翌朝は気持ちが吹っ切れたせいか早く目が覚めた。あたしは窓を開けて深く息を吸い込む。朝の空気が、もやもやしたあたしの気持ちをみんな洗い流してくれそうで何度か息を吸っては吐く。
見上げた空は真っ赤。オレンジから金色に変わっていく様は神々しいほどだった。朝焼けにつられて外に出る。
「おはよう」
「蓮……おはよ、空すごいね」
「そうだな」
そう言って蓮はあたしの顔を覗き込んだ。
「うん、元に戻ったな」
「ん?」
「お前昨日変だったろ。赤くなったり青くなったり」
「そ、そんなだった!?」
「急にいろいろぶっこみ過ぎたからだろ。ごめんな、もっとゆっくり少しずつでも話しておけばよかった」
「ううん、いいの。言いづらいこともあるんだろうし……あたしね、なんか空回りしてたんだ! 心配かけてごめんね」
うん、散々もやもやしたけど空回ってたんだな。なんだったんだろう、昨日のあたし。
蓮が着てたジャージを肩からかけてくれて気がついた。そういえばちょっと冷えたかな。蓮はそのまま手を回してあたしの肩を抱く。
「ちょっとだけ、このままいて」
「どしたの?」
「んー、元気補給?」
「何よそれ」
表には出さないけど蓮も不安なんだろう。あたしが空回ってたみたいに。蓮の手を握ると少し冷えてきてる。
「ね、そろそろ戻ろう。冷えてるよ」
「そーだなー」
「ほら、行くよ」
あたしは蓮の手を引っ張って部屋へ向かう。戻りかけて、蓮は足を止めた。
「あのさあ、なんで見に来てんの」
「へ?」
??? 誰に言ってんの?
「いや、こそこそ部屋を出ていったから何かあるのかと思って」
「こいつが来いと言うから」
「私は止めましたよ」
勇治さんも眞生さんもラウールさんも。なんで皆いるの? 蓮は顔を赤くして皆を睨む。
「お前ら皆、クソして寝ろ!」
「もう朝だけど」
睨む蓮に勇治さんはしれっと返した。
「うるさいわ!」
「いやあ、お前昨日つかさちゃんの様子が変だって気にしてたじゃん。だから俺も心配でさあ」
「つかさの心配は俺がするから勇治はしなくていい!」
「だーってさ、つかさちゃん。いいねえ、リア充」
「この……っ!」
逃げる勇治さんを蓮が追う。それを見て眞生さんは肩を竦めながらゆっくりと部屋へ戻って行く。ラウールさんはあたしに向かって片目を瞑ると笑って言った。
「元気な人達は朝の運動をするみたいですから、つかさ様も戻りませんか。お茶でも飲みましょう」
その後、息が上がった勇治さんを引きずってドヤ顔で蓮が戻ってきた。そのまま部屋を横切って露天風呂に続く窓を開ける。ポイっと勇治さんの服を剥ぎ取ると
「現役勇者ナメんな!」
と、温泉に放り込んだ。
水しぶきも収まらないうちに自分も服を放り投げてお湯に浸かる。
「ラウール、タオルと服用意しといてくれ」
「はい」
あのー、女子一名いるんですが忘れてませんかっての。なんか腹立つぞ。タオルを持って露天風呂に向かうラウールさんからそれを奪い取って蓮の横に差し出す。
「お前も同罪だ!」
「あ! バカ」
「きゃ!」
「蓮様!」
「……はぁ」
一言言ってやろうと思ったら、急に腕を掴まれてお風呂に投げ込まれた。
「あれ?」
「蓮……」
「つかさ!?」
「あたしよっ! ラウールさんじゃなくてごめんなさいねえ!」
「ごめん!」
「もう! 今日から忙しくなるんでしょ、朝からふざけてないでしっかりしなさい!」
「はいっ」
「おほぅ……尻に敷かれてますなあ」
「勇治さんも茶化さないっ!」
「は、はいっ!」
「ほんっとにもう、二人とも子どもみたいなんだから……」
驚いたような顔で、蓮が急に抱きついてくる。
「何よ!」
「わかった、俺が悪かった。謝るから落ち着いてくれ。勇治! さっさと風呂あがれ!」
あたしの後ろで慌てて勇治さんがお風呂を出ていく気配がする。
「タオル取ってくれ!」
「ちょっと蓮、離して」
「まだダメだ!」
何よ、抱きつかれてる方が恥ずかしいわよ。早く離してくれないかな! あーあ、濡れたのも着替えなくちゃ……ん?
……そうだった。部屋の中が暖かかったから、あたしTシャツしか着てない。下着も全部丸見えじゃないかぁぁぁ!
「ごめん、蓮。ありがと」
「悪かった。お前は隣の部屋にいるもんだとばっかり思ってて」
「それでもふざけ過ぎよ」
「はい、反省してます」
朝からとんでもない目にあったけど、着替えて皆が待ってるラウンジへ行く。
「すみません、お騒がせしました」
「いえいえ、こちらこそ勇者様達が子どもですみません。たっぷり叱っておきましたからね」
にっこり笑うラウールさんの前で小さくなっている勇者様と勇者様、そしてなぜか悟りを開いたお坊さんのような表情の魔王様がいた。あはは……結構怒られたんだね。
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