Dragon Rider

〜ツーリング時々異世界〜
kiri k
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Contract and promise

公開日時: 2020年9月28日(月) 15:41
文字数:2,227

「んぶぇえええっっくしょい!」


 長々とそれまでの顛末を話していた勇治が、いきなりくしゃみをした。


「風邪か?」

「いや、なんだか急に寒気が」

「やっぱり風邪でも引いたんじゃないのか」


 肩を抱く勇治は、どっちかってと誰かに呪われたような気分だと体を震わせた。

 そして、俺がずっと駐車場で土下座していた間に魔法陣の解析も進んだらしい。


「てことでニーズヘッグ、蓮は借りてくぞ。解析が済んだら向こう行くことになるだろうし、そろそろ許してやってくれ」


 周りに人がいないかどうか、しつこいほど確認してから勇治が言う。

 失礼だなと睨んだら、自分の名誉のためにこれだけはやらないとと言いやがった。俺が茶化す勇治をどつき倒したのは言うまでもない。


「で、どうだ?」

「大丈夫そうです」


 部屋へ戻った俺達はラウールの返答に気持ちが沸き立った。


「直接、眞生様の所へ出られるようですけど大丈夫でしょうか」

「あー、その辺は上手くやるんじゃねえか。でなきゃ魔法陣なんてくれねえだろ」

「そうすると、分の悪い賭けではなさそうですね」

「行こう。それが罠でも行ってみなければ始まらない」


 言い切ると二人は顔を見合わせて頷く。


「だな。よし、行ってみよう」

「では私はこちらで通路を固定します。何かあったらすぐにお戻りください。連絡はインカムでお願いします」

「わかった」


 ラウールは魔法陣に魔力を通す。俺と勇治は武器を手に開かれた通路の前に立った。


《五分後に閉じます。それまでにお戻りを》


 もう少し時間がほしいところだが仕方がない。俺達は頷いて慎重に一歩を踏み出した。


 通路の先はホテルのような広い部屋で。

 窓際に置かれたテーブルから美味そうな匂いがする。そこに優雅に茶を啜る眞生と、パカッと口を開けてスコーンをお迎えしようとしているつかさがいた。


「つかさ!」


 つかさは椅子から飛び出して走ってくる。俺は飛び込んでくるつかさを抱きしめた。


「蓮!」


 ああ、暖かい。腕の中にふんわり収まる優しい匂い。


「つかさの匂いがする」

「だって、あたしだもん」


 そう言って笑うつかさの唇が、俺の唇と触れ合う。


「ん……甘い」

「うん?」

「なんかお前の唇、甘い味がする」


 そう言ってペロリと唇を舐めたら、くすぐったそうに笑った。


「あは……スコーンにつけたハチミツかなあ」

「なんだ、食う前かと思ってたら、もう食って……お゛ゔっ!」


 俺が腹を押えていると勇治と眞生が振り向いた。


「どうした!?」

「もう! 酷くないですか? 蓮ったら甘いこと言ったその口で「もう食ってたのか」って!」

「お前な、通常運転だがそこは空気読んでやれよ」

「勇治さんも、ちょっと酷くないですか!?」


 眞生、お前まで笑うのか。


「久しぶりだな」

「そうだな」

「ここはどこなんだ? 魔王の城じゃないのか」


 腹を擦りながら俺が言うと、眞生は頷いて言った。


「魔王の城でもあり、我の城でもある。あの扉よりこちらは我の領域だ」

「俺達が来ても大丈夫なのか」

「問題ない。我の城の一部を閉鎖空間としてここに繋いでいる。扉の外は魔王の城だが、この扉は我以外開けられぬようにしてある」


 俺はホッと息を吐く。これで不安要素が少し減った。絶対ではなくとも、現状ほぼ安全な場所だろう。


「眞生」


 勇治が声をかけると、眞生は上から下まで勇治を眺め回して言った。


「ふむ……勇治もそこそこ魔法が使えておるようだな」

「ああ、助かってる。それより頼みがある。魔王の城の見取り図と、次に出現する城の場所が知りたい」

「見取り図は何とかしよう。城の出る場所は魔王にも把握できておらんようだ。出現した時に知らせることならばできるやもしれぬが」

「わかった、それで頼む。料金はお前の口座に振り込んどく」

「……毎度ご利用ありがとうございます」


 なんだそれと俺が聞くと、情報料は払う約束になってると勇治は言った。こいつらも不思議な関係だな。

 立ち上がって礼を言う眞生に聞いてみた。


「頼んどいて何だが、そういう情報をやり取りするのは魔王との契約に反しないのか」

「あれとの契約は魔王の経験則からの指南と、その一環として勇者討伐を手伝うことだ。直接の利敵行為ならばともかく、この程度であれば禁則事項ではない」

「その契約破棄できねえのか?」


 勇治が聞くと眞生はなんとも複雑な顔をした。


「できないこともない。あれより上位の契約が確認できれば良いのだ」

「上位の契約? なんだか難しそうだな……とりあえず課題の一つだな」


 それを聞いて眞生は深々とため息をついた。

 多分、眞生がため息をつくほどに難しい問題なんだろう。それでもその契約ってやつを探し出せれば戻ってこられるんだな。それなら、探すしかないだろう。

 

《お二人ともそろそろ時間です》


 ラウールから通話が入る。俺はつかさに言った。


「つかさ、もう少しここで待っててくれるか?」

「やっぱりすぐ戻るのは難しいよね」

「ああ、いきなりお前がいなくなったら眞生の立場も悪くなるだろうし。すまない」

「ううん、わかってる。あたしは大丈夫だから」


 連れて帰りたいがそうも言ってられない。向こうに一人置くより、ここの方が安全そうなのは皮肉でしかないな。

 つかさは通路に向かう俺と勇治に手を振る。


「勇治さん、新月の約束は思い出しました?」

「あん? 何の話だ」

《通路閉じますよ》


 ラウールにせかされて俺達は歩き出した。


「……じゃあ、つかさちゃんまたな!」


 勇治が振り返って手を振ると、つかさが鬼のような形相で手を翳しながら睨んでいる。

 閉じていく通路の先に苦笑する眞生の顔が見えた。

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