Dragon Rider

〜ツーリング時々異世界〜
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Sight seeing

公開日時: 2020年9月26日(土) 10:35
更新日時: 2020年9月26日(土) 10:51
文字数:2,089

 だから、これは勇治から聞いた話。


 城近くの駐車スペースにバイクを止めた所まではよかったが、待ち合わせ場所に向かったところから嫌な予感がしていたらしい。

 何せと言いながら話し出した。


 待ち合わせ場所へ行くとやたらと人集りができてたんだよ。


 まさかあれじゃないよな。

 俺が近づくとドヤ顔の独眼竜がこっちを向いてニヤリと笑った。当たりかよ。


「おお、『待ち人来たる』だ。お主ら遠慮せい」


 政宗は後の二人と一緒に人を掻き分けてこっちへ来る。


「待っておったぞ、勇治」

「あー、政宗……様、なんだったんすか? あの人垣」

「お主が来るまで暇であったからのう。話し相手になってもらっておった」


 それは声かけといてあっさりバイバイってか!? お嬢さん達、俺は悪くねえぞ。そんなに恨めしそうに見るなよ。

 それにしても殿様の友……っていうか、伴だなこれは。大変だなと二人に言うと、景太と成美はもう慣れましたと笑った。


「もう四百年も前からですからね」

「そうだな、いい加減慣れるわ」


 ん?


「えー、もしかしてけーたくんとなるみちゃんも……」 

小十郎景綱こじゅうろうかげつなと申す」

「なるみではない! 成実しげざねじゃ!」


 あらー


「やはり家臣がいなくては格好がつかんからの」


 晴れ晴れと政宗が笑う。いや、いいんだけどさ。

 俺は政宗に促され歩き出したついでに不思議に思ってたことを聞いてみた。


「それにしても、なんで弘前城? ここの天守に刀を隠してあるとか、そういうことすか?」

「いや、津軽殿はあまり付き合いがなかった」


 じゃあ、何でここなんだ? ますますわからん。俺が首を傾げていると、政宗は目を輝かせて滔々と語り出した。


「こっちの藤次郎がそちらへ行くと言ったであろう。儂はしんかんせんで来たのだ。あれは面白かったぞ。何せ早いのだ。景色が飛び去るようとはあのことよの。それに知っておるか? あれは中で弁当が食えるのだぞ。やけに固いあいすくりーむなるものも美味かった」


 まさか……


「観光!?」

「うむ」

「あの! 俺、わりと緊急事態でここ来たんだけどっ!」

「わかっておる。まあ、焦るな。こやつらも出かける機会がなかなかない。羽を伸ばさせてやってくれ」


 そう言われると無理は言いにくい。


「しかし最近のおなごは物知りだぞ」

「そうですね。この天守、元々は櫓として建造の申請したのでしたっけ。落雷で内部の火薬に引火して大爆発したのだとか」

「そういう話を逐一教えてくれてな」


 小十郎が言うと政宗もウンウンと頷く。


「おなごは菓子やら手遊びの話ばかりが好きなものかと思っておったが……なかなかどうして、侮れぬ」


 そんな話をしながら歩いていたら見学コースを一周してしまった。俺、マジで普通に観光に付き合わされてる感じなんだが。ああ! しまった。こんなことならカメラ持ってくればよかったか。

 やっぱ慌ててたんだな。すっぱり忘れてたわ。どうすんだ。手ぶらじゃ帰れないし、急かすのも何だか悪ぃし。そんな俺の心を見透かすように政宗はニヤリと笑った。


「案ずるな。国包くにかねの所から見繕って持ってきてある」

「国包?」

「わしの刀鍛冶よ。これくしょんも預けておってな。それよりお主、刀は振れるのか」

「いや。蓮のを見たけど、西洋の剣と違うっぽいから少し難しいと思う。ロングソードは突きとか甲冑の上から叩きつける感じの使い方をするから。今まで使ってた剣も、頑丈さに頼って魔法を纏わせたり酷使し過ぎたってことらしい」

「ふむ、なるほどのう。成実、一緒に行って稽古をつけてやれ」

「相分かった」


 政宗の言葉を受けて成実が頷く。そして車の傍で待っていた人に手を上げて合図を送った。

 その人は俺達を見つけると直立して一礼する。


「光忠か景秀が良かろう。大事に使え」


 でないと黒脛巾組が泣く、と政宗はカラカラと笑いながら歩いていく。


「大盤振る舞いですな。筆頭殿の気前のいいことだ」

「今の世の中で刀が使われることなどないであろ。せっかくの機会だからのう。派手にいこうではないか」


 政宗は小十郎から視線を移し、国包と声をかける。

 俺は慌てて預かってきたスクロールを取り出し足元に隠蔽の魔法陣を広げた。光る模様のついた紙を見て一様に不思議そうな顔をする。


「これは何だ」

「異世界の魔法っすよ。これは俺らを周囲の目から隠すもので……理屈は俺にはちょっと難しいんで、向こうで魔法使いに聞いてほしいんだけど」

「ほほう、便利なものだのう」


 妙に危ない視線を感じるのは気のせいだろうか。あんたには渡さねえぞ。っていうか、持ってたって使えないだろうが。

 俺の危機感を他所に政宗が車のドアを開けると、布に包まれた結構な大きさの荷物が乗せてある。


「全部持って行け」


 全部……はい……

 バイクに跨る俺に四苦八苦して荷物を括りつけると成実が刀ごと後ろから俺を抱える。


「これでどうだ?」

「うん、なんとかいけそうだな」


 俺は蓮にこれから戻ると連絡を入れた。

 応という言葉のわりには、ぼんやりした声音にちょっと引っかかったが。まあ、戻りゃわかんだろ。


「儂らはひこうきで行く。成実をよろしく頼むぞ」

「こちらこそよろしくお願いします! ありがとうございました」


 車に乗り込む政宗達に手を振り、俺はバイクのエンジンをかけた。

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