翌朝。あたし達は、こっちの世界でも宿の人達に見送られて出発した。行き先は北。ラウールさんは刀を持って先に向こうで移動している。
《蓮様、もう少しで開けた場所に出ます。通路を開きますがよろしいですか》
《こっちは車両も少ないし問題ない》
《わかりました。では……》
草原とその草を食む動物。のんびりした光景が見える。
《その先の木陰に止めましょう》
《了解》
あたし達がバイクを止めて待っているとリンドヴルムが舞い降りてきた。
「お待たせしました。この辺りでどうでしょうか」
「ちょうどいいな」
武器を手に入れたものの使えなければ意味がない。
布都御魂は大太刀と呼ばれるサイズだから扱いが難しいのだそうだ。ただ稽古をするにしても場所が問題になる。先行してこの世界に来ていたラウールさんは、稽古場所を探してくれていた。
刀を佩きながら蓮は人の輪から離れる。足場を確かめると鯉口を切った。長い刀身が現れる。正面から振り下ろし青眼に構える。擦り上げ、胴を薙ぎ、袈裟に切る。一通りいろんな動きをやって、それを終えると刀を納めた。
「さすがに重い」
「まあ、そんだけ長かったらなあ」
「振れるけど抜刀も納刀も難しいな……とにかく長さに慣れないと。まだ重心が不安定で扱いづらい」
「へえ、居合とかなんとかいうやつ? 経験者なのか」
「少しだけやってた」
蓮は勇治さんにそう言うと、上段から振り下ろす。
「俺、しばらく型を稽古するから離れててくれ」
「了解」
勇治さんは稽古を始めた蓮を遠巻きに見ながら、眞生さんの横で呟くように言った。
「おい、あれに負荷かけられるか」
「問題ない」
「本人にわからないくらい少しずつな」
「……それは……問題だな。我の魔力量が多いのは知っておろうが」
「知ってるからだ。魔王様はそろそろ手加減とかコントロールとかそういうものを覚えたほうがいいぞ」
「むぅ……やってみよう」
勇治さんは眞生さんの胸をトンと小突く。
「頼んだぜ。このメンツじゃヒーラーになれんの多分お前くらいだからな」
「それは聞き捨てならないお言葉ですね」
ラウールさんがムッとして反論した。
「私ではお役に立てないということですか」
「すまん。ええっと、そういうことじゃなくて」
「では、どういうことでしょうか」
やっぱりこの人怒ると怖いよう。言葉は丁寧だけど、めちゃくちゃ怒ってるじゃない。
「た、例えばさ! あんたとかつかさちゃんとか、あいつが敵にやられて大怪我したらどうする」
「「敵を叩き潰す!」」
即答の上にハモっちゃった。あたしとラウールさんはお互いにガシッと手を握り合う。
それを見ていた勇治さんは頭を抱えてため息をついた。
「な、だからだよ。その性格の問題。ソッコーで後衛に下げて治癒魔法使えば被害は最小限度で済むかもしれねえのに、あんたら先に敵を潰しに行くタイプじゃねえか」
あ、そうか……あたしとラウールさんは肩を落とす。
「だからこのメンツなら眞生のほうがいい。どっちにしろこの世界じゃ眞生の攻撃魔法はさほど威力が上がらないらしいし」
「そうなんですか」
「ま、そうは言っても魔力量が多いからごり押しはできるみたいだけど、毎回それじゃあな」
へえ、魔力ってなんか法則に縛られるもんなのか。不思議……
不意にラウールさんの表情が変わった。どうしたんだろう。何かを決意したように二人を見る。
「勇治様、眞生様」
「な、なんだよ」
「私はあなた方のことを誤解していたようです。事情は伺っていましたが、やはり胡散臭い人達を連れて旅に出るなんてとんでもないと思っていました。ここまで蓮様やつかさ様のことを考えていて下さったとは。ありがとうございます。そしてすみませんでした」
「いや、気にすんな。俺達にはよくあることだしな」
勇治さんは苦笑しながら言う。
ラウールさんやっぱり警戒してたんだ。でも、それをまんま言っちゃうとこが大人気ないっていうか……
「つかさ様? どうかなさいましたか」
「いえ! 何でもないです」
え、笑顔が怖いよう。
「それより弓の引きを見て欲しいんですけど」
一人じゃなかなか難しくてとか言いながら及び腰で彼を引っぱっていく。
あたしの目は、やっぱり少しびくついていた勇治さんが親指を立てているのを視界の片隅に捉えていた。
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