「つかさ? おい、大丈夫か? つかさ!」
「……許さん」
「あ……やべ」
大丈夫なわけないでしょ! あたしのボルドールに矢を当てただとお! 言ったよな、あたしの大事なこの子に傷一つつけても容赦しないって言ったよな! 許さん。絶対に許さんぞお。
ぎちぎちと拳を握りしめる。
「ダメだ、聞こえてない。こいつ、最初の頃バイク乗ってて小石弾いた時みたいになってる」
『ああ、あれにはわたしもとまどった。ごしゅじんは、こいしにおこっていたからな』
「それだけお前が大事なんだろ。いいな、お前俺より愛されてんじゃないのか」
『やけるのか?』
「うるせ! こりゃ何か手伝ってもらわないと収まりそうにないかなあ」
怒りの目をゴブリンに向けるあたしの後ろで、蓮とボルドールの声がする。何? 何か問題でも?
蓮はため息と苦笑いをごちゃまぜにしてあたしに言った。
「おい、つかさ。聞こえてるか」
「ゴブリン共を殲滅する作戦なら聞こう」
「どこの魔王だよ……奴らの親玉を見つけたんだが、周りにいるゴブリンの数が多すぎて突っ込めなかったんだ。奴らの陣を斜めに突っ切って注意を引いてくれ」
あたしは顔を上げニヤリと笑った。それを見た蓮の顔が若干引き攣っているように見えたが気のせいだろう。
「増援も到着したらしい。こいつらが浮き足立ってる今がチャンスだ」
「ふっふっふ……我、推参なり! 行くぞボルドール、お前の最速を奴らに見せつけてやるがいい」
あたしが言うなりボルドールは急降下を始めた。物凄い勢いで大地が迫ってくる。
「吼えろボルドール!」
コオォォォォ!! っと甲高い咆哮を引きながらゴブリン達の頭上を横切っていく。
「いきなりかよ……行くぞニーズヘッグ。疾走れ!」
今度はニーズヘッグが、投擲された槍のように一直線にゴブリン達の指揮官へ向かっていく。
急角度で旋回したボルドールが再び蹂躙を開始する。
「ぅぉおお!」
蓮はゴブリンの指揮官めがけて剣を振り抜いた。視界の隅で血飛沫に混じった丸い塊が飛んでいく。剣から滴る血を振るい、蓮はまだやるのかと睨みを利かせた。
旋回しながらあたし達のドラゴン二頭は上空の高い位置で合流する。
「これで奴らは烏合の衆同然だろうな。壊滅も時間の問題だと思う。後はもう少し数が減ってくれればいいんだが」
「ボルドール、あんたの敵も取れたよね」
あたしは赤いドラゴンの首をぽんぽん叩く。
『ありがとう、ご主人』
憑き物は落ちたかと、あたしを横目で見ながら蓮は花火みたいな光の玉を打ち上げた。ポーンと弾けたその合図で響めく声が聞こえてくる。
「今度は本当にここで待ってろよ」
「わかった。約束する」
あたしは蓮に頷き返す。本当にごめんなさい。
「ボルドール、頼んだぞ」
クウッと鳴いて首を振ったボルドールを確認した後、蓮が降下していった。
「お前達の指揮官は討ち取ったぞ。そろそろ降参してもいいんじゃないか」
蓮の言葉でゴブリン達が戸惑う。戦おうとする者の間で、逃げようとする者達が出始め押し合いが始まった。混乱する戦場は徐々にこちらの兵が押していく。やがてゴブリン達は我先にと逃げ出していった。
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