「はい?」
「黒いのが俺のNinja、赤いのがお前のボルドール」
「……はい?」
「黒いの……」
「そこじゃない! バイクとドラゴンじゃどう見ても違うでしょ」
「異世界の魔法はこういうことができるの。それと」
言いながら蓮は黒いドラゴンの頬を軽く叩いた。ドラゴンは金色の目を細めて嬉しそうに彼に甘えている。
「そいつも話せるから話しかけてみ」
嘘でしょ? だって元はバイクよ? っていうか、バイクをドラゴンに変えたってのも信じられないのに。話しかけるって……
恐る恐る近づいてそっと手を差し出すと、赤いドラゴンは顔を近づけて笑った。
笑った!? 笑ったのがわかる。それもすごく嬉しそうに。なんだろう、すごく愛おしい。バイクを手入れしている時に感じる愛おしさと似てる。うっとりと見つめていると耳元でククウっと甘えるような鳴き声がした。
『ご主人、会えて嬉しい。いつも大切にしてくれて感謝している』
喋った!? うわあ、本物? 本物だよね。って本物って何だ。鳴き声なのに頭の中には文章になって入ってくる。
嬉しいとか感謝してるとか、それはあたしのほうだよ。そんなこと言われたら、たとえこれが壮大なドッキリだとしても嬉しくて泣く。
『どうした、どこか痛むのか?』
あたしはふるふると頭を振る。そんなわけないじゃない。
「痛くも悲しくもない。嬉しいの! あたし、まだ下手くそだもん。あんたが「こんな乗り方して」って怒ってないかな、なんていつも思ってたわ」
『そんなことはない。丁寧に乗ってくれているから私も嬉しい』
「ありがとう。ふふっ、あんたすごく乗りやすいしいい子なのよね。それに綺麗な赤」
『ご主人はいつも褒めてくれる。だから私もとても気持ちよく走れる』
騙されててもいい。あたしはこれが異世界だっていうなら受け入れよう。蓮が勇者だっていうなら信じてついて行こう。
そんな風に思ってしまうくらい、実を言うと蓮の異世界勇者宣言よりも、このドラゴンに話しかけられたのが衝撃的だった。
あたしが目尻を下げてデレデレと話してる間にも、ここの村? かな。集落の人達はドラゴンへ荷物を装着する手を止めていない。
うわあ、こんなに大きな荷物乗せて大丈夫かな。
あたしが見ているのに気づいて、作業をしている人がこの大きさなら乗せられますと教えてくれた。
「これは?」
「あなたをドラゴンの背に乗せるために鞍が必要なんです。後は、これを取り付ければ飛べますから」
そういえば空飛ぶんだった。
その荷物の前部分にも、見た目は分厚い毛布みたいなものをベルトでたすき掛けに固定していく。その人から安全のため腰ベルトはしっかりつけてくださいねと念を押された。
胸当てと兜をつけてもらってあたしも準備を終える。
「そろそろ行くぞ」
「うん」
「バイク乗るのと要領は同じだ。腰ベルトは掛けたか?」
乗り方を教えてもらってベルトも掛けたか見てもらった。あたしは頷いて大丈夫と答えた。
「後はドラゴンにこうしろって言えば、あいつらが判断して動いてくれる」
「わかった」
鞍に跨って手綱を握る。うう、これはバイクのハンドルより頼りない感じ。
『ご主人、大丈夫だ。力を抜いて、いつものように』
「う、うん」
赤いドラゴンがチラリとあたしを見てニッと笑う。
『まるで初めて私に乗った時のようだな』
高校の時に免許は取ってたからバイクは乗ってたけど、ボルドールは初めてのあたしだけのバイクなんだもの。
あの時は緊張し過ぎてキーが差し込めなくて何度もやり直したっけ。あたしはちょっと恥ずかしくなって大声を出した。
「行くわよ蓮! ボルドール!」
その一言を合図に、二頭のドラゴンはトトッと助走をつけるとフワリと浮き上がる。そして勢いよく加速していった。
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