水竜の湖から戻ったあたし達は、バイクを走らせて仙台に到着した。
宿に着くと待機していた村の人と一緒にラウールさんは荷物や装備の点検を始める。
あたし達は地図を広げ、ガイドブックやらインターネットの情報やら、あれこれ探して目星をつけていく作業に追われていた。
「武甕槌やユグドラシルと同じように、どこか縁のあるところにいるんじゃないかな」
「まずは有名処だろ。つか、こいつ縁の地多すぎ」
勇治さんがボヤくのもわかる。あたし達は印をつけた地図を見てため息をついた。
公共事業やら寺社普請やら地元開発に余念ないし、和歌や漢詩の教養、料理とか能とか多趣味だし。文武両道の奥州筆頭は杜の都の至る所に足跡を残してる。
「これさあ、どこまで絞ればいいんだ」
「瑞鳳殿と城址、八幡宮と五大堂はありかなって思ってんだけど」
「荒御魂ってのを持ってるんなら、つかさちゃんの持ってる和御魂と反応したりしねえかな」
「それが期待できるんならいいけどなあ」
思いついたように言った勇治さんの言葉に蓮は渋い反応をしたけど、あたしは少しだけ期待してる。なんとなくだけど……今はそういう感覚も大事にするといいような気がしてるんだ。
「俺と眞生、つかさちゃんとお前で別れて探索したほうが早くね?」
「だよな。ラウールは連絡係で待機。すぐ動けるようにだけはしといてくれ」
「わかりました」
二手に分かれてあたし達は町を走り出す。
坂を登って城址へ。復元された櫓や石垣の他は城の礎石だけが残っていた。そして観光客はいるけど独眼竜ぽい人は見当たらない。
はあ……どこでどんな人を探せばいいの。あたしは馬上から城下を見下ろす彼に問いかける。答えてはくれないけど、雲を掴むような話なんだから藁の一本くらい掴みたいよ。
「最初から見つかったら苦労はしないさ。瑞鳳殿へ行ってみよう」
「そうだね」
町は緑が多い。近代的な高層ビルにも緑が寄り添う。中規模のビルが並ぶ大通りでも公園や並木が連なる。昔はもっと木々が多くて森の中で人が生活してたような感じだったかも。
現代の人達が大事に育てているだろう木々の間を、黒のNinjaと赤のボルドールが走っていく。
瑞凰殿では杉並木に迎えられた。厳かな雰囲気の中、石段を登りつめた所に御霊屋がある。桃山様式の豪華絢爛な御霊屋には、眠る人を慰める天女もいて圧巻。でも、とても静かに感じる。
「やっぱり、ここにもいそうにないよね」
「お前もそう思う? 俺もここじゃない感じするんだよな」
一回りして駐車場へ戻る。行ってみようとしてる所はまだまだあるから地図を開いて次の目的地を探す。
「次どこ行ってみようか」
候補地はいくつもあるけど、なんだかピンとくるものがないって感じ。
「難しいね」
「この八幡宮行ってみるか」
「う……ん」
「どうした?」
「なんだかしっくりこない気がするんだよね」
「あー、わかる。来てみて思ったけど今回なんか違うんだよな。場所から探すってのが違うような気する」
「そう! そうなのよ。多分、今生きてる誰かを探すやり方にしないと辿り着かないんじゃないかな」
「かと言って、その人にもやり方にも心当たりがないのがなあ。やっぱり場所から虱潰しに当たるしかないかもしれない」
あたし達はうんと唸って地図を睨む。と、スマホのバイブが音を立てた。 蓮は画面を叩いてスピーカーをonにする。
「勇治だ……はい?」
《おー! お疲れ、どうだそっちは》
「どうもこうも。なんか違うんだよ。ハズレっぽいわ」
《ちょっと知り合いから情報もらったんだ。いい線いくんじゃねえかな。詳しいこと話してえから一回合流しようぜ》
「知り合いって誰だよ。そんなやつ知ってるんなら先に言えっての」
《いや偶然、武甕槌命に会ってよ》
「は?」
《それも込みで会ってから話すわ》
なんだかいい風が吹いてきたみたい。少しでも進展することを願おう。
「いやあ、松島って所まで足伸ばしちまったぜ」
「瑞巌寺の宝物殿も青龍の名がついていたので行ってみたのだがここは違うと思ったのだ」
「そんで次に鹽竈神社へ行ったんだよ」
席に座った途端、勇治さんと眞生さんが交互に話し出した。
あたし達とラウールさんは勇治さんから連絡を受けて指定された喫茶店に集合した。わりと大きな通りに面している場所だし駐車場が広めなのは助かる。レトロっぽい雰囲気の店内に二十人ほど収容できる個室が繋がっていてそこを借りたのだそうだ。
「塩椎神の他に武甕槌命と経津主神も祀られててさ。詳しい中身はこれ見てくれ」
個室空いててよかったわと言いながら動画を再生する。さすがに向こうの席でこれをやるのは、ちょっと他のお客さんに迷惑だもんね。
【「……何だ? これに向かって喋ればいいのか」
「ですです。一発で皆に話が通じるから楽でしょ」
「なるほどな。あー、武甕槌だ。お前ら旅は順調か? ちょっとこいつらに聞いたんだが独眼竜を探してるんだってな。俺達と違ってあいつは人に憑いてるから、神社とか墓とか行っても無駄だぞ。ああ、俺に辿り着いたんだから無駄ではないか」】
武甕槌命は豪快に笑った。この人こんなにくだけた人だったかな。
【「確か傍系の子孫に憑いてたはずだ。あいつ自身最後まで人生楽しむやつだったから今もそういうタイプの人間だと思うぞ。お? そうか! 俺もとり憑いていけば旅に出られるじゃないか。おい、お前俺に体……」
「……ふざけるな。とっとと出て行け」】
唐突に画面上の武甕槌命が眞生さんに切り替わる。
「あー、最後はグダってるけど、こんな感じで教えてもらったのがここ」
「なんで最後に眞生さんが写ってるんですか?」
「依代だから。さすがに神様単体で画面に写るとか無理っしょ。だから眞生に憑いてもらった」
「……大変に不快だった」
うわあ、本当に嫌そう。
「ちょいちょいここに来るって言ってたから今日が駄目でも二、三日通えば来るだろ。今日はとりあえず三時間借りたから少し粘ろう」
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