「では、こちらの資料をご覧下さい」
夕食後、テーブルの上が片付けられると、そこは食堂から会議室へと変化した。配られた紙にはぎっしりと活字が詰め込まれている。
「詳しい数字はお手元の用紙で確認してください。結論から申し上げますと、やはりこの世界での移動は時間と経費と人手もかかりすぎます。向こうの世界をバイクで移動していただくほうがよろしいかと」
皆を見回しながらラウールさんがそう言うと、トゥロさんも頷いた。
「そうですね。勇者様がこちらで移動されるならそれなりの人員をつけないと危険ですし、確かに試算通りその分の装備も人件費もかかりますなあ」
「はい。なので、こちら側は私が偵察しながら移動するというのはどうでしょうか」
「魔法使いのドラゴンライダーなら偵察には有用ですね」
魔物が暴れてるとか、何か危険な状況を見つけたら人を呼んで戦おうっていうことらしい。確かに確実にここに危険があるってわかってるわけじゃないんだもんね。それならこういうやり方もありなんだろう。
話を聞きながら渡された紙を見る。うわあ、金額が全ての項目で一桁以上違う。あたしの生活圏内であまりお目にかかったことのない数字だわ。
「わかった。俺とつかさは向こうで移動する」
「すみません、ご一緒して通路を開けることもできますが、向こう側とこちら側で別れて移動したほうが術式が楽なのです」
「リンドヴルムを使うんだろ? 上空から見て異変がありそうならすぐ呼んでくれ」
「わかりました」
「それなら費用も次の収穫分で足りるだろうし、後は装備の移送とメンバーの確保だな。装備は宅配便でも送れるだろうから」
そう言いながら難しい顔で考え込んだ蓮は、ふと思いついたようにスマホを取り出した。チラッと画面を見たけど、ないないというように頭を振ってそのままポケットに突っ込む。
そりゃそうでしょ、ここで使えたらびっくりよ。あたしも昨夜見てみたけど使えなかったもん。
蓮は無理だろうなと苦笑いしながら言った。
「とりあえずメンバーは探しながら行こう。トゥロにはここに残ってもらわなきゃならないし」
「そうですね。装備ですが、ここと勇者様の部屋に通路を繋ぎます。発送するのはトゥロさんに任せてもよろしいのでは」
「宅配便とかいうものは梱包して持っていけば発送してくれるのでしょう? それなら必要な時に連絡をくださればお送りします」
「あー、それができるならその手でいこうか」
「私の魔力量にも限界がありますし……もっと力をつけないといけませんね」
宅配便か。異世界で聞くのに違和感があり過ぎる。ここが何処なのかわからなくなりそう。
あたしが目を白黒させていると、蓮の手が横から伸びてくる。ポスンと頭に到着するとぽんぽんと軽く叩かれた。こんなんで慰められちゃうとかあたしも単純だな。くそ、嬉しいぜ。
「とりあえず大枠はこんな感じでいいだろ。魔王が動いたらしい状況ではあっても、まだ確証はないんだから様子を見ながらいこう」
頷いて解散したあたし達を再び集めた蓮。
困惑した顔で言った言葉は、彼以上にあたし達を困惑させた。
「えーっと……なんて言ったらいいのか……魔王討伐に異世界の勇者と魔王が一緒に行きます」
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