蝋燭の灯りが城の中を照らす。灯りのはずの炎は闇をより濃く照らし出していた。
コツコツと歩く影は、実物よりも何倍にも大きく揺らめきながら進んでいく。やがて辿り着いた扉は両側に控えた魔物達によって開けられた。
「島の様子を見せてよ」
自分の背丈よりも大きな椅子に深々と身を沈めながら小さな魔王が言った。
それを受けて背の高い男がパチリと指を鳴らす。同時に映画のスクリーンのように目の前に戦いの様子が現れた。
「湖に誰かいるね」
「水竜達だな」
「想定外だよ、何で来たんだろう」
「知らぬ。あれにはあれの事情があるのだろう」
島で戦う者達は互いに一人を相手取る。
「この魔法使い攻撃メインなのかな。ああ、あの大きい剣は厄介だなあ……ふうん、あなたのとこの勇者も結構やるね」
背の高い魔王、黒木眞生は、ほおと感心したように声を上げた。
「そのようだな」
「そのようだなって……あの勇者と戦ったんじゃないの?」
「いや」
「は?」
「彼奴とは戦っていない。戦わず手打ちにした」
椅子の上の小さな魔王は、はあぁと大袈裟にため息をついてみせる。
「……どんな事情だか知らないけどさ、あなた達って変わってるね」
「貴様にも同じ選択肢はあると思うが」
「僕? 僕は嫌だね。僕は勇者を倒して世界を手に入れる。それが魔王というもの、なんでしょ? そうしなきゃ生まれた甲斐がないじゃない……ああ、あなたは違うのか」
口をへの字に曲げ頬杖をつき、
「フン……ま、何でもいいさ。さてと」
そう呟いた魔王の目の前で、矢に貫かれた兵士ゾンビが黒い霧となって消えていく。
「これ、どうにかならないかな」
「どうにか、とは?」
「このお姉さん人質にしようかと思うんだけど」
「元々戦力外の者を人質にしても大した違いはないのではないか」
「それもそうなんだけどねえ。だから殺しちゃってもいいかと思ったんだけど餌にする価値もちょっとはありそうかなって。だから人質にでもとろうかと思ってさ」
「ふむ……」
「そしたら勇者のモチベーションは下がると思うんだよね。っていうか、これ、そこそこ戦力になってるよね。準備ができるまでもう少し時間がほしいなあ。そしたら、こんなのどうでもいいし、あなたもお払い箱さ」
小さな魔王が不機嫌な顔で言った。
「勇者の利になりそうなものは削いでおこう。あなたの次、二人目はこのお姉さんだね」
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