Dragon Rider

〜ツーリング時々異世界〜
kiri k
kiri

Depart again

公開日時: 2020年9月24日(木) 12:06
文字数:1,844

 俺は閉じられた空間の先を見つめたまま、なぜか動くことができなかった。

 つかさの存在は俺が思っていたよりもずっと大きかったんだろう。喪失感というだけじゃないごちゃごちゃの感情が渦を巻いて、どう反応していいかわからない。


「……い、……おい!大丈夫か」


 肩を掴んで揺さぶられ少しだけ気持ちが帰ってきた。


「ゆう……じ……?」

「おう! 俺だ。戻ったかよ」

「ああ……すまない」


 俺を小突いて突き放す勇治にぼんやりと返事をする。


「なあ、つかさちゃんがいなくなって寂しいのはわかるけどよ。もちょっとシャンとしろよな」

「そうだな。はっ! 今の俺を魔王が見たら喜んで潰しに来るんだろうな」

「わかってんじゃねえかよ」


 俺は閉じられた空間の先を睨みつけると踵を返して装備のチェックを始めた。唇を噛んだまま一人黙々と作業を続ける。

 勇治とラウールは顔を見合わせて首を横に振った。

 つかさがいたら、ああでもない、こうでもないって五月蝿いんだろうな。自分のことはおいといて俺にかまけて勇治に怒られて……


「おい」


 いつの間にか手が止まっていたらしい。ぼうっとしていた俺は勇治に胸ぐらを掴まれて……


「ラウール、止めんなよ」

「止めませんよ」


 殴られた。


「なあ、あいつ一人いないだけでこのザマってなんだよ。あいつ、結構ビビリなのにどれだけの思いで行ったと思ってんだ」


 わかってねえだろと勇治はため息をついた。

 わかってるさ。そんなことはお前に言われなくても十分過ぎるほどわかってる。


「出発は明日の朝としましょう。それからつかさ様のバイクはトゥロさんに預かっていただいたほうがいいですね」

「そうだな。ここに置きっばなしにはできねえし、荷物と一緒に預けたほうがいい。蓮、それでいいな?」


 同じようにため息をつきながら言うラウールの言葉。殊更のんびりと交わされる二人の会話も頭の中を滑っていく。


「あ……ああ、そう……だな。そうしてくれ」


 俺はそれだけ言うと動きを止めた。そしてポツンと呟く。


「悪い、覚悟して送り出したはずなんだけどな」


 依存してるとか、そういうわけじゃないと思う。だけど、呼んでも返事が返ってこないのがこれほど堪えるとは思わなかった。

 今までだって一人の時間はあったのに。それと何が違うっていうんだ?


「なあ、装備のチェックは俺達がやっておく。少し散歩でもして気持ち整理して来いよ」


 苛つきを抑えるように勇治が言う。後にして思えば、二人もまさかこれほど俺が落ち込むとは思わなかったんだろう。

 俺は頷いて部屋を出たけれど、その夜遅くまで戻ることはなかった。



 翌朝。


「フン、ちょっとはマシな顔に戻ったんじゃねえか?」

「うるさい」


 俺は小突かれた手を煩わしく払う。

 勇治は俺が払った手をそのまま拳にして目の前に突き出した。


「よし、じゃあ俺もサービスしなきゃな」

「なんだよ」

「ふふーん、見てろ」


 ニヤリと笑って拳を開くと掌の上で魔力の塊が踊っていた。


「おま……なんでそんなことできるんだよ! 魔力持ちじゃなかっただろ」

「ふっふっふ、これのおかげなんだなー」


 勇治は耳元で光るピアスに触れた。


「眞生がくれたピアスには、やつの魔力が込められてたんだ。あいつの魔力量からすれば微々たるもんだろうけど、ずいぶんと戦力を補強されたぜ」

「へえ、そんな効果があるのか。あれ? じゃあ眞生が大丈夫かって言ったのは……」

「俺がこれを使えるようになったのか確認したかったんだろうよ。後、ちょっと魔力酔いみたいな感じになったからな。あの時のラウール程じゃないけどさ。それも含めてのことだったんだと思う」


 そう言ってふんぞりかえったガキ大将みたいな勇治に、俺はやっと笑いを返せた。


「まあ、これで俺がさらに頼れる勇者様になったってことはわかってもらえたと思うが?」

「はいはい、わかってるよ。頼りにしてる」

「よし! じゃあ行こうか」


 俺達が互いに頷くと、ラウールはちょうど留守番の女の子にインカムの説明をし終わったところだった。


「では、使い方は大丈夫ですね?」

「はい!」

「何かあったら連絡はそれを使って下さい。それと転送用の魔法陣は設置したままで、必要な時に使ってかまいません。他に質問は?」

「とりあえず大丈夫だと思います。ここはお任せ下さい」

「よろしくお願いします」


 振り向いたラウールは、お待たせしましたと装備を手にした。

 部屋を出て駐車場へ向かう。


「先日の湖の近くに通路を開きます。あそこは調査済みですし、座標もわかってますから」

「わかった。行こう」


 俺達はエンジンをかけると目の前に開かれた通路に飛び込んだ。

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