《北西方面は森林ばかりなので、北東に向かいたいと思います》
そっちの方にはいくつか集落があるからとラウールさんから連絡があった。あたし達もバイクを走らせている。とりあえず6号線を北へ。
《状況はどうだ?》
《今のところ問題ありません。何かありましたらご連絡します。このまま北へ向かって下さい》
《わかった》
インカムに蓮とラウールさんの会話が入ってくる。ラウールさんとの連絡は、通路を開閉する都合もあって向こうからだけになるみたいだけど、全員に情報が行き渡るのは話が早くていいよね。会話を聞いていた勇治さんからも通話が入る。
《いやあ、ここまで来ると走ってる間は気持ちいいねえ》
《ゆっくりだと暑いですもんね》
町中の渋滞を抜けて、だいぶ畑や田んぼが目立ってきた。
勇治さんが乗ってるのは深いブルーカラーを纏ったR1。このメーカー、8時間耐久レースで四連覇したんだよね。早いし格好いいバイクだけど、あたしじゃ足をつこうとするとフラつくし、前傾もキツくてしんどかった。足の長い人が羨ましい。
エンジン熱も前傾姿勢も、スポーツタイプのバイクの抱える問題だけど、それを含めても乗ってみたいバイクだよねえ。勇治さんも腰がヤバいとか言いながらも楽しそう。
眞生さんはオーストリア製のバイクに乗ってる。力のあるバイクを抑えて静かに走ってるイメージなのは魔王様だからなのかな。
でも、色白でなんとなく暑さに弱そうな印象だったんだ。だから眞生さんに声をかけてみた。
《眞生さんは大丈夫ですか》
《問題ない》
《うひゃあ!》
《どうした!?》
あたしは思わず妙な声を上げてしまった。蓮が驚いて聞き返してくる。
《ごめん! 何でもない。大丈夫》
《ほんとに大丈夫か? 何かあったらすぐ止まるから遠慮するなよ》
《うん、ありがとう》
言えない。あまりにもイケボだったからびっくりしたとか。
そういえば眞生さんの声まともに聞いたことなかったな。もしかしたらファミレスの女子高生が席移ってからも何も言わなかったのってこれかもしれない。この声は、すんごい破壊力。
《眞生さんもごめんなさい》
《気にするな》
うわ、やっぱいい声だわ。こんな声を耳元で聞いてたらぞくぞくする。無口な人でよかった。
《勇治さん、眞生さん、もう少し走ると大きな湖があるんでその辺で一旦止まります》
蓮から通話が入る。
首都圏の水源になる大きな湖の近くまで走ってきた。ペースはゆっくりだけど滑り出しは順調って感じかな。道の駅にバイクを止めて休憩がてら軽く食事をとることにした。
「ちょっと連絡が入った。先に食っててくれ」
蓮は食事の注文もそこそこに湖を見渡せるデッキに出ていく。その様子を見ながら勇治さんが言った。
「ちょっと深刻そうかな?」
「どうでしょう。魔物が出たとかだったらすぐに移動するでしょうけど、そうでもなさそうだし」
「へえ……つかさちゃん、意外とわかってるじゃねえの」
そのくらいならあたしでもわかる。けど、何か難しい話なのかな。
少しずつ見せてくれるようになったけど、蓮にはまだあたしの知らない顔があるんだ。ゆっくりできる時間が作れたら、もっといろんな話をしてみたいな。
戻ってくると蓮は寄りたい所があると言った。
「別行動でいいぜ。近くで祭があるみたいだし、ちょっとそっち行って撮ってくるわ」
勇治さんの返事は素早い。
「つかさ、お前どうする」
「一緒に行っていいの?」
「ああ、かまわないよ」
「じゃあ、あたしは蓮と一緒に行く」
「そんなら用事が終わったらメッセージ入れてくれ。後で落ち合おう」
来た道を戻っていく勇治さんと眞生さんに手を振って、あたし達も道の駅を出る。
「どこまで行くの」
「鹿島神宮」
「それってラウールさんから連絡入ったのとなんか関係ある?」
「まあね、ちょっと国宝見に行こう」
鹿島神宮か。でもさ、国宝ってちょっと見にとか軽いノリでいいんだろうか。
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