、あの時はああするしかなかったんだ。分かっているだろう?」
「もちろん、分かっている。私達を護る為だって事も、ちゃんと分かっている」
「………………」
「だけど、それでも嫌だったんだ」
「………………」
「理屈で納得しようとしても、感情はそういう訳にもいかない」
「まるで駄々っ子だな」
「その通りだ。ストレートな感情を言葉で表現するのなら、『嫌なものは嫌だっ!』だな」
「堂々と言われても……」
しかも大きく育った胸を張って言われても困る。
しかし目のやり場には困らない。
立派になったなぁ、と感心するぐらいだ。
ここで照れ混じりに視線を逸らすほど、レヴィも初心ではないのだ。
むしろガン見する。
「もう二度と置いて行かれない為にはどうすればいいのか。答えは簡単だ」
「簡単か?」
そこまで簡単な答えではないように思える。
しかしマーシャの答えはストレートだった。
そして大正解でもある。
「簡単だぞ。足手まといにならなければいい。ついでに、私がレヴィを護れるぐらいに強くなればいい。その為の力も手に入れればいい。ほら、簡単だろう?」
「……簡単だな」
ただし、答えが簡単なだけで、結果を伴わせるのはとんでもない難易度だと言いたい。
しかしその難易度を軽々と乗り越えて、マーシャはここまで来てしまった。
経済力を身につけて、操縦者としての技倆も身につけて、頼りになる仲間と一緒に、無敵の宇宙船を手に入れてここまでやってきたのだ。
確かにシルバーブラストがあればマーシャ達だけではなく、レヴィ達のことも護れるだろう。
あの船にはそれだけの力がある。
正確には、あの船にマーシャとシオンの二人が揃えば、それだけの力がある。
「レヴィに置いて行かれない為の条件を揃えて、私はここまでやってきた。今回のことは、本当にそれだけのことなんだ」
「だったら素直に会いに来ればいいじゃないか」
「そのつもりだったんだけどな。思ったよりも早くエミリオン連合に嗅ぎつけられたから、運び屋としてのレヴィをちょっと利用させて貰おうと思ったんだ」
「利用って……」
「それにこの件に巻き込めばレヴィはグレアスを殺せる訳だから、一石二鳥だとも思った。それとも、あいつを私とシオンだけで片付けて、事後報告してから会いに来た方がよかったか?」
「それは、嫌だな……」
危険なことを女子供だけに押しつけて、安全になってから会いに来られても複雑だった。
マーシャ達にはそれが出来るだけの力があると分かっていても、それでも嫌だった。
しかも相手はレヴィの復讐対象なのだ。
獲物を横取りされたような気分になって、素直に再会を喜べなかっただろう。
「だろう?」
ニヤリと笑うマーシャ。
少しだけ意地の悪い笑みだった。
からかっているようにも見える。
年上の男性を手玉に取る悪女に育つのは勘弁してもらいたい。
「だからきちんと獲物を用意した上で、ついでに利用もさせてもらおうと思って会いに来たんだ」
「うーむ。いろいろと複雑だ」
「結果オーライだからいいんじゃないか?」
「まあ、それもそうか。それにしても、そこまで大がかりなことをしてまで俺に会いたかったっていうのは、なんだか照れるな」
「そうか? 私にとっては普通のことだぞ」
「そこまで一途に行動されると、勘違いしそうになる」
「?」
「いや、なんか恋する女の子の行動みたいじゃないか」
やっていることはメチャクチャだが、レヴィに会う為にひたすら努力してここまでやってきたというのは、まさしく恋する女の子の行動だった。
しかしマーシャの方は得意気に笑う。
「当然だろう。私はあの時からずっとレヴィが大好きだぞ」
「………………」
あっさりと告白された。
照れも意地もなく、あっさりと大好きだと言われた。
流石に呆気にとられてしまうレヴィ。
「えーっと……それ、マジ?」
いきなりすぎて、間抜けな返答をしてしまう。
男としては割と最低な対応だった。
「嘘を吐く理由は無いと思うけど?」
そしてきょとんとするマーシャ。
疑われる理由が分からないといった表情だった。
「うーむ。困った」
いきなり告白されても対応に困る。
他の女性ならば適度にお茶を濁して、軽い付き合いに留めるところなのだが、幼い頃から知っている相手で、しかもここまで頑張ってくれた相手にそんなことをするのは気が引ける。
しかしレヴィはとある理由から本気の恋愛はしないと決めているのだった。
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