なんだかんだ、からかわれてたみたい。
「苦労もなしに手に入れても嬉しくないでしょ。絶対必要なんだって気持ちは、ちゃんとわたしに伝わったからそれでいいのよ」
そういうものなのかな。人と女神様の考えって似てるようで似ていないのかも。
「つかさちゃんにも手伝ってくれたお礼をしなきゃね。手を出して」
はい、と言って掌に乗せられたのは矢のミニチュア?
「日本人なら根付って言ってよう」
「でもさ、これ紐とか付けるとこないから」
「あー、そっか。ミニチュアかあ。ま、どっちでもいいんだけどよかったら使って」
「使う? 飾るでしょ」
「ううん、使うのよ。こうやって」
一緒に渡された袱紗ごと宙に放る。袱紗はあたしの左腕から胸元へ巻きつき、矢筒が背に収まる。弓は弦が張られて左手に落ちてきた。
この感覚、懐かしい。
「つかさちゃん、弓やってたでしょ。貴女なら使えるからあげるわ」
「なんで知ってるの!?」
「ふふん、わたしに知らないことはないのよ」
そうだった。あまりに友達っぽくてつい忘れちゃうけどこの人は女神様だった。
「つかさ弓道やってたのか」
「うん、機会がなくて言ってなかったんだけど、これでも遠的じゃいい成績だったのよ」
「へえ、すげえな」
「わたしもつかさちゃんに加護を与えるわね。これからの道中無事でありますように」
ユグドラシルは祈るように言うと、今度は蓮に威厳のある顔を向けた。
「蓮、つかさちゃんは普通の女の子だってこと忘れないで。この子、貴方達が神様って呼ぶものの気配に敏感なんだと思う。そういう子って神様に好かれやすい性質を持ってるから」
武甕槌命にも言われたし、神社の雰囲気とかのことなら身に覚えがある。でもユグドラシルに対して平気なのはなんで?
「うん、つかさちゃん加護を受けたでしょう。わたし達は基本的に人間のやることに干渉はしないのだけど、守らなきゃいけない子はちゃんと守るわよ」
あっ! 武甕槌命が言ってた負担が減るって、こういうことなのね。
ユグドラシルはあたしに向かって頷く。
「話を戻すわね。こういう子はこちらが気まぐれに転がしておいた幸運でも拾いやすいし、周りもその幸運を享受するわ。だから特別な存在じゃないかって勘違いされやすいのよ」
それだと、攻撃や逆に畏敬の対象にもなりやすいでしょとユグドラシルは言う。
「でも、この子自体は特別な存在じゃないの。普通の子だから、貴方達みたいな勇者や魔王や魔法使いなんていう存在じゃないから。だから、気をつけてあげてほしいの」
黙って聞いていた蓮はふっと笑った。
「そんなことか。つかさは俺にとっては特別な存在だけど、普通の女の子だってことは忘れてない。俺はこいつを守るって決めてるから。これまでもそうしてきたしこれからもそうする」
「蓮、ありがとう。あたしもあんたについて行きたいし、力になれるならそうしたいと思ってる。だからあたしにできることがあるなら言ってね」
「無理しなくていいからな。ゴブリンの時だってちゃんと、頼んだだろ」
「うん」
ユグドラシルはあたし達を見て笑う。
「はい、惚気は以上。そろそろ帰った方がいいね」
惚気って! そんなつもりなかったし! なんていうか決意表明みたいなつもりだったんだけど。
「はいはい、お帰りはこちらよ」
そう言って背中を押す。そして、あたしの耳に結婚式みたいだったわねと囁いた。だから! そんなつもりはなかったってば。顔がぼおっと熱くなる。
「じゃあね、縁が繋がってるならまた会えるわ」
ユグドラシルは手を振りながら姿を消していった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!