「どうも! はじめましての皆さんは、はじめまして! 勇者魔王商会、お客様担当の勇者です」
そこから始まった動画は思ったより再生回数を伸ばしていた。
運転中の他愛ない通話を流したり乗ってるバイクを紹介したり、どこが変わっているというわけでもないんだけど。
「勇者といえば魔王討伐ですよね! 俺の方は完結してるんで、今回はもう一人の勇者のパーティにお邪魔してます」
勇治はさらっと自分が勇者で魔王と戦ったって言ってるけどいいのかな。
ああ、そうか。この世界じゃ、そういうキャラ付けだって認識されるだけか。
そしてエンディングにはRPG風のドット絵で勇者A、村人A、魔法使い、勇者B、魔王のパーティが現れる。
ぽてぽてと歩いては、ゴブリンを倒した! だの、大玉メロンを拾った! だの、微妙に俺達のやってきたことをなぞっているし、この妙にゆるい雰囲気はなんか気になるんだよな。
「おい、次のはできたか?」
「うむ」
勇治が聞くと、ブルーライトカット用の眼鏡越しにキーボードを叩いていた魔王が短く応えた。
「ほう、面白いもんだな」
画面を覗き込んでいるのは鹿島神宮で会った武甕槌命っていう神様。もう一人は香取神宮の経津主神だそうだ。
二人とも本体は宮を離れるわけにはいかないがこれならと、そう言って現れた姿は二頭身にデフォルメされた手のひらサイズの分霊だった。
「魔……眞生さん器用ですね」
「この程度なら問題ない」
「魔力でなんとかする、ってわけじゃないんだ」
「できなくはないがバグが発生する」
俺が呟くと魔王は困ったもんだと眉根を寄せた。
「これは、げーむにはならんのか」
画面を指差して武甕槌命が言う。
「魔王が勝利する展開ならすぐにでも作れるぞ」
魔王はふんぞり返って、ちんまい神様達を見下ろした。
「おいおい、そこは勇者に勝たせろよ」
「我は魔王であるぞ。なぜ魔王が負けるようなものを作らねばならんのだ」
神様達と魔王が睨み合う。何だか物騒な雰囲気になってきた。
「勝ち負け両方の場合で作ればいいじゃないですか」
「よしっと準備できたな。ん? なんの話だ」
俺と勇治が同時にツッコんだ。
「おお、勇者か。画面のこれは、げーむにはならんのか?」
武甕槌命は余程気に入ったらしく、ぴょんぴょんと飛び上がって勇治にアピールした。
「やってもいいっすけど、そんな需要ありますかね」
「俺はやりたい!」
「うーん、考えときますね。やるなら徹底的に魔王勝利のバッドエンドとか、勇者の勝利でもそこからの真のエンディングとか、色々用意しないとつまんないっすよね。やり込み要素も難易度も少し高めにしないと面白くないだろうし……」
武甕槌命は思ったよりハードな仕様を提示されたのか、真顔になって黙ってしまう。
魔王はと見れば、本格的にどうしようかと考え出した勇治を見て、作るのかと頭を抱えていた。
「それより……」
と、気を取り直した魔王が珍しく俺に話を振った。
「はい?」
「貴様、そいつを勇治と名で呼ぶのになぜ我を名で呼ばぬ」
それ!?
えっと、それはですね。ちょっと怖いんです、どうしても名前を呼ぶのに緊張してしまうんですよ。ハハハ……なんて言えるわけないだろ!
俺が口ごもると武甕槌命がニヤニヤ笑って言った。
「フフ……大方お前が怖いのであろうよ。おい、俺のことは遠慮なくたけちゃんと呼んでいいぞ」
それもハードル高いんですが。そんなことで張り合わないでほしいんだけどな。
苦笑いを顔面に貼りつける俺を小さな手がつんつんと突いた。
「僕はふーちゃんで」
ちょっと待ってください、あなたもですか。俺はため息をつく。
「わかったぞ、こやつらのように小さくなれば良いのだな。それなら恐れず我を眞生と呼べるであろう」
言った次の瞬間、魔王は手のひらサイズに変化した。
「勇治、この人ってこんな人だった?」
「さあな。一緒に仕事し始めてからは、なんだかんだ結構面倒見のいいやつなんじゃないかなとは思ったが……俺にはこんなことしなかったな」
そうなんだ……
異世界勇者と繋がりたいなんて厨二病丸出し、みたいなハッシュタグ、それまでの俺だったら気に留めるはずもなかった。どっちかといえば隠したい気持ちのほうが大きかったから。
だけど見た瞬間、なにかに引き込まれるように手が伸びたのはいつだったろう。
それで知り合った人達はもう結構な人数になる。なんていうか、ここまでくると大抵のことは驚かなくなってくるな。
たとえRPG画面を作っているのが魔王だとしても。神様が手のひらサイズで目の前にいたとしても。
テーブルの上がわちゃわちゃと騒がしい。掴み合ってんだか、じゃれあってんだか、このサイズじゃわかりにくいな。
「ま、眞生! それから……たけちゃんとふーちゃん」
小さい三人が俺を見上げた。
「おやつでも食べようか」
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