Dragon Rider

〜ツーリング時々異世界〜
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道の奥へ

公開日時: 2020年9月18日(金) 16:20
文字数:2,467

 駐車場で見送ってくれた彼らと別れて宿へ向かう。町中でも緑の中を駆け抜けるのはやっぱり気持ちがいい。


「ねえ、蓮。いい子達だったね」

「そうだな」


 話しながら部屋へ戻ると村の人が帰るのと入れ替わりにトゥロさんがこっちへ来た。それほど長い間会わなかったっていうわけじゃないのに、なんだかとても久しぶりに会うような気がする。それはトゥロさんも同じだったみたい。


「勇者……蓮様、お久しぶりです。ご報告に参りました」

「聞こう」

「まず、第一の宿は引き払い、荷に関しては蓮様のお部屋と村に戻しました。物資は再度調整して以降の宿に送ります。それからゴブリンの奇襲についてですが、以前の襲撃箇所の北寄り、隣村に近い場所が襲撃を受けました。装備も充分整えておりましたので撃退致しましたし、今後も警備を強化致します」


 それを聞いて蓮は苦い顔になる。


「嫌な状況だな」

「はい、以前はあまり集落に近いところには現れませんでしたからね。私達も警戒を厳重にしております」


 トゥロさんと蓮が話し合っている所へラウールさんが戻ってくる。


「トゥロさん、お久しぶりです。先日魔物の奇襲を受けた町のことはお話しましたよね。その町の者から連絡が入り、席を外しておりました」

「町の者はなんと?」

「魔物を挑発したなどということがあったわけではなく、襲撃の理由に関してはわからないようですね。今後に関しては、警備隊強化のため組織編成を見直すとのことでした」

「そうですか。それにしても……なんだかとても攻撃行動に波がありますね。攻めてくるというより突発的に暴れている感じがするのですが」


 それは確かに思った。襲撃も無く静かだと思っていたら突然襲ってきたんだもんね。


「うーん、こうなると、先日眞生様が言っておられた赤子の癇癪、というのがしっくりきますね」

「なんですか? それは」

「魔族の攻撃行動は、魔王の感情に触発されることがあるのだそうです。赤子の癇癪で、というのも有り得ることらしいので」

「なるほど、赤子の……ウチの二歳の娘もよくむずがるので、そこはわかる気がします」


 自我が目覚め始めた頃の子どもと同じなら、落ち着くまでしばらくかかるだろうし、仮にそうだとしたら、こういう散発的な攻撃が増えるってことなのかなあ。


「だが、そう決めつけてしまうのも危険だ。可能性の一つとして心に止めておこう」


 蓮がそう言ったのを潮にトゥロさんは立ち上がった。


「俺達は明日出発する。後を頼むぞ」

「はい、お気をつけて」


 トゥロさんが帰った後も、蓮はラウールさんと話し込んでる。

 邪魔しないようにそっと部屋を出たあたしは、勇治さんを探して呼び止めた。


「どした? なんかあったんか」

「勇治さんってお知り合いに弓道経験者がいたりします?」

「んー、いないこともないけど」

「もしかしてその方のご都合がよければ、あたしに弓教えてもらいたいなって思うんですけど……だめでしょうか」


 勇治さんの目がすうっと細くなる。


「これから戦いも多くなってくるんですよね。だから、いざっていう時に少しでも役に立ちたくて」

「それ、あいつ知ってんの」

「いえ。言ったら反対される気がするから」

「だよなあ、俺あいつにボコられんの嫌だぜ」

「お願いします。あたしものんびりお荷物になってるだけじゃいけないと思うんです」


 あたしがそう言うと勇治さんは困ったように頭を掻いた。


「はあ……そこまで言うんなら当たってみるけどあまり期待しないでくれよ」

「ありがとうございます」


 じゃあなと手を振る勇治さんの背中に向かってあたしは頭を下げた。




 翌朝、あたし達は二組に分かれて北上することになった。

 蓮とラウールさんは向こうの世界で、あたしと勇治さん、眞生さんはこっちで。


「昨日も言ったけど向こうの様子が気になる。偵察は俺とラウール、二人で行くからお前達はこっちで移動してくれ」


 頷くあたし達を見回すと蓮はバイクに跨った。


「つかさ、無理すんなよ」

「うん」

「ちゃんと勇治達の言うこと聞けよ」

「わかってる。あんたも気をつけてね」


 言うこと聞けって……あたし子どもじゃないわよ。でも心配してくれたのは、ありがと。

 宿の敷地を出てすぐに通路を開いたみたいで二人は早々に姿が見えなくなる。


「んじゃ、俺達も行こうか」

「はい」


 返事したあたしの肩を勇治さんはからからと笑いながら叩く。


「なあに緊張してんだよ」

「き、緊張なんてしてませんー!」

「気楽に行こうぜ、あいつらも何かあったらすぐ連絡くれるだろうからさ」


 デュークの力強い駆動音が響き出した。振り向くと眞生さんが頷いてヘルメットを手にしてる。

 ニッと口角を上げると勇治さんはR1に跨った。


「まずは動こう。そんで状況を見極めながら行くんだ。心配し過ぎや考えすぎは、つかさちゃんにゃ似合わねえよ」

「それってあたしがアホみたいじゃないですか」

「いやあ、そんなこと言ったか? 言ったか!」

「もうっ!」

「つかさ」


 眞生さんったら何よ。


「何ですか!」

「乗らないなら置いて行くぞ」

「え?」


 そして眞生さんはゆっくりと動き出す。


「え?」

「そうだな、乗らないなら置いて行くか」

「え? ちょっ……」


 勇治さんまで! やだもう、二人とも待ってよ。あたしは慌ててバイクのキーを回した。


《とりあえず4号線基本にゆっくり行くぞー》

《うむ》

《はい!》


 走り出したあたし達は北へ向かう。


《勇治》

《なんだ?》

《つかさの扱いがわかってきた気がする》


 眞生さん? インカム入ってるんですけど! どういう意味かなっ。


《そりゃよかった。面白れえよな、こいつ》

《うむ》

《あの……お二人ともインカム入ってるんですけど》

《おお! 忘れてたわ》

《忘れてないでください! あたしだってデリケートな乙女なんですう!》

《な、面白れえだろ》

《つかさ》

《なんですか!? 眞生さん》

《忘れているわけがないであろう》


 わざとかー! すぐのせられるあたしも残念過ぎるけどさ。くっ、残念過ぎて泣けてくるぜ。


《もういいです。いいです! 楽しんで行きましょー!》 

《うむ》

《ようし! 飛ばすぜー》

《そこは安全運転でしょ!》

《へーい、気をつけまーす》


 北へ。あたし達は北へ向かう。

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