風呂上がりの勇治がタオルを首にかけたまま横に座った。
「おっ? どうした。なんか面白れえのあったんか」
「コスプレ……いや、特殊メイクかなあ。ほら、さっきもいただろ。やっぱすっげえよくできてんなって思ってさ」
【百鬼夜行@
#異世界勇者と繋がりたい
百鬼夜行絵巻】
三十秒ほどの動画がハッシュタグと共に呟かれていた。
某画図やら某アニメやらで見たことがあるような妖怪達がにこやかに手を振っている。
おまけに話しかけてきた。
「やっほー! お兄さん達元気?」
「これおもしろーい」
「ねえねえ、お姉ちゃんはいないの?」
「いやあ、まさかこんな所で繋がれるとは思ってもいませんでしたよ」
「髪の長いお兄さんは?」
画面の向こうの楽しそうな雰囲気に飲まれて、つい手を振り返してしまった。待て、よく考えたら話しかけられたってのがおかしいぞ。そんなことあるわけないじゃないか。
でも、何でこっちが見えてるみたいに言うんだろう。まさか……
「……これ本物?」
「よく見たら全部さっき遠野で見た奴らだぞ」
「本当だ」
俺達が顔を見合わせていると画面の中から不満そうな声が聞こえた。
「やだな、お兄さん達疑ってんの? 傷つくわー」
「本物かだって!」
「妖怪の力を舐めてるよね。舐めてやろうかな」
「本物に決まっ……」
ピタリと画像が止まる。
「あ……」
動画の時間いっぱいで声が途切れた。
「どうしよう」
「とりあえずもう一回再生して謝っとこう。『機嫌の悪い妖怪は最悪』って格言もあるしな」
「そうなんだ」
「ああ、今俺が作った」
お前の格言かよ! 手の甲で叩く。
改めて動画を再生した。ちょっとビビってたのは言わないでくれるとありがたい。
「あ、よかった。もう一回話せる」
「あのね、お姉ちゃんに飴もらったの。嬉しかったから皆に話したら皆も喜んでくれたの。皆でそっちにお礼しに行きたかったけど。皆で行ったらびっくりしちゃうかなって思って」
「そうなんだ。だからこれを教えてもらって。ちゃんと繋がれてよかったよ」
女の子と男の子が一生懸命説明してくれた。そうか、小さな友達がって言ってたのはこの子達のことだったのか。
「お礼なんて。こっちこそお礼言わなきゃいけないのに。お姉ちゃんと一緒にいてくれてありがとな」
えへへと照れくさそうに笑う二人を微笑ましく見守るのが異形の妖怪達なんだが。ほんわかしていてあまり怖さを感じないのが不思議だ。
「あ、お兄さん達北へ行くんでしょう。あっち嫌なやつがいるんだよね。もし喧嘩になったら僕達が助けに行くからね!」
「あ、ああ……ありがとう」
じゃあね! と元気に手を振りながら動画が止まる。
これは魔王のことを言ってるんだろうか。だとしても、こんなほんわかした人達を巻き込んでもいいのかな。
「こいつら……」
悩んでる俺に勇治がスマホの画面を向けてきた。
【童子@
#異世界勇者と繋がりたい
あ、できた】
【わらし@
#異世界勇者と繋がりたい
あたしもできたよー】
【なめぷ@
#異世界勇者と繋がりたい
よかったな。ゆるキャラのコンテスト出て賞金もらったからスマホも買えたんだぞ】
↑
【童子@
兄ちゃんはバイトして買ったんだよね】
↑
【なめぷ@
趣味と実益を兼ね備えた夜間清掃員っていう素晴らしい仕事があってだな】
……意外と逞しいんだな。
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