「そう言われても漠然としすぎてよくわからないな。こっちは相変わらず魔物を倒して魔王の城と追いかけっこなんだ」
《城と追いかけっこ?》
「ここの魔王の城、ふらふら動く」
蓮の言葉で二人の手のひら神様は顔を見合わせて頷く。
《どの辺りに城が動いたか覚えてるか》
「すぐに消えた気配もありましたし、私達の知っているものでよければ」
ラウールがそこここと示す先を確認していた神様達は、難しい顔で腕を組んだまま黙り込んだ。
《ちょっと話が逸れるが、前に俺達が本体のいる場所から動けないって言ったの覚えてるか》
「ああ、仕事だからって言ってたな」
《今回はその仕事絡みで出張っている。だが押さえは必要なのでな、どうしてもこの分霊サイズでしか動けんのだ》
「そういえば、あんた達の仕事って何なんだ」
《言ってなかったっけ。っていうか、神社の成り立ちとか祭神ってちゃんと書かれてあるけど見てないの? まがりなりにも一宮なんだけど》
軽い口調で聞いた勇治は経津主神に睨まれ、不勉強ですみませんと、だらだら冷や汗を流して小さくなった。その威圧感はさすが神様のものだ。
武甕槌命が苦笑しながらも掻い摘んで話してくれる。
この国の形が鯰に似ているのは気のせいでもなんでもなく、神様達の仕事はこの大鯰をがっちり押さえて暴れないようにすることだ。民の祈念を支えに神様達は力を振るう。
それでも最近は大鯰の力を押さえきれず、歯がゆい思いをすることもあったらしい。
《俺らも歳取っちまったからなあ。力不足だったよ》
あっさりとした言葉とは裏腹の苦い表情に皆言葉もない。そんな武甕槌命を見ていた経津主神は、振り向いて皆を見据えた。
《話を戻すね。海を渡ってから、どうも君達が行く先々で僕達の分霊が弱ってるみたいで気になってたんだ》
《ああ、それを確かめるためにこうして出張ってきたってとこよ。そこで、さっき城の出現した場所ってのを聞いたわけだが、やはり俺達の世界の分霊のいる神社に至極近い。そして、そこにいる分霊が尽く弱体化しているんだ。ここまで事例が重なると何か関係性があると思って間違いないだろう?》
頷きながら経津主神が言う。
《この世界と僕らの世界は妙に重なり合うところが多い。だから、ここで起きたことは向こうにも影響が出かねないんだ》
《誰かは知らん。だが、そいつのやってることは、ここを壊すことになるかもしれん。ここが壊れるってことは》
《向こうにも何かしら被害が出るんじゃないかって思う》
武甕槌命と経津主神の口から交互に出るのが事実なら、これは厄介なことになってきた。
「蓮……」
「ああ。正直、出発した時は魔物騒動の原因を突き止められたら、くらいだったんだけど、これはどうでも魔王を止めなきゃならない」
「……」
「どうした、ラウール」
蓮の横でラウールが首を傾げる。
「ちょっと思い出したことがあるんですが……あの魔王、城の出現は自分の気持ちが反映されているようだが、ランダムに出現するのでどこに出るかはわからないと言っていましたよね」
《どういうことだ?》
泉の中から武甕槌命が言う。
「わかりません。わかりませんが……もしかしたら、魔王が自身の意思で城を出現させられないなら他の誰かがやっている、と考えてもおかしくはないのかもと思ったものですから」
「それは……」
沈黙が降りた。
もし、それが本命ならば魔王は傀儡ということになるのだろう。だがそれは直接魔王にぶつけてみなくては解けない、もしかするとそれでも解けない疑問ではないだろうか。
「そう言われると確かにその線も考えなきゃならねえな」
「どうあれ、早急に魔王の所に辿り着くべきだ」
そう言うと、蓮は立ち上がり騎竜達の元へ歩いていく。
「どうだ、ニーズヘッグいけるか?」
『大丈夫だよ。出発?』
「ああ、少し急ぐ。お前達も飛べるか」
騎竜達は翼を広げたり頷いたりと、揃って同意の仕草をした。
「ありがとう」
蓮はニーズヘッグの頬を撫で、振り向くと勇治とラウールに言った。
「行くぞ。城へ急ぐ」
二人とも頷いて騎竜の元へ向かう。
と、向かおうとする勇治を泉の中の声が引き止めた。
《勇治くん》
「なんだ」
《そこの泉の水、持っていってほしいんだけど》
「水を?」
《うん、いざって時に話ができるといいなって思わない?》
「俺はいざって時じゃなくてもお話してえけどな。これって他の水じゃダメなのか」
《なんだ、普通に話せるではないか》
ニヤニヤと笑いながら武甕槌命が茶々を入れる。
《なあに? なんか変かしら》
「なんでもねえよ! それよりその水……」
《あ、そうだったわね。それは龍神の加護を受けた清浄なる泉水だから。他のだと雑音が酷くて使えないのよ》
「わかった。蓮じゃなくて俺が持ってていいのか?」
《ええ。あの子意外と周りが見えなくなっちゃう時あるから、あなたのほうが適任だと思うわ》
《よかったね、たくさん話せた》
経津主神にまでそう言われ、勇治は照れ隠しに乱暴な言葉を放った。
「うるせえ! じゃあな、行ってくるぜ!」
勇治は手を振ってアルの元へ走る。乗ると同時に蓮が飛び出し、残る騎竜も続いて飛び上がった。
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