風が頬を撫でていく。こんな時だけど、やっぱり気持ちいい。
《なるべく広がって下の様子を見てくれ》
《はい!》
《わかりました》
お互いの間隔を少しずつ広げていく。隣を飛んでる勇治さんは平気かな。もう少し近くにいた方がいいだろうか。
『ご主人』
ボルドール? 頭の中に声が響いてくる。
『ご主人、隣が気になるのだろう』
『うん』
『アルに聞いてみてもいいか』
『勇治さんが大丈夫か聞いてくれるの?』
『うむ、少し待っていてくれ』
話したいことを考えただけでボルドールはあたしと会話ができた。声に出したい話じゃないって気を利かせてくれたのかもしれない。
これをそのまま受け入れられるようになったってことは、あたしもこの異世界に馴染んできたってことかな。
『緊張で体が固くなってはいるが、慣れようと努力しているから大丈夫、だそうだ』
『そうかあ、よかった』
『ただ、もう少し心を開いてくれたらと言っていた』
『初めてって言ってたからね』
あたしはギリギリまでアルの近くに寄っていく。
「勇治さん、もう少し間隔開けていいですか」
「ああ! 大丈夫だ」
「本当にぃ?」
あたしが茶化したように言うと勇治さんは頭を掻きながら苦笑した。その手をそのままビシッとこめかみに当てて敬礼をする。
「駄目な時はつかさ先輩に助けを求めます」
「よろしい!」
あたしも敬礼を返して二人とも吹き出した。
「ありがとな」
「じゃ、距離開けますね」
あたしは手を振ってボルドールを離れさせた。
下の景色が草原から森林に変わってくる。隊列は左からあたし、勇治さん、真ん中に蓮を挟んで、ラウールさん、眞生さんと並んで飛んでいる。
《どうだ、何か変わったことはあるか》
《こっちは特に何もないわよ、高い木が多くなってきたくらい》
《俺んとこもだ》
あたしと勇治さんが言う。
《こちらも変化なしです》
《こちらもだ。遠くに海岸線が見える》
反対側も何もなさそう。
《この辺、町や村はないんですか》
《確か、この森林地帯を抜ければ村があったはずです》
《ここは人里から離れているから魔物の活動地域だと思う。暴れてないなら手出しはしないが気をつけて見てくれ》
《わかった》
《了解》
そのまましばらくの間は何もなかった。
こちら側からは見えないけど、こんもりと木に覆われた丘陵に沿うように村まで道が続いているそうだ。こっちは茂みが途切れることはあっても道らしい道はない。それでもひと山越えて、やっと開けた場所に出てきた。遠くに湖が小さく見える。その近くに豆粒のように村があった。
《村が見えるな》
《特に変わった様子はないですね》
《じゃあ、このまま進むの?》
《そうだな。よし、進もう》
《了解》
突然、湖に水柱が上がった。
《何!?》
《あそこは水竜の生息地だと思いましたが。彼らは気性も穏やかですし、治めている王もいらっしゃるので争いが起こることはないはずですが》
《何かあったんじゃないか》
《急ごうぜ!》
ドラゴン達は速度を増す。
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