その日のあたしはシャンティくんと買い物に出ていました。
今日はパーツの買い出しではなく、本の買い出しでした。
電子書籍が主流の現在ですが、シャンティくんは紙の本を好んでいるみたいで、割高な本屋を巡りながら、好みの本を探しているみたいです。
あたしはそんなシャンティくんに付き合いながらも、何か面白そうな本が無いか物色していきます。
しかしあたしが読みたいと思えるような本は滅多に見つかりません。
結局はシャンティくんに付き合うだけの本や巡りになってしまいました。
屋台で軽食を買い込んで、二人で食事をしていると、周りからは微笑ましいカップルに映っているであろうことも、なんとなく分かっています。
でもオッドさんが相手だと、そうは見て貰えないだろうなぁと考えると悲しくなってしまいます。
「はあ……」
オレンジジュースを飲みながら、あたしは盛大なため息を吐いてしまいます。
「どうしたの?」
シャンティくんが首を傾げています。
いきなり隣で盛大なため息を吐かれたのですから、自分が何かしてしまったのかと心配しているようです。
「うー。何でもないです」
「何でもないって感じでもないけど。僕、何かした?」
「シャンティくんが原因じゃないから、気にしなくていいですです」
「じゃあ、オッドが原因?」
「………………」
「え? マジで? 適当に言ってみただけなんだけど、まさかの図星?」
「う~」
「……あのさ、もしかしてオッドが好きなの?」
「悪いですか?」
「悪いとは言わないけど。意外だなと思って。オッドに懐いているのは知ってるけど、まさか本気で好きだとは思わなかった」
「う~」
「僕から見ても子供が大人にじゃれついているようにしか映らなかったし」
「う~」
「そんな目で見ないでよ。悪気は無いんだよ。素直な感想ってだけで」
「う~」
素直な感想だからこそ悲しくなってくるということを、シャンティくんは理解していないようです。
もう少しデリカシーを学んで欲しいと切実に思います。
「もう、どうしたらいいか分からないですです」
「何があったのさ?」
「う~」
「……もしかして、振られたとか?」
「そんなの、最初から振られているです」
「………………」
「でも諦めずにアタックを続けてるです」
「それはまた、健気だねぇ」
シャンティくんが感心したように言います。
普通は振られたら諦めるものですが、あたしはオッドさんを諦めたくはないのです。
「そんなにオッドが好きなの?」
「大好きですです」
「……僕にも一言ぐらいおこぼれをくれてもいいんじゃない?」
「友達としてならシャンティくんのことも好きですよ」
「さいですか……」
何故か落ち込むシャンティくんでした。
シャンティくんもあたしのことを友達として見ている筈ですから、問題はないと思うんですけど、男心は複雑なのかもしれません。
「シャンティくんは好きな人っているですか?」
一応、興味本位で訊いてみます。
多分、居ないとは思うんですけどね。
もしも本当に好きな人がいたら、あたしと一緒に出かけたりはしない筈ですし。
「ん~? 一応いるよ」
「え? いるんですか?」
「何。その反応。いちゃ悪い?」
「好きな人がいるなら、あたしとこうやって出歩いていてもいいのかなと思っただけですです」
「シオンだってオッドが好きなのに僕と出歩いているじゃん」
「それはそうですけど。ちなみに誰ですか?」
「えっとね~。クララちゃんと、セリシアちゃんと、クラリーチェさんと、メルティちゃんと……」
「ず、随分と多いですです……」
気が多すぎですです……。
ちょっとだけ引いてしまいます。
シャンティ君ってかなりの誑しさんだったようです。
「そりゃね~。人間じゃなくて美少女ゲームの攻略キャラだから」
「へ?」
「だから、美少女ゲームの攻略キャラだよ。今までプレイした中で、好みだった女の子を思い出してみた」
「それ、好きな人とは言わないと思うです……」
思わずジト目で睨んでしまいます。
真面目に訊いたあたしが馬鹿みたいですです。
「え~。何を愛するかは人それぞれじゃない? 二次元しか愛せない人もいる訳だし」
「シャンティくんはそのタイプですか?」
「だって現実の女の子はすぐに裏切るし……」
「え?」
影を背負った表情でそんなことを言うシャンティくんに、ぎょっとしてしまいます。
一体彼の過去に何があったですか?
