Dragon Rider

〜ツーリング時々異世界〜
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Darkness leaks 〜零れ落ちる闇〜

公開日時: 2020年9月29日(火) 08:23
文字数:2,097

《来たぞ》


 向かってくる敵の姿を空中に確認する。


《……ワイバーンか》

《ご同類ってやつだな》


 蓮が呟くと勇治が軽口で返してきた。

 途端に騎竜達がブーブー文句を言う気配が伝わってくる。


『一緒にしないでほしいな』 

『まったくだね、失礼にも程がある。名前持ちのドラゴンとあいつらを一緒にするなんて』

『ねえ……おれ、この人乗せるのやめようかな』


 気配どころではない文句の嵐に勇治は慌てたように言った。


《あ、ちょっと待て! 地上にもいるじゃねえか、あれは!?》

『誤魔化さないで』

《はいっ、すいませんでしたっ!》


 漫才みたいな勇治とアルの会話を逐一中継してくれるニーズヘッグに、蓮はポンポンと背を叩いて苦笑いを返す。


「うん、勇治は乗車……いや乗竜拒否されないように、ちゃんと謝ったほうがいいな」


 ニーズヘッグがそうだよ、と首を縦に振って不満そうに一声鳴いた。


『ヒドラ』

《へ? なんだって?》


 アルは、異世界の人だもんねと思考の中で呟き、勇治に魔物について話し始めた。


『地上のやつはヒドラだよ。長虫よりあいつのほうが厄介だね。あいつは……掴まって!』


 ドラゴン達は急速に反転する。その横を舐めるように炎が通り過ぎた。


『これだよ。あいつら炎を吐くんだ』

《マジか。じゃあ、平気な顔で周りにいるやつらは炎耐性のあるやつらなのか》


 勇治とアルの会話を引き取り、例によってラウールが解説をしてくれる。


《そうです。ヘルハウンドもウェアウルフも耐性はもとより活性化します。そしてワイバーンも手を抜けない。あれは成長しない幼虫のまま悪霊化したようなものですから悪影響を被る前に殲滅必至ですね》

《じゃあ……》

《ああ、いつもと変わらない。やられたら終わりだ。全力で叩く!》

《おお!!》


 蓮は鞘を払いながら続けて言った。


《そんで、さっさと城へ行くぞ!》


 インカムを通して皆に緊張と高揚が伝わっていく。


《そうですね。時間がありますから、なるべく城に近づきましょう》

《んじゃ、進路妨害してる長虫さんから行きますかね!》


 勇治が群がるワイバーンへ向かって真っ先に突っ込んで行った。

 牙を剥く魔物へ向けて刀を振り抜く。切り口から瘴気の塊が溢れ出す。ぐずぐずと空中に漂うそれを避けながら勇治は次の魔物へ向かって行った。


《俺もこの刀ってやつの扱いに早く慣れねえとなっ!》

《前に使ってたロングソードとそんな違うのか?》


 蓮も、そう言いながら刀を振るう。

 鬱陶しいくらい数が多い。ニーズヘッグが煩わしそうに首を振ってワイバーンを弾き飛ばす。

 体勢を直し飛翔はしり抜けながら大太刀が魔物を斬り裂いていく。布都御魂の持つ神威が滞空する瘴気をも斬り裂いて浄化していく。


《ああ。こいつは綺麗で華奢な見た目のくせに、斬るとなったら有無を言わさず両断するだろ! だから、ちゃんと手綱を握ってねえとっ……間違って大事なもんまで斬っちまいそうだから……ぬわあああぁぁ!?》


 ワイバーンに斬りつけていた勇治がいきなり悲鳴をあげた。

 ドラゴン達が錐揉みをするように急旋回していく。地上からヒドラの炎が三本首の分だけこちらを狙っていた。


《び、びっくりさせんな! 心臓っ……痛えだろが! アル、急に動くなよ。動きまーすって言ってくれ……ひゅってなったわ! まじでこええんですけど!》


 足元が不安定なのがどうにも心許ないらしい勇治がパニックになっている。騎竜が宥めてるようだが、あまり聞こえていない。

 蓮は叫びながら騎竜にしがみつく勇治に近づいて行った。


《勇治! 落ち着け。騎竜はお前を落とさない。万が一そうなっても必ず騎乗者を助ける。たとえ自分を犠牲にしてもだ》

《そう……なのか?》

《ああ、大丈夫だ。信じろ》


 すっと勇治の顔色が変わった。

 どうしたと問う間もなく静かに応えが返ってくる。


《悪ぃ、落ち着いてきた。もう……大丈夫だ》


 一瞬、光が消えた目の奥に暗いものを感じて言葉を失う。

 過去に何かあったのかも知れない。だが、やはりそれを知ることは自分には許されていないのだろう。そう思うと蓮の胸はチクリと痛んだ。


 そんな蓮の感傷も勇治の心の闇も、ヒドラが吐く炎に掻き消されてしまう。

 巻き添えを喰らったワイバーンが焼き焦がされて地上へと落ちていった。


《わお、やっぱ敵も味方もおかまいなしか》

《胸糞悪い》

《お? 珍しく口が悪ぃな》

《甘いのかもしれないけど、そういうのは気に食わない》

《まあ甘いっちゃあ甘いが、俺らに援護射撃してくれたと思えばいんじゃね? それより! 残りそっち行ったぞ》


 蓮は周りに集まってくるワイバーンを片端から斬り落としていく。包囲を形成される前に、振り抜く刀の威力のままに斬り倒す。

 勇治とラウールが群がる長虫の外から反転して中へ切り込んでくる。数の多さは脅威だったが、この分なら何とかなりそうだ。


《そろそろ片付いてきましたね》

《地上のやつは足が遅そうだし城へ向かっていいんじゃねえか》

《そうだな……よし、城へ向かおう。ワイバーンを振り切ったら地上に降りる。騎竜を休ませよう》


 蓮が言うと、勇治とラウールは頷いて騎竜の速度を上げた。

 まとわりつく長虫を斬り捨て、振り切り、魔王の城へ針路を向ける。


《地上に降りるまで、もう少しがんばってくれ》

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