Dragon Rider

〜ツーリング時々異世界〜
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Combat start

公開日時: 2020年9月25日(金) 10:19
文字数:2,473

「ラウール、魔王の城は東でいいんだな。一応場所を確認してくれ」

「……」


 返事が返ってこない。妙な顔で押し黙ったままだ。

 問いかけるように勇治の顔を見ると、やつも首を振って肩をすくめる。俺はつい、苛つくままに声を尖らせた。


「どうした?」

「先日こちらの世界に来た時は東から反応があったのですが……今は北に反応があります」

「どういうことだ。拠点がいくつもあるってことか?」

「そうかもしれません。もしくは」

「移動してるのかもしれない……か」

「はい」

「なんだそれ、めんどくせえな。眞生みたいに一ヶ所でじっとしといてくれればいいのに」


 勇治の言う通りだな。移動されるのはやりづらい。移動するとしてもそれに何か意味があるのか?


「だが、そういうものであれば仕方がない。北へ向かおう」


 ラウールが頷いて魔法をかけ騎竜が空を|翔《かけ》る。魔王の城に近づくにつれ作り物めいたおどろおどろしさが増していく。

 そして俺達は空中で敵に遭遇した。


《何だ、あれ》

《鳥……にしては数が多いですね》


 群れで飛ぶ鳥もいるからなんて思ってたが、近づくにつれて大きさがハンパないことに気づかされる。


《うおっ! でけえな! 何だよあの鳥》 

《……違う、鳥じゃない! ハーピィだ! お前んとこいなかったのかよ》

《いねえよ! あんな気持ち悪ぃの!》


 俺達が言い合っているうちにもやつらは近づいてくる。


《ど、どうすりゃいいんだ?》


 見たことのない魔族の襲撃で勇治が浮足立つ。


《足の鉤爪には注意してください。あれは毒爪です。ポーションは持ってますね?》

《おう!》

《ああ》


 頷く俺達を見てラウールは言葉を続ける。


《希釈していないフルポーションなので少量で効きます。爪にやられても慌てず対処すれば怖い敵ではありません。ただ……》

《ただ? なんだ、何かあんのか?》


 言い渋る口から返ってきた言葉で俺達はげんなりした。


《不潔なんですよ。汚物を投げつけてきたりしますので》

《マジかよ。なんで、あんな婆さん顔の鳥にンコ投げられなきゃいけないんだ》


 俺も魔族の情報を持っていないわけではなかったが、改めて言われるとなあ……

 ものすごく嫌だ。言ってる間にすぐそこまで来ている。


《とにかく! さっさと倒すぞ!》

《おう!》


 刀の鞘を払い突っ込んで一振り。数匹を切り飛ばす。

 勇治はと見ると、どうやら苦戦中のようだ。片手剣がいくら頑丈でも届く範囲は布都御魂より狭い。鉤爪にやられる可能性が高くなる。


《ラウール、勇治の援護を!》

《承知》


 勇治の頭上に群がるハーピィに突風が襲いかかる。風の刃で切り刻まれ地上へと落ちていく。


《助かった》

《大丈夫ですか》

《おう》

《魔法使えましたよね。これか雷撃が効くようです》

《わかった!》


 勇治が魔力を剣に纏わせると、それ自体がバチバチと帯電し始めた。


《蓮、雷撃かますからちょっと離れろ!》

《了解!》


 重力に引かれるようにニーズヘッグが垂直に降下する。 

 目の前から消えた俺にハーピィ共が狼狽えた瞬間、勇治の剣が振り抜かれ広範囲に雷撃が飛んだ。ラウールも追加とばかりに雷撃を放つ。

 ハーピィが身を焦がし胸が悪くなるような叫び声を上げてボタボタと地上へ落ちていく。俺はその間を縫って、残ったやつらを切り倒しながら上昇していった。


《引き上げていきますね。とりあえず撃退成功でしょうか》

《そうだな》


 去っていくハーピィを目で追っていると、勇治は地上を指さして言った。


《おい、あれどうすんだ?》

《あのまま放っておいても自然と魔素に還っていきますが……公衆衛生上はともかく、少々見苦しいですね》 


 そう言いながらラウールは杖を下に向けた。杖の先に輝いた魔法陣から高火力の炎が吐き出される。

 地上のハーピィが焼き尽くされた後を見ると、なんだろう……白く輝くものが散らばっている。降りていって拾ってみると純白の羽だった。


「これ何だろう」

「ハーピィの羽根のようですね。これは……浄化されたってことなんでしょう。綺麗ですね」

「うげっ! アレの羽根かよ」


 勇治が顔を顰めるとラウールがニッと笑って言った。


「羽根帚でも作りますか? もしかしたらマニアックな人達に売れるかもしれませんよ」


 そうなのか? うーん、元がわかんなきゃ綺麗な羽根帚ってことで売れるのかもしれないが。


「その辺の羽根、全部集めてくれ」

「あ、やっぱり売るんだ」

「おう。ラウールも言ってただろ、物好きもいるかもしれん」


 顧客リストを頭に浮かべているらしい勇治は、ブツブツ呟きながら集めた羽根を袋につめ荷物と一緒にしまう。

 そして、満足そうに言った。


「さてと、蓮! 出発するか」

「ああ」

「魔王の居場所も変わっていません。やっぱり北に間違いありませんね」


 ところがドラゴン達は俺達が促しても動こうとしない。


「どうした、ニーズヘッグ」

『何か来る』

「何か来る?」


 それを聞いてラウールはドラゴン達の警戒する方向へ索敵用の魔法を放った。


「ああ、これは……少々厄介な敵かもしれません」


 何だ? 何が来る。


「さっきの生き残りが呼びに行ったんでしょう。ヒポグリフです」

「あれのどこが厄介なんだ? 気位は高いが、わりと大人しい騎乗用の動物じゃねえか」


 勇治の所じゃその程度なのか。俺とラウールは顔を顰めて首を振った。


「勇治、お前の世界のやつと大分認識が違う。あれに無闇に突っ込むなよ」

「そんなにやべえのか」

「気位も高いですが、かなり凶暴です。あの嘴で抉られたらとんでもないことになりますよ。なにせ人肉がお好みのようですから」


 勇治は冗談じゃねえ、と自分の肩を抱いた。

 幸いこっちに向かっているヒポグリフの個体数はそれほどでもないらしい。


「勇治、戻って来てるハーピィを頼む。その間に俺とラウールがヒポグリフの相手をする」

「了解。アル、行くぜ!」


 上空で待機する勇治から通信が入る。


《とにかくお前らの頭にンコ落とされなきゃいいんだろ》

《それから離れろ》


 思わず笑ってしまった。


《お? 笑えるとは余裕だねえ》

《……るさいな、いつまでも落ち込んでられないだろ》

《ははっ! 安心したわ》

《そろそろ来ますよ》

《おう! こっちもおいでなすったぜ》

《じゃあ行くぞ!》


 さあ、戦闘開始だ!

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