Dragon Rider

〜ツーリング時々異世界〜
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Back and forth

公開日時: 2020年9月28日(月) 21:08
更新日時: 2020年9月28日(月) 21:12
文字数:2,392

「うおおお! やっぱなんか寒気がする」

「俺にうつすなよ」


 肩を抱いて大袈裟に震える勇治を見て、俺はわざとらしく口を覆って避けた。思いっきり渋い顔を返されたが、そんなことは知らん。


「風邪じゃねえ! と思う。それはおいといても……つかさちゃん何のこと言ってたんだ?」

「お前が聞かれたんだろうが。俺にわかるわけないだろ」

「眞生もつかさちゃんも、意味のわからんことを俺に振るんじゃねえっつーの」


 ブツブツ文句を言う勇治をいなしながら戻ると、ラウールはホッとしたような顔でインカムを外した。


「ご無事で何よりです」

「あの場所は眞生の居城で魔王の攻撃を心配しなくてもいいようだな」

「では、つかさ様と連絡を取ることも可能ですね」

「ああ、現状一番安全かもしれん」


 俺がそう言うと勇治はフンっと皮肉そうに鼻を鳴らした。


「お前ら、そんなにあいつを信頼していいのか。あいつの「こっち寄り」ってのもどこまで信用していいのかわかんねえぞ」

「それで攻撃されるなら、さっき殺られてただろう」

「そうですね。私でしたら連絡を取れることで浮き足立った、さっきの状況を利用します」

「そうか」

 

 それならいいと勇治は言って手を振った。

 こいつ、たまに懐疑的なことを言うよな。それを吹っ切ったように別の話を出してくるから、突っ込んでほしくない話なんだとは思うが。


「魔王の城の見取り図が手に入る。それと、城の出現時の連絡もな」


 ああ、ほらこれだ。そうやっていつも自分の中に踏み込ませない。

 もっと理解わかり合いたい。そう思ってるのは俺だけかもしれないけど、いつか、そう、魔王を倒せたらもっとこいつと話をしてみたいと思う。


 勇治が可能性の範疇なんだがと言うと、ラウールは大きく頷いた。


「手に入る可能性があるならよしとしましょう」

「お前も魔力が温存できるし、ちゃんと寝られるだろ」

「それ、俺も心配だったんだよな」

「お二人とも……」


 魔王の城が出現する時を捕らえるために、ラウールが無理をしてるのは俺も知っていたが休めと言っても聞かない。それなら休めるような体制をこっちが作ってやったほうが手っ取り早い。


「すみません、かえってご心配をおかけしてしまったのですね」

「どうせなら無理しねえで要所で力を使ってくれた方が、こっちも安心だし妥当だろ」

「ああ、その通りだな。俺が頼りないからだと思うが、もう少し自分を大事にしてくれ」


 勇治の言葉に頷いて、俺は改めてよろしく頼むとラウールに頭を下げた。


「そんな! こちらこそご心配かけてすみませんでした」

「さて、落着したところで今日は飯食って待機だな。ああ、そうだ! もう一個。魔王との契約は、上位の契約が確認できれば破棄することができるらしいぞ」


 飯だ飯だと言って立ち上がった勇治に続いて俺達も部屋を出る。


「確認……確認という事はすでに契約として成立しているけれども履行されない状態ということですか」

「俺は魔法に関してはよくわからん。それより俺には課題があるんだ。小難しいことは勘弁だ」

「課題?」


 立ち止まり振り返った勇治は、不思議そうな顔をする俺達に向かって、つかさちゃんの最後のあれだよと手を翳して彼女の真似をしてみせる。


「約束だか何だかを思い出せってさ」

「おそらく……それが眞生様と交わされた、魔王との契約より上位の契約ということなのではないでしょうか」

「んなこと言ったって、眞生と結んだ契約はそれこそさっきの情報提供料の約束とか、後は雇用契約くらいだぞ」

「個人的なことなら尚更、俺達にはわからないしなあ」


 こんなのはどうだとか、あんなのはどうだとか俺と勇治が話していると、難しい顔をしていたラウールがぽつりと言った。


「……古い……契約でしょうか」

「過去の仕事とかで一番古いやつってことか? そんな長い付き合いってもんでもないんだが」

「いえ、そうではなく……」


 ラウールが言うには、太古の魔法使いが作った様式だか形式だか? そんなのに拠った契約や約束は、後のどんな召喚や契約よりも優先されるのだそうだ。


「そんな条件付けが厳しそうな大げさな約束とか、した覚えねえぞ」

「うーん……とりあえず私はその線で発動条件をリストアップしてみます。もしかしたら当たりがあるかもしれません」

「悪ぃな、助かるわ」

「いえ、参考になればよいのですが」


 食事を終えて部屋へ戻ってきた俺達のところに丸めた紙が飛んできた。

 ひょいと避けた勇治にチッと舌打ちが追い討ちをかけていく。


「避けないでくださいよ! 当たらないじゃないですか」

「……つかさ?」


 通路の向こうから、投球フォームのままのつかさがこっちを見ていた。

 俺に気づいて全力で手を振ってくるのを見て、俺も手を振り返す。あっという間に通路は閉じてしまったが、元気な姿を見るのはホッとする。

 閉じる直前、勇治を見た途端に手を翳して眉間に皺を寄せたのはよくわからない。おかげで、残ったのが丸めた紙と俺恨み買うようなことした? とか呟いている勇治だけ。

 脳内のつかさの元気な姿が薄れるじゃないか。残念でしょうがない。


「なんだったんだ……」


 つかさの例のポーズに首を傾げる勇治を横目に紙を拾い上げる。俺はガサガサとそれを広げ、途端に目を光らせた。


「魔王の城が出現した。残り……十八時間か」

「なんだ? 出てすぐ教えてくれたわけじゃないのか」

「向こうにも都合があるんだろうから、そこまで贅沢は言えない。教えてもらえるだけ状況は改善されたんだ」


 それはそうだなと勇治が言った。


「行こう」

「はい、何とか魔王城に取り付いて城の情報を得たいですね。それが上手くいけば次は出現した時点で城に乗り込めます」


 そうか、今回の眞生のと逆のパターンか。それなら探す手間が省ける。そのためにも、とにかく城まで辿りつけなきゃどうにもならない。まずは動かなければ。


 俺達は騎竜を駆り、索敵したラウールの示す方向へと向かう。目指すは魔王の城。邪魔になる魔族は蹴散らしていこう。

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