#異世界勇者と繋がりたい
俺は、そんなハッシュタグをくっつけた勇者と魔王が肩を組んでいるイラストのアイコンをタップした。
『よろずのことども うけたまわります』
プロフにそう書かれた勇者魔王商会にDMを送る。
[いつもお世話になっております。
そろそろ大玉メロンの収穫が始まります。画像を添付致しますので買取価格の見積もりを出していただけませんか。
できれば早めのご回答をお願いしたいのですが。
ご無理を言って申し訳ありませんが、ご検討の程よろしくお願い致します。]
送信していくらも待たないうちに返信がきた。
[毎度ご利用ありがとうございます。
早速見積もり書を送らせて頂こうと思っております。少しお急ぎのご様子ですが、差し支えなければご事情を伺ってもよろしいでしょうか。]
少し迷って返事を送信する。
[当方、魔王討伐を計画しております。諸費用を計算しましたところ若干の不足がありまして、それを補えないものかと愚考致しました次第です。]
すぐに返信が来る。
[直接そちらにお伺い致したく、恐れ入りますが位置情報をonにして頂けますでしょうか。
位置情報がonになった時点でご了承頂けたものと判断致します。]
位置情報をonにすると、目の前の空間がゆらりと歪む。
客商売でそれはどうかと思うんだが、彼はジャージ姿で現れた。左胸にエンブレムのように魔法陣がついている。勇者魔王商会一押しの商品だそうだ。
「どうも! 毎度ご利用ありがとうございます。勇者魔王商会、お客様担当の勇者です」
「あ、いつもお世話になってます」
「魔王討伐行かれるんですね」
「そうなんですよ。こちらの魔王の居場所らしい所がかなり離れてまして、現在地から千キロほどあるんです。でも偵察しながら行かなきゃならないんであまり早くも進めないんですよね。で、そろそろ大学が夏休みになるんでツーリングがてら行こうって話になりまして。費用の節約にもなりますし」
彼は所々メモを取りながら俺の話を聞いてくれる。
「地元の方から行かれないんですか」
「そっちのほうが高くつくんですよ。装備やら補給物資やらの移動にものすごく金かかるんで」
「あー、なるほど」
「こっちから宅配便で送ってしまおうかと思ってます」
「おっ! それ、いいですね。わかりました。今回はちょっと色をつけて買い取りしましょう」
「ありがとうございます」
電卓には思ったより高い金額が提示されていた。安心してほうっとひとつ息を吐き、それでお願いしますと手を打った。
「ありがとうございました。商談成立ということで、ここからはちょっとざっくばらんにいきたいんですが」
「ええ、かまいません」
彼はコホンと咳払いを一つすると口調を変える。
「パーティは決まってるのか?」
「いや、それが魔法使いと……村人Aだけ」
「へ? その三人で魔王討伐を? ってか村人Aもメンバー?」
「はあ、うちは人材不足で。途中でスカウトするかなって思ってます。魔王についても動き始めたんじゃないかってくらいで、ほとんど情報らしい情報もまだ入ってきてないんですよ」
「ほえええ、あんたマジ勇者だな! 最初の村でその人数とか偉いな! うん、マジで偉い」
そのままちょっと待ってろと言うと彼はゆらりと揺れて消えた。
二、三分くらいたっただろうか、もう一人連れて戻ってきた。その人は手に分厚いファイルを抱えパラパラと捲っている。っていうか、この人もジャージ姿か。だけど全然雰囲気が違う。腰まである長い黒髪に気品ありげな物腰が場違いな程だ。
「すまんな、待たせちまった」
「……いえ、大丈夫です」
「千キロ移動っつうと、そっち換算で東京ー北海道くらいの距離だよな? バイクで移動すんだろ」
「そうですけど」
「それ動画サイトにあげていいか?」
「はい?」
「顔を出すのはNGか?」
「あ、はい。できれば」
「じゃあ俺は顔出したほうが商売に繋がりそうだし、とりあえず俺だけ……っと。後は状況次第で魔王を写せばいいな。編集もこっちでやる。もし儲けが出たら四分六分でこっちが貰うぞ」
「はあ……」
「途中、あちこち泊まってレビュー入れてえから日程多めにとって欲しい。夏休みならかまわねえよな。他の予定あったらキャンセルしといてくれ」
「あ、はい……って、え?」
「おい魔王、免許あったか?」
待って、俺了解してない……してないよな? なんで動画サイトあげることになってんの?
「大型二輪で良いのだな」
「え? 魔王? えええ……魔王なんだ」
魔王ってこんな感じなのか。あれ? 大型二輪?
「あの、魔王? さんって免許持ってるんですか」
「うむ、こいつが我の城に攻めてくるまで暇でな。貴様の世界へも行ってみたことがあるし、暇つぶしがてら色々資格やら免許やらは取ったぞ」
分厚いファイルから免許証を取り出す。取り出しついでに捲って見せてくれた。
うわぁ魔王すごいな。これは俺勝てないかも。こっちの世界の魔王がこれ程じゃないことを祈ろう。
「俺達もお前の魔王討伐に一緒に行くからな」
「え? え? 俺達って」
「俺と魔王。お前の魔王討伐のパーティに参加します」
「……はい?」
「ちなみに参加費として諸経費の半分は俺達が持つ」
「半分と言わず全額出してやれば良いではないか」
「アホ! 自分で金出すのも社会勉強だわ。つか、俺が全額出したらこいつの魔王討伐じゃなくなるだろうが」
「ふむ、なるほど」
「で、どうする?」
「……よろしくお願いします」
こうして俺、市川蓮の魔王討伐に異世界の勇者と魔王が同行することになりました。
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