「なあ、頼むから機嫌直してくれよ」
俺は二ーズヘッグ、っていうか傍から見れば駐車場に止めたバイクの前に正座して話しかけていた。
『僕をおいて、ニヤニヤ笑いながら帰ってしまった人に何言われてもねえ』
「悪かった。俺の意思じゃなかった、って言っても言い訳にしかならないけど。本当にごめん。悪かった」
『あのちっちゃいモフモフの子達は可愛いかったけど、いきなり触りに行くのはどうかと思うな』
「つかさが見たら嬉しがるだろうなって思って、つい」
『あそこ魔王の領域なんだよね? なら、余計に一人の時に迂闊に触るとか駄目だろ』
「返す言葉もございません」
俺が話している横を、家族連れが足早に通り過ぎようとする。
「ねえ、ママ。あのおにいちゃんオートバイとおはなしてるよ」
「しいっ! 見ちゃダメよ。そっとしておいてあげなさいね」
「オートバイかっこいいね!」
「そうね、早く行きましょ」
「ぼくね、パパといっしょにライダーのえいがをみたの」
「……い、行こうか」
その子の母親が話題を反らして、何とか連れていこうとしていた。
こっちは謝るのと説教されるので、それどころじゃなかったんだけど……どうやら、ふれてはいけない人だと思われているようだ。が、なぜか父親だけは俺の方を見てうんうんと頷き、ぐっと親指を上げた。
「男にはなあ、好きなものと語り合いたい時や独りになりたい時ってのもあるんだよ」
「なあに、それ。あなたも独りになりたいの」
「いやいや! 趣味の分野に関してってことさ……」
もしかしたら何か勘違いしてるのかもしれないけど、釣られるように俺も親指を上げた。
父親はきらりと白い歯を輝かせ、すっと片手を上げると、家族を促しながらいい笑顔で去って行った。
それをうるうると見つめながら見送っていると、やけに低い声が聞こえてくる。
『蓮、僕の話は聞いてるのかな』
「はいっ! 聞いておりますっ!」
慌てて向き直り正座し直す。ニーズヘッグはまだ愚痴り足りないみたいだ。
説教は続くよ、いつまでも……
『もぉぉっ! 蓮、ちゃんと僕の話聞いてるのか!?』
読み終わったら、ポイントを付けましょう!