女性不信に陥るようなことがあったのなら、かなり心配ですです。
ハラハラしながらシャンティくんを見ていると、何故か悪戯っぽく笑われました。
「別に何もないよ~。ただ、ネットの海に潜っていると、結構ヘヴィーな話が色々と散らばってるんだよね。現実の女の人って、結構えげつないというか。そんな話ばっかり見ていると、ちょっと尻込みしちゃうというか。二次元を愛でている方がまだ平和じゃない?」
「それは極論だと思うですです。マーシャやレヴィさんみたいに理想的なカップルもちゃんといるですよ」
「アレを理想的と言っていいかどうかは微妙だと思うなぁ。だってアニキはラブラブよりも、明らかにアネゴのもふもふ狙いじゃない?」
「……それは否定出来ないですです」
「でしょ?」
「でもドロドロはしていないと思うです」
「確かにね。お似合いの二人だと思うよ。僕もその内好きだと思える三次元の女の子に出会えるかもしれないけど、今のところはまだかな」
「そうですか」
「シオンのことは結構可愛いと思うけど、恋愛感情とは違うって分かっちゃうしね」
「それはあたしも同感です。シャンティくんのことは大好きですけど、やっぱり友達として大好きって感じですです」
「だよね~」
「ね~」
「それで、シオンはどうしてオッドが好きなのさ?」
ほのぼのした雰囲気になりかけたところで、シャンティくんが切り込んできます。
「どうしてって言われると困るですけど、好きなものは好きだからどうしようもないですです」
「よく分からないけど、恋愛ってそういうものなのかな」
「あたしも初めてだから、よく分からないです」
「オッドはシオンの何が気に入らないのかなぁ。僕から見ても可愛いと思うし、ロリコンのハードルを越えれば問題無いと思うんだけど」
「そのハードルが高すぎるみたいです」
「あー。確かにね。オッドは僕たちの中では一番常識的な大人だし。なかなか大胆なことは出来ないよねぇ」
「シャンティくんはどうですか? ロリコンになるのは嫌ですか?」
「今の段階じゃなんとも言えないよ。だって僕も子供だし」
「う~」
「ただ、好きになったなら、相手がどんな年齢だろうと関係無いとは思うけどね。本当に好きになったら、僕は熟女だって相手にするかもしれないよ?」
「……それは相手側が犯罪者になっちゃうと思うです」
熟女はかなり極端ですけど、愛に歳は関係無いという意見だけは理解出来ました。
「こればっかりはオッドの好みというか、理性の問題だからねぇ」
「………………」
確かにその通りです。
だからこそどうすればいいのか分からないです。
「まあ、シオンに諦めるつもりが無いならガンガン責めればいいと思うよ。幸いなことに、オッドはフリーだしね。押して駄目なら押し倒
せっ! なんてね♪」
「……引いてみろ、じゃなくて?」
「既成事実を先に作って逃げ道を塞ぐっていう手があるでしょ?」
ぐっと親指を立てるシャンティくん。
なかなかに凄いことを言います。
「そうしたくても無理ですです。あたしとオッドさんじゃ力量が違いすぎて、簡単に抑え込まれちゃうですです」
「寝込みを襲うとか?」
「はっ! その手があったですっ!」
「……冗談だからね」
「やっぱり駄目ですか?」
「有効だろうけど、オッドが起きたらやっぱり抑え込まれると思う」
「はう~。なかなか難しいです~」
「具体的には、どんなアタックをしているのさ?」
「毎日夜這いをかけてるですっ!」
「……さらっと凄いことを言ったね、今」
「正確には毎日ベッドに潜り込んで、一緒に寝てるです」
「まあ、それぐらいなら可愛い方かな」
「欲求不満が溜まって襲ってくれるのを待ってるですけど、オッドさんってば強情でなかなか襲いかかってきてくれないですよ」
「それは待つだけ無駄だと思うけど……」
オッドさんがあたしを子供として見ている以上、一緒に寝たところでそれ以上の進展は無いだろうってことぐらい、ちゃんと分かっています。
「でも、他に思い付かないです」
「いや、他にも方法はあるよ。揺さぶりをかけるだけなら色々あるし」
「本当ですかっ!? 教えて欲しいですっ!」
「教えてもいいけど、オッドの被害が増すだけのような気がするから、教えない方がいいかもとか思ったりもしてるんだけど……」
「シャンティくんっ! 友達の恋路を応援するのはばっちり正義なのですっ!」
「そ、そうかなぁ……」
あたしがぐいぐいと攻めると、シャンティくんは完全に押されています。
自分でも強引だと分かっているのですが、どうしてもここから先に進みたいのです。
是非ともその方法を教えて貰う必要があります。
「ええと、じゃあ定番なのからいくけど……」
「ばっちこいですっ!」
「こういうのはどうかな?」
シャンティくんが美少女ゲームの経験を参考にした、定番の方法を色々と教えてくれます。
現実の恋愛に関してゲームの知識を参考にするのは少しばかり問題があるような気もしますが、この際なりふり構っていられません。
有効そうならひとまずぶつかってみるのみです。
あたしはシャンティくんが教えてくれるいろいろな事に対して、うんうんとテンションを上げながら頷くのでした。
最後はガッツポーズでやる気を漲らせます。
「よーしっ! 帰ったら早速オッドさん攻略作戦開始なのですですーっ!」
「うん。まあ、頑張って……」
シャンティくんはなんだか遠い目で応援してくれました。
どうしてそんな目をするのかは分かりませんけど、色々と教えてくれたことは感謝しているのです。
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