「じゃあ、改めましてよろしくお願いします」
蓮がそう言うと茶髪の人はニカッと笑った。笑うとなんだか可愛い。さっきとは別人みたいだ。
「俺は市川蓮といいます。こっちが荻野つかさです」
「はじめまして、荻野つかさです。よろしくお願いします」
「つかさちゃんね、よろしくお願いします」
「で、こちらが……そのぅ……」
蓮が言い淀む。
「はじめまして。折原勇治です。こっちが黒木眞生」
「え?」
「名前ないと不便だろ。適当につけたからこっちの世界ではこれで呼んでくれ」
ん? 黒木眞生って黒き魔王か! うわあ、なんの捻りもない。けどわかりやすい。じゃ折原勇治って……おりは……ああ、もしかして俺は勇者ってこと? なんだかなあ、こっちはもうちょっと……
「つかさ? どうした」
「あ! すみません。折原さんと黒木さんですね、よろしくお願いします」
「勇治と眞生でいいよ。よろしくな」
「はい。勇治さん、眞生さんよろしくお願いします」
「早速ですけど、ざっと移動プランをお話したいんですがいいですか」
「ああ」
勇治さんと蓮は二人とも顔つきが変わった。蓮の中から勇者が顔をのぞかせる。眞生さんは腕を組んだきり動かない。話は勇治さんに任せるみたいだ。
「あんたがリーダーなんだから合わせるよ。俺らのことは気にすんな」
「俺達二人はこっちで移動しますけど、向こうの世界を魔法使いがドラゴンで移動します」
「偵察か。一人でいいのか?」
「ええ、動き始めたんじゃないかっていう情報しかないし、ゴブリンが大挙して攻めてきて以来、全然動きがないし、だからちょくちょく向こうと連絡を取りながら行こうかと思ってます」
それに……と蓮はあたしをチラリと見る。
「ドラゴンの航続距離はそこそこ長いですけど偵察兼ねてますし、こいつのバイクまだそんなに走ってないから、できれば下道を行きたいんですよ。高速道路は余程のことがない限り使わないつもりです」
「わかった。あんたが頻繁に止まって様子見に行くんなら、こっちで待ってる間つかさちゃんと観光してもかまわねえな?」
「……そうですね」
「つかさちゃんはどう? 俺らとじゃ嫌かな」
勇治さんがあたしの顔を覗き込む。
「あたしはそもそもおまけなので。連れて行ってもらえるだけでありがたいです。悔しいけど、っていうのもおこがましいほど、あたしじゃ何の戦力にもならないですもん」
そう言ったあたしに勇治さんはニマッと笑った。なんか悪戯小僧が何か企んでるみたいな顔。
「そか、じゃあ俺は待機中のプランを練ってみるわ」
「よろしくお願いします」
蓮は何だか心配そうな顔でこっちを見てるけど大丈夫だよ。あたしだって留守番くらいできる。せめて足手まといにはならないようにしないと。
「一日、百〜二百キロ程度の移動で考えてますけどいいですか?」
「一週間から十日くらいでって計算だな」
「はい。異常がなければそのまま進みますので 、早くなることもあると思います」
「わかった」
「ざっくりした計画で申し訳ないんですけど」
「いや、俺の時よりよっぽどちゃんとした計画立ててるよ。ま、こういうのは出たとこ勝負だから。こっちを移動する間は楽しんでいこうぜ」
勇治さんの言う通りこっちの移動は楽しんでいけるようにしよう。蓮は心配や不安の方が多いんだろうし、せめてこっちにいる時はリラックスできるようにしてあげたい。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